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オブリ研 : "The Girl from Ipanema"(4)

 1: 曲について
 2: 作例Oさん(tb)
 3: 作例Mさん(tb)
 4: 作例Fさん(tb)   ←Now
 5: 作例私(tb)

Index

さて、次の作例にまいりましょうか。
四国でがんばってらっしゃるFさん。

Fさん作例

Fig.1a "Ipanema" by F take 1 (G clef)

これは……一言でいって、マッチョな譜面ですね。
色々言いたくなるところもありますが、おもしろい軌跡です。
実践派のFさんらしい。と思う。ただ、口ごもるのは冒頭です。後述。

Aパート

Fig.2a "Ipanema" A by F take 1

いきなり!
1小節目の冒頭のハモりがBbです。これなあ…。
Fmajor7でこの11thのBbの音は、基本的にはAvoid Noteと言われるやつ。
ただ、コードを無視してメロディノートに対するIntervalとしては悪くないのも事実。
ただ、Fmaj7にBbがあると基本的には別のサウンドを考えざるをえません(たとえばFsus4とか)そしてその音をまさか冒頭で出してくるとは……
て感じ。

というわけで、すいませんここの音はAにさせてください。
詳しくはまとめで後述します。

3小節目。これはいいと思います。
まあ代案は「教科書的に」な感じなので、G7+11の+11を強調してC#を使い、またホールトーンっぽい音列にしました。単に好みです。
5小節目。Gm7ですが、Abの音(-9)が効いた、ビターな感じになってます。これはかっこいいので、このままいっちゃいましょう。しかし普通に慣らしているリズム・セクションからは結構ぎょっとされると思う。
その次の半音進行の6小節目はG-F-E。着地点はメロにかぶるし、むしろコードトーンのダークさがほしいのでG-Gb-Fとしました。
7-8小節はベースっぽい5度の動きをボサノバっぽいシンコペーションで。
なんとまあ、忙しいオブリですね(笑)
でも、オブリガートは、メロディに寄り添ったり、リズムセクションに寄り添ったり、色々なバリエーションを考えると楽しいですから、間違っていません。

Fig.2b "Ipanema" A by F take 2


Bパート

Fig.3a "Ipanema" B by F take 1

Bパート……全く別のアルペジオがでてきました。
これも音的には悪くないですが、2小節目に+11のB。これも結構攻めている音使いです。3小節目のBbはG+9とまたすごいテンションコード。
別にテンションが行けないとはいいませんが、単音のオブリでは、統一感を形成するのが難しい「間違ってる」と聴こえるリスクは多分にあります。

「攻めてる」と「間違ってる」は紙一重です。
「間違っている」と思わせないためには、一貫性をもたせることです。
小難しい理屈でも、それが続いているのなら「ははあ、これはわざとなんだな」というふうにとらえられがち。

なので、一貫性をもつように少し変えてみましょう。
Aパート最後の5度のベースラインっぽい動き。これを続ける。
1小節目と3小節目の動きを5度に。
そうするとAパートからコンセプトを継承しているように聞こえます。
また2小節目+11の音使いですが、3小節目の伸ばしも同じく+11のC#にそろえます。統一感があると「わかって攻めてる」感がでてくるから。
5小節目のEbはメロディのEと結構きわどい感じにぶつかります。6小節目のEはメロとかぶります。少し衝突が多いので、6小節目のEをCとし、その前段をEb-Dbとしました。

6-8小節は特に変更なし。「めっちゃ吹くやん」とは思うけど笑。
けどここはメロディーのデッドポイントですから、見せ場にしてもいいでしょう。

Fig.3b "Ipanema" B by F take 2

Cパート

Fig.4a "Ipanema" C by F take 1

Bパート最後で暴れてたけど、ここでは、めちゃくちゃ貞淑にメロディに寄り添っています。いいですね。
Bメロってめっちゃ難しいけど、みんな比較的きちんと作り込んでますね。音使いもいいです。
Fさんは基本メロディに添わせてハモってます。
一段目:メロの短三度下
二段目:メロの完全4度上
三段目:メロの完全4度上
ですね。2拍3連は動き少なくコードトーンに添わせています。
これもうまいですね。メロは2拍3連全音で動くけど、オブリは半音で動くので、Intervalがかわり表情が変わるのが、いい。
1段目3小節目4小節目にはメロディのデッドポイントにひとフレーズおいていますが、その後消えているので、2段目にも同じようなフレーズをおきました。(3段目はその次が忙しくなるのでカット)
4段目。前半は半音進行。3小節目はBの音を強調していますが、コードトーンからいうと必然性に欠ける感あり。各小節のトップノートをF-E-D-Dbと下がっていく形で配置しました。

Fig.4b "Ipanema" C by F take 2


Dパート

Fig.5a "Ipanema" D by F take 1

ここは、特に変更なし。少しクールダウンした風情。
お疲れさまでした。

Fig.6 "Ipanema" by F take 2

まとめ:

かなりの力作です。反面、吹きすぎ感もあるっちゃある。
Aパートのオブリが、アドリブソロ?といわんばかりに奔放ですね。
一方、Bメロ(Cパート)では、きっちり美しくメロディに添わせてキレイなコードワークを奏でており、AメロとBメロの対比が効いています。

最大の問題は、冒頭のFmaj7でBb音なんですわ。
「なんちゅうことしてくれたんや…」と言いたくなります。
これ、運転免許の卒検だったら、脱輪で即退場級の減点です。音大ならね。

ただ、そういう常識をとっぱらって、Bbのハモりが絶対にいけないか?  と問うと、これが、絶対にダメか?
案外かっこいいような気もする。メロディーに従属する下方倍音列、みたいに考えてBbも、ひょっとして悪くはないんじゃないか……と思える危うい魅力があります。
例えばサドメルのビッグバンドで、クラスターサウンドみたいな、同時にいくつかのコードが鳴ってるサウンド。そういうサウンドの方向性として検討には値する、とは思います。

ただ、この一音があるだけで、機能和声ががらりと変わってしまいます。冒頭でいきなりこの手の過激なサウンドかまされたら、
刺激的ととるか「間違い」にとるか…というところではありますね。
「攻めてる」と「間違ってる」は紙一重です。

出会った最初は常識人だけど、付き合いを深めるにつれて少し危うい「やんちゃ」な面を見せる、とかならいいんですけど。最初から「やんちゃ」は。

例えば一夜を共に明かして、普段は見えない場所に入っているタトゥーに気づく……とかならいいけど、けど、初対面で腕まくりした袖からがっつりタトゥー見えてたらドン引きじゃないですか。そんな感じ。

ただBbを良しとするサウンドで引っ張ったら、どうなるだろうか?
と興味が湧く冒頭です。ほら恋愛映画でも、初対面印象最悪のところから結婚までいくやつとかあるじゃないすか。

例えば、こんなコード進行でリハモしてみた場合は、Bbはインサイドにはなります。

これなら、冒頭Bbでキレイにサウンドすることはできると思います。ただこのサウンド、そんなにかっこよくはない。

トロンボーンでオブリガートを行うこと

オブリガードは、リズム・セクションの形成するサウンドの上にテーマメロディが乗っているそのサウンドの中に、第三軸を形成します。

当然、主役は主旋律。
オブリガートは、テーマの脇に回ることが求められるが、むしろリズムセクションの側に回ってテーマを引き立てる場合もあります。

特にトロンボーンは、サッカーでいえば、フォワードというよりはミッドフィルダー的なスタンスなんですよね。サウンド的には。
そもそも、他のフロント楽器よりも一歩下がった立ち位置なんですよ。

なので、あくまで他のメロディ楽器が「敢えて」脇に回って対旋律を奏でるのとは違って、トロンボーンのオブリガートは、サウンドの中で色々な役割を演じやすい感じはあります。その意味でいろいろな「トロンボーンしぐさ」がオブリに向いているとも思う。

今回のFさんの作例は、どちらかというと、そういうトロンボーンっぽい控えめさが、いい意味で少ない。フロント楽器として、戦ってきた感じが、作風に反映されていると思います。

しかし、それ故に他のフロント楽器が陥りやすい欠点を含んでいるように思います。ソロっぽい感じになってしまうとか。
添削をしてはみましたが、上手に彼女自身の持ち味を活かせてないんじゃないか、とは思いました。冒頭のBb音も含めて、作例にある「勢い」をうまく制御しきれていません(僕が)。


おまけ:音源

修正前の音源

修正後の音源です。

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