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この街の暮らしは

よし、いまのうち。
ビニール袋をみっつ抱えて、家から出た。

缶と瓶の回収日。
いつもはビニール袋ひとつ分の缶だけ、なんだけど。
先週は三が日で回収がお休みだったから、今日はふたつ。
あと、年末の掃除で発掘された謎の瓶を入れたふくろを持って、歩き出す。

いまの家については、気に入っている箇所のほうが多いけれど、
「ゴミの集積所が遠い」は、なかなか厳しいマイナス点だった。
かつて同じ物件に住んでいた、という友人も「あれでしょ? ゴミ出しが大変な家でしょ?」と言っていた。
晴れていたらべつにいいんだけど。

この家と、この街を愛している。

「街全体が灰皿みたいだ」と、彼は言った。
それは、大層な悪口みたいに聞こえるかもしれない。
確かに灰皿とベンチが多い街だった。
なんとなく雑多で、あんまり周りに興味がなさそうというか、比べることを美徳としていない。だから気ままだった。
息のしやすい街だ、とわたしは思う。
もっと広い家に住みたい、とは思うけれど、この街からは出たくない。

ゴミ集積所には、いつもより多めの瓶が転がっていた。
缶は、そうでもなかったような気がする。
長期休暇になると、この街のゴミは少し減る気がする。
たぶん、みんな帰る場所があって、帰ってゆく。

瓶の多さには驚いたし、なによりその内容に笑ってしまった。
同じラベル、20本以上の栄養ドリンク
日本酒の瓶が、がさっと10本
入り切らなくして、下のかごも埋まりきっていて

ああ、みんないろんなお正月を過ごしたんだな。

この街にいなかった人もいれば、
日本酒を呑んだくれた人もいて
気合いを入れて栄養ドリンクを飲んだかもしれなくて
もしかしたら、賞味期限切れで捨てたのかもしれない。
うちみたいに、ちょっと派手に掃除をしてみた家も、あるのかもしれない。

ただ、それだけのことが妙にやさしく、勇ましい気持ちにさせてくれた。

おかえり。
わたしが言うのもなんだけど。
わたしはずっと、この街に借り暮らしをしているみたいで、賃貸マンションで、血の繋がりも成約もない家族とふたり暮らしで、何年か前にようやく住民票をこちらに動かした。ただ、それだけのわたしだけれど。

おかえり
この街の暮らしは悪くないよね。

べつに笑顔であいさつするわけじゃないけれど
君がもし、どこかで楽しそうにほほえんでいたら、それを見つけることができたなら
「よかったね。よい暮らしだね」って、
他意なく見送れるような、
そんな街で、そんなわたしで、これからも暮らして行けますように。

わたしは、ゴミ集積所に願ってしまった。




【photo】 amano yasuhiro
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