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安くしとくよ

「店のお客さんでさ、仲良くなってもらった人のとこ、行こうと思って」

ドッグフードを売っている英太郎は、笑顔で言った。
ちょうど、美容院の話をしていた。

「犬飼い始めたばっかりでさ、いろいろ知識がないから教えてもらえて助かったって言われて」

で、そのひとが美容師だったらしい。
なるほど、良いご縁だ。

「すげえ安くしてくれるって言うから」

そして、英太郎はもう一度笑った。

「え、そのひとのところいくの?」なんて吐き出しそうな言葉を飲み込んだ。

ほんとうのほんとうのことを言えば
わたしがこのあいだ紹介した美容師のところには行かないのか?とか
こっちは安くない金払ってるのに。とか
そういう勝手なこともあったと思うけれど

安くしていいのだろうか、とも思ったのも事実だ。

お世話になったから安くする。
そういうふうにサービスされたら、こっちも次は「お世話になったからサービスする」を返さなくてはいけないような気がしてしまう。
うーん、ケチかなあ。

あのね、英太郎の仕事は決して「安くなかった」と思う。
そう伝えたかった。
そして英太郎の長くて美しい髪は、「安い仕事」なんかに切って欲しくなかった。
というのは、わたしの勝手なのはわかっている。

正規の値段でやり取りしないことっていうのはよくあって。
定期購読だって安くなる。
「うちで買ってほしいから安くする」だったら、なんの疑問も持たなかった。

「サービスしとくよ」ならよかったのかな。
それだったら、「おまけをあげる」みたいなプラス要因の選択肢も含まれる。

例えば、
お世話になった人相手に、ユーミンが安く楽曲を提供したならばちょっと寂しい。
スガシカオが、復興支援という名目で曲を作っていたのは理解できるのだけれど。

ほんとうは、紹介した美容師のところへ行って欲しかっただけかもしれない。




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