ひまをためこむ
「よく眠れている?」という問いにも
「食欲は?」の確認にも、「問題ないです」と力強く答えた。
いつもは無愛想なおじいちゃん先生が「声にハリが出てきたね」と言ってくれて、嬉しかった。
「ひましてない?」と尋ねられた、その理由は今でもよくわからない。
前回「元気になるといろいろやっちゃって、また具合悪くなって」という話をしたからだろうか。6割で稼働しろと言われた。
「6割稼働にしたら、ひまになっていないか?」とか、「また忙しくしてんじゃないだろうね?」という確認だったか、わからないけど、そういう感じなのだとは思う。
「ちょっとひましてます」と答えた。
“ライザのアトリエ”50時間を10日ほどでクリアまで駆け抜けて、締切のある仕事に取り組んで、それが終わったところだった。
次の執筆が、あるいは”ライザのアトリエ2”を始めるか。
ブックオフで買ったエッセイも読みかけで、蔦屋書店で買った小説は、きれいにカバーをかけてもらっただけで、まだ開いていない。
大切にしよう、と思って何もできていない。
結果的に、ひまだった。
千年を生きるエルフのように、過ぎゆく日々を静かに眺めていた。
「起きていられる時間と、具合のいい時間が増えたら、ちょっとひまになっちゃって」
状況を説明するように、そう付け加えた。
「ひまを、溜め込んでくださいね」
先生は静かにそう言った。
わたしは驚き、静かに空間を、漂う空気を確かに飲み込み、頷いた。
「ぜんぶ、使っちゃうところでした」
そろそろ、次の執筆を、”ライザのアトリエ”を、楽しみにしていた読書を、散歩を、しなければならない。と思っていた。
ひまは、全部使い尽くさなくては、と。
「溜め込んでください」
先生は静かに、笑って確かにそう言った。
朝8時、目覚ましを止める。
ずいぶん早めにつけた目覚ましで、まだまだ時間に余裕がある。
起きてから、あれこれやろうと思っていた。
三月の終わりに、冬用のシーツと毛布を引っぺがしてから、この部屋はすっかり春の陽気になった。
Tシャツに、羽毛布団を丸め込む。
洗ったばかりの、ただ白いシーツのうえ。
目覚ましの「スヌーズ」ではなく「停止」を選択する。
ひまをためこむんだ。と、自分に言い聞かせて。
人生にはそんな時間が必要なのだ、確信して。
四月の朝、怠惰を優しく抱きしめている。
▼夜眠れないひと、このゆびとまれ
(おしゃべりしましょう)
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