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いちごミルクの夜

「あっ」と声には出さず、心臓だけがざわっと動いた。
ああ、お湯も沸かして準備万端だったのに。
今晩はどうしても、ミルクティーのきぶんだったのに…

チョコレートフレーバーの、ティーバッグは残りひとつ。

ひとつじゃだめなの。
わたしはいまから、お気に入りのティーサーバーにたっぷりとお茶を淹れるの。
少し飲んで、残りは冷蔵庫に。
それから継ぎ足すように飲み続けることも、朝の分のお茶があることも、用意された幸福の物語だった。
だから、ティーバッグはふたつ必要だったのに。

どうしても諦めきれなくて、紅茶の箱を漁る。
残りは、フルーツ系ばかりだったような気がする。
白桃、巨峰、アルフォンソマンゴー、カシスとベリー
ぜんぶ大好きだけど、わたしの望むミルクティーにはたどり着けない。

最後のひとつは、いちごだった。
わたしは、にんまりする。

いちごミルク、という言葉があるじゃないか。
ああ、なんて美しいんだろう。

お茶を蒸らしながら洗濯物を干しているあいだも、うっとりとしてしまう。
いちごミルク、お茶だけど、いちごミルクがわたしを待っている。

多めに入れすぎてしまったお湯を少しこぼしたって、もう気にしない。
お気に入りのマグカップに牛乳を落とす。
それからたっぷりと、紅茶。

「そう、これですよ」
ひとりなのにまた笑って、
今日もささやかで幸福な、すてきな夜が始まってゆくのだと確信した。




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