見出し画像

自分の価値を、信じた人

毎朝、Voicyで税理士の大河内先生と、キングコングの西野さんのお話を聞いている。
これが、わたしの目覚めになる。

このあいだ大河内先生が、「クリエイターの値付け」の話をしていた。

詳細についてはこの記事をご確認ください。
そして、わたし自身の値付けについての思いや感覚についての話は後日

大河内先生は「基本的に、値下げはするべきではない」とお話していたけれど
(誤解がないように、詳細について気になる方は大河内先生の記事やVoicy、覗いてみてくださいね)
今日は「値下げをしてもらったときの出会い」の話
わたしは、大河内先生の話を聞きながら、この日のことを思い出していた。

もう、4,5年前の話になる。
表参道にあるオフィスで働いていた。

なぜだか覚えていないけど、その日は仕事を半日で終えて帰った。
あのときから「必死に毎日働くことの意味」を考えていたので、
特に理由は持てなかったけど、「仕事をしていない時間を作ってみよう」としたんだと思う。
半日で仕事を終えたところで、特に用事はなかった。ということは覚えている。

表参道か、原宿か
あのあたりを、ふらふらと歩いていた。

男の人に声をかけられた。
美容師さんのキャッチだった。
東京に出てきてから、美容師さんと名乗る人には何度か声をかけられたことがある。
わたしは背が低く、黒髪だし
子供っぽく、なんとなく「引っかかりやすそう」に見えるんだろう。


勝手な思い込みで大変恐縮なんだけど、
そのときまではずっと、断っていた。
怖かった、というのもあるけど、髪を切ることも面倒だったし、あんまりお金をかけたくなかった。

そのときのわたしは、
「美容院嫌い」から、「美容院には定期的に行く」というレベルまでは成長していたが、
髪を切ることに、そんなにお金をかけたくないという気持ちは変わっていなかった。

そんな中で、人生で初めて「自分の髪をこの人に任せたい」と思った美容師、加藤さんに出会っていたんだけれど
加藤さんは、東京を離れてしまい、彼女の旅立ちを祝したい気持ちもありながら、非常に意気消沈していた。
加藤さんじゃないなら、誰でもよかった。
仕方がないから、家の近所の美容院で髪を切ってもらっていたんだけど、「ああ今日の人はハズレだなあ。まあ仕方ないか」と思って過ごしていた。
たしか、この日の1週間くらい前に「ハズレの美容師さん」に切ってもらっていた。


「自分は本当は、5000円でしかカットを受けないんだけど、今日は時間が空いてしまった。
 特別に、3000円でどうですか?」

という誘い文句だった。

今まで、そういう話に食いついたことはなかったけど、「食わず嫌い」だったかもしれない。
その時初めて、そんな風に思えた。
髪を切るのに5000円は払いたくないけど、3000円ならいっか。
当時のわたしの金銭感覚に沿う提案だった。

その美容師さんは、マリオと名乗り、その名前も気に入った。
そして、お店の名前が、友達の作った曲と同じ名前だったことも、わたしの行動を後押しされた。
わたしは、マリオについていくことにした。


マリオは、確かに近所の美容師と違った。
美容院でのわたしは「処理が面倒にならない程度に、量を減らして欲しい」と要求する。
毛が太く多い。でも、量を減らして軽くなるとハネてしまうので、「適度に」というのが大切だ。

1週間前に髪を切ったばかりなのに、
マリオは、ばさばさとわたしの髪を切った。
本当に気持ちのいいくらい、ばさばさと

まだ、こんなに切るところがあるんだと、驚いた。

当時はバンド活動をしながら、少しもやもやしていた。
大切なものを、見極められずにいた。
二十代の中頃を過ぎ、三十になる手前。
踏み出しきれず、捨てきれなかった頃のわたし。

そんなわたしの葛藤を、ばさばさと切り落としてくれている。
ああ、要らない部分は捨てちゃえばいいんだ。
そしていま、この人がその幾つかを、切り落としてくれている。
そんな風に思ったことを、今でも覚えている。



頭はすっかり軽くなったし、
自分の顔を見て「似合わない」とか「ブサイク」と思わずにすむような形にしてもらえた。
わたしはすごく、満足した。
美容師さんって、やっぱりすごいと思わせてくれた。


残念ながらその後、わたしはマリオのお店に通うことはなかった。
やっぱり、髪を切るのに5000円は払えなかった。
ただ、それだけの理由だった。

たぶん、3000円でずっと切ってくれると言われたら
わたしは、ずっとこの人を指名したと思う。
してくれた仕事に対しては、すごく満足していた。とてつもない充実感だった。
5000円の価値は、あったのだと思う。

でも、その頃のわたしは、
「自分自身に課金すること」や「推しに課金すること」というお金の概念が、あんまりなかった。
だから、もう一度あの店をくぐることが、できなかった。


いまでは、だいたい1回に5000円くらい払って、美容院に行っている。
人生でふたりめの、「この人の自分の髪をお願いしたい」と思える、担当の美容師さんに出会えた。
もう、3年以上お世話になっていると思う。


あのとき、マリオに払った3000円は、わたしの勇気だった。
当時わたしは、2000円弱くらいで髪を切ってもらっていたのだから。
そして、お金を使うことを、いまよりずっとずっと恐れていた。
ずっと、給料日払い手渡しで働いていたわたしが、口座にまとまって給料をもらえるようになって、1年も経っていないころの話だ。

いまでも、このときのことを思い出す。

お金の価値や、値付け
マリオは自信があったんだろうと思う。
もちろん、暇だったのもあると思うけど
「次は5000円でもカットにきてもらえる」という、その自信
そして、「普段は5000円だけど3000円にする」というお得な値下げ提案。

彼は、わたしにとって「お金と値付け、その価値」について
はじめて教えてくれた人なのかもしれない。


photo by amano yasuhiro


スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎