見出し画像

わたしの未来を生きていて

メッセージを開いたら、写真が届いていた。

誰かの顔のアップで、それが送り主でないことだけはすぐにわかった。
「誰だよォ」と思いながら、タップした3秒後には泣いていた。
顔を見た瞬間、ほんとうに、じわりと涙が滲んできた。

ほんとうに、久し振りに見る顔だった。
仲間内で話題になっても、「最近会った」という人はいつもいなかった。
それでも、懲りずに名前は挙がり、「元気かなあ」とか、「元気だろうね」とか、思い出話に花が咲いたりしていた。

久し振りの集まりに顔を出したということは、少なくとも最低限の健やかさを保って生きているということで、わたしは激しく安堵した。

「激しく」と「安堵」なんて、相容れない言葉同士のような気がするけれど、ほんとうそう思った。
ほんとうによかった、と思った。


本当に会いたいならば、心配をしているならば、連絡を取ればよかった。
LINEに連絡先が登録されているかは、わからない。
彼と頻繁に会っていたころは、LINEの普及前というか、スマートフォンを使っていた人もごく一部だったような気さえする。
それでも、どこかのSNSとか、メールアドレスとか
手繰れば、絶対にたどり着けたのに、わたしはそうしなかった。
うまく言えないけど、そういうのとは違った気がした。

同じように、相手から連絡がくることもなかった。
わたしはそれを、薄情だとは思わない。

その連絡を受け取ったとき、奇しくもわたしは動画の編集作業をしていた。
必要かどうかと言われれば明確な答えはない。
「ちょっと思いついたから」と言って、編集ソフトを立ち上げて、その重たさに愕然としながらも、鼻歌を歌いながら、ぎりぎりのところで正気を保っていた。

「曲もあんまりないし、ライブばっかりやってて、なんか意味、あるのかなあと思って」

この話をしたのは、ライブの打ち上げで、町田のモスバーガーだったと思う。
もう、10年以上前の出来事のはずだ。
音楽活動を始めたばかりで、10年経ったいまだって「未熟者」のわたしは、いまの三百倍くらい未熟だった。
ひとりで「作曲する」という手法ではなく、セッションから曲を生み出すわたしたちは、未だどうやって曲を作っていいかの答えを得ず、作詞も始めたばかりでどうしたらいいかわからなかった。
なんとか生み出した数曲だけを頼りに、「とりあえずライブをやろう」として、少し経った頃。
次は、「とりあえずライブをやること」に疑問が生じていた。

「意味はある。だからいまは、何も考えずに続けるといい」

そのときは、ずいぶん年上に見えた彼は、そう言った。
なにも迷っていなかった。
ずいぶん、確信めいた言い方だった。

いま思えば、無責任だったかもしれない。
わたしたちとあなたが、作っているものや、歩む道は、絶対に同じにはならないから、これが正しいアドバイスだったかどうか、その場で判断することは不可能だ。

「わかりました」

わたしも、まっすぐに答えた。
信じようと思えたから、そう決めた。

それからいくつも曲を作り、ライブをして
あの頃思い描いていた(そして自分たちには無理だと思っていた)、キャラメル包装のCDのリリースとか、レコ発とかワンマンとか、そういった活動を一通り終えて、わたしたちは音楽活動を休止することを選んだ。

わたし自身はあれから、他人とやっていた音楽活動をすべて辞め、いまはひとりで部屋にこもっている。

それでも、音楽だけは辞められなくて、
いまでもピアノを弾いて、録音して、なんとなくウェブ上に公開したりしている。
なんとなく、そうやっているひとたちが羨ましく思えたので、真似てみることにした。
やっぱり、明確な答えはない。

「何も考えずに続ける」
いま、そう思っている自分を、悪くないと思っている。

もうちょっときちんと考えたほうがいい、とか思うことはあるけれど
考えすぎて何もできなくなってしまうより、よっぽどいい、と信じている。

あなたと会わなくなって、何年経っただろう。

いろんなことがあった。
つらいこともあった。
確か最後に話したとき「失恋がつらかった」と愚痴って、わたしは世界の終わりのような気持ちでいたけれど、あれよりつらいこともたくさんあった。

それでも、
そんなことは、あなたの顔の前では、すべて無意味なように思えた。

「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」

“魔女の宅急便”の、キキさながら、わたしはつぶやく。

つらかったことや、頑張った出来事をあなたに聞いて欲しいとか、そういうのじゃない。
ただ、わたしはいま、元気で、生きていて
落ち込むことは、やっぱりあるけれど
いま、あなたも、元気で、生きていて、画面越しにでもその姿を見ることができて

それで充分だ。
もう、それ以上はなくったっていい。

次にあなたに会えるとき、きっとわたしは同じことを言うのだと思う。
「落ち込んだりもしたけど、元気だったよ」と笑う。
そういうふうに、生きてゆくつもりだ。
いつ、その瞬間が訪れてもいいように。





スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎