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夏のお中元

「お、夏のカタログギフト」

スーパーで会計をしたあと、「ちょっと待ってて」と言われてひとり残された。
わたしは、買ったものを袋に詰めて、そのギフトカタログを見つけた。
お中元の季節だ。

世の中のイベントやルール、常識といわれるものに疎いわたしだが、お中元は知っている。
こどもの頃よくもらっていた。そんな記憶がある。

父親と祖父は、大工だった。
田舎の、なんでも屋のような
それでも、大工だった。

仕事上、たくさんのお付き合いがあった。
瓦屋さん、左官屋さん、水道屋さん、設計士さん
そういう人たちと一緒に、重なり合うように仕事をしていた。
きっと、それぞれの専門職の人から、お仕事をもらったり、依頼したり
祖父の代から、繰り返してきたのだと思う。

どれだけ「家を建てたい、仕事をしたい」と願っても、
誰かから依頼されなければ仕事はないわけだから、
付き合い、というのはすごく大事だったのだと思う。
時代や、地域の背景が、それを色濃くしていた。

だから、お中元は毎年届いていた。

わたしは、カルピスとフルーツのジュースが好きだった。
ハムもいいと思う。
子供の頃は、コーヒーは飲めなかったので、インスタントコーヒーは嬉しくなかった。

いちばんどうしようもないのが、ビールだ。

当時、祖父母、両親、わたしと兄の6人で同居していたけれど、
誰もがお酒を飲まなかった。
父親は、ビール1杯で顔を真っ赤にしていた。
そんな姿を見たのも数回のことで、ビールは我が家に不要だった。
たぶん、誰かにあげていたのだと思う。


それでも、お中元のハコはわくわくした。
大きくてずっしりとして、立派なハコに包まれて入ってくる。

いまのカタログギフトを見ると、アイスとかフルーツとか、そういうのもあるらしい。
同居人は、ネギを握りしめてすぐに戻ってきてしまったので、ほんの数ページしか読むことができなかったけど、
洋菓子なんかもあって、すてきだなあ。と思う。


こういう制度について、賛否両論あるのはわかっている。
贈る方は手間だし、
個人に贈るプレゼントと違って、まとめて発注をするのだろうから、
「うちに来るビール」のように、不要なものが届くことだってある。


わかっている、
わたしはいま、お中元を贈ったり受け取ったりする立場じゃないから言える。
これは、こどもの記憶だ。
実家の、広い玄関に届く立派なハコ。

わたしは、あのころの無責任な気持ちを思い出して
今でもほんの少し、わくわくしてしまう。




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