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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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2022年7月の記事一覧

服さえ着ていれば

「恋愛がね、できないんじゃないかと思って」 スターバックスの、オレンジ色のひかりの中でつぶやかれた。 一日かけて、何時間も語り合ったあとで、我々はようやくこの話題にたどり着いた。 意図的に、触れないようにしていた話題だった。 なぜだか、言うべきではない、と 不確かなのに強固な警笛が響き続けていた。 言いたいようなことがあったら、言ってくるだろう。 そう思って、何年経っただろうか。 「え、いいじゃん。べつに」 なにも考えずに出てきた、それはもうとびきりの大安売りみたいな

おとなの毛布

眠れない夜に、寝返りを打つ。 ローバッテリーのときに、眠ろうとするとこうなる。 体も頭も限界まで酷使して、もう空っぽで でも、鞭を打ったからだは熱を持っていて もう使い物にはならないのに、眠りたいはずなのに、 眠りとは遠いところにいる。 何度めかの寝返りのあと、タオルケットをつかんだ。 フランネルの、お気に入りの。 * 2020年の夏に、ニトリで買った。 あのときは無職で貧乏で、先立つものも何もなかったのに、 時間を持て余したすえにやろうとしたことは、家中を整えるこ

Don’t say don’t

コーヒーを飲んで、手帳を開く。 そうすれば、どんなわたしも救われる。 眠くても やる気がなくても もうだめだ、と落ち込んでいても もやもやから抜け出せない、と唇を噛んでいても 最近自分がしたことを書き出せば、 「よく頑張ったなあ」または 「よく休んだなあ」と思う。 不思議とこれは、必ずどちらかになる。 そして、思っていることを書き出す。 そうしているうちに、息を吹き返す。 いつもの、わたし。 * もやの中に突っ込んでいって それを晴らすことを繰り返すように生きてきた

小さくて近いところ

朝、もにゃもにゃとパソコンの前に座る。 出勤前に、書いて、弾いて、を終わらせたい。 別に、朝が得意というわけではなくて 夜が眠かっただけで わたしはここに座っている。 * ものを書く能力の半分くらいは、適切なBGMを選ぶ能力である。 というのを、わたしは何度も噛み締めている。 書きたいことがあるから書いている、ということは稀で だいたいはどこかから、引っ張り出す。 ようやく書くことが決まっても、うまく集中できないことも多い。 没入の手助け、が音だと思っている。 *

隙間にシュークリーム

あ、やばい と思って、目を背けた。 今はそのときでない、と言い訳をする。 今手を付けたら、昨日のエッセイを書かずに出勤することになる、と言い聞かせる。 それはよくない。 これは必要であり、合法的で正しい決断なのだ。 だから、今はそのときではないのだ。 * 部屋の一箇所だけ、洋服を積むことを許している。 積む種類や内容を限定してはいるものの、寒暖差が激しかったりすると、溢れてくる。 あ、あっちだった と、取っては捨て、ひっくり返ってゆく。 そういうときが、ある。 そうい