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「ねえ、今日暑くない?」 今まさに、ヒートテックの上にスウェットを羽織ろうとしている男に、声をかける。 今日は、Tシャツ一枚でいいんじゃない? 少なくともわたしはそれで、家を出るつもり。 男は「そんなに暑い?」と訝しげではありながらもスウェットを脱ぎ、窓を開けた。 「ほんとだ……」と驚き顔で戻ってくる。 なんだよそれ。地球初めての渡航者か。 「あれだね」 わたしは深く頷いた。 「KYだね」 この世には、みっつのKYがあるらしい。 空気読めない 漢字読め
急に、「電話してもいい?」なんて、びっくりしたよ。それも、23時でも構わないって。 電話を受けるときは、「どうしたァ?」って言うようにしている。もう、十年よりうんと前にだけれど、言ってもらって嬉しかったことを、忘れていないから。もし君が、どうもしていなくても。どうかしたことを、話せなかったとしても。 わたしはそれを、聞くつもりがあって、できるだけ寄り添いたいと思っていることを、願わくばそのひとことで、伝えたかった。 話を聞いて、一緒に考えて、「心がラクになったよ」
「よく眠れている?」という問いにも 「食欲は?」の確認にも、「問題ないです」と力強く答えた。 いつもは無愛想なおじいちゃん先生が「声にハリが出てきたね」と言ってくれて、嬉しかった。 「ひましてない?」と尋ねられた、その理由は今でもよくわからない。 前回「元気になるといろいろやっちゃって、また具合悪くなって」という話をしたからだろうか。6割で稼働しろと言われた。 「6割稼働にしたら、ひまになっていないか?」とか、「また忙しくしてんじゃないだろうね?」という確認だったか、わか
「音を大きく弾かなくても、大きく”聞かせる”方法があるでしょう?」と、こともなげに言ってくれたことを、感謝している。 「あるよ」と、平気な顔をして答えた。 本当は自信がなくて「たぶん」とか、「あんな感じかな?」って、しどろもどろだった。 それからは、大きく”聞かせる”とか、ゆっくり”聞かせる”ことを意識した。 自分、あるいは自分以外をぐるりと飲み込んで、騙す。というよりは、真実を塗り替えるような。 良い先輩に恵まれたことを、感謝している。 あなたはもう、忘れてい
コーヒーを飲むつもりで家を出たのに 帰りに中華料理を食べて、時刻は20時。 ベランダに干しっぱなしのラグに、思いを馳せる。 おなかは、いっぱい。 むかし、母親に褒められたことを思い出す。 実家にいるときのわたしは、家事のひとつもできなくて たまねぎの剥き方も、洗濯機の回し方もわからない子どもだった。 母親は在宅仕事で、いつも家にいたから、何かに困ることもない、ほんとうに甘ったれた子どもだったと思う。 そんな母親が泊まりがけで出掛けたときに頼まれたことはた
晴れていたので、おふとんを干した。 夜、干したばかりの、整ったおふとんに包まれてうっとりする。 シーツを洗ったわけではないから 別に、きれいになったわけではないのだけれど 何かが少し、生まれ変わったような気がして 気のせいでもいい。 ときどき、それでもいいことがある。
からだに力が入らなくて 本当は、ぎゅうっと絞り出して いろんなものを吸い尽くして吐き出した 洗い立ての雑巾みたいに 晴れやかなピカピカで、話をしたかったのに 言葉を繋ぎ合わせることもできずに ぽたりぽたりと零れゆく 理想に届かなかった夜は、すべてが後悔のように思えてしまうけれど それもそれで、そんな夜だって 笑えなくても、やり過ごすことができたのならば それはもう、悪くない雑巾の話なのだと思う。
最近、一日が早いなあ。と思う。 それは当然のことで、昼に起きて、夕方から昼寝をしているから、実際に時間が短いんだと思う。あっというまだ。 人生の本当に苦しいとき、一日が長かった。 その一日を、わたしは部屋で、ひとりで過ごしていたのだけれど アニメを見ても全然時間が過ぎなくて、眠くなることもなくて、何かをやりたいわけではなくて、身体がどっしりと重い。 BGM代わりのアニメが止まったら、思考がぐいんと落下してゆくのがわかる。わかるけれど止められなくて、手のひらを噛
おみやげのシュークリームを、食べずにいる。 食べてしまったら、おいしくて、元気にならなくては お風呂に入って、背筋を伸ばして、部屋の片付けをして、”然るべく”わたしでいなければいけない気がして。 コーヒーだって、昨日の飲み残ししかないから、新しいのを淹れたいのに。 ゲームの続きが気になって、他のことを考えることが億劫で、人間らしくいることすら手放して とは思ったけれども、いまのわたしがいちばん「人間らしい」かもしれない。 うまくやる気が出せなくて、締切がないと
眠れない夜がある。 それは、昼寝のしすぎかもしれないし、はしゃぎすぎて眠る体力も失ってしまったからかもしれないし、嫌なことばかり考えて眠りから遠ざかっているのもあるかもしれなくて わたしはわたしのことを、よく知らない。 眠りたい気持ちの反対側に、身体はしずしずと流れてゆく。 眠ることを、時折諦める。 「目をつむっているだけでも、体力は回復するからね」 むかし、好きなひとがそう言っていた。 もう会えないから、嫌いにもなれないひと。 オレンジの灯りの部屋で