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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2022年10月の記事一覧

バラの棘を落とすひと

バチン、と茎を落とす。 花用のハサミは、去年買った。 なくてもいいけれど、持っているととてもよかった。 硬い茎も、勢いよく落とせる。 バラ園で買ったバラには、立派な棘がついていた。 「バラって、本当に棘があるんだねえ」 友人の、やさしく、おだやかな声が、いまでも耳に心地が良い。 バラ園のバラは、花屋さんのバラと違って、むき出しだった。 むき出しの、生命力。 立派ないくつもの棘を、落としてゆく。 * バラの棘を落とす人になりたい、と思う。 ひとつ、バチン ひとつ、バ

花が枯れても

今月のわたしは、エッセイのボツ率が高い。 一応「毎日」という”テイ”で更新しているので、普段はあまりボツにしない。 そんなにまじめに向き合いすぎていたら、毎日なんて書けない。(わたしの場合は) 言葉を垂れ流すように綴りながら、自分が掲げる「理想のライン」を割らないよう、それだけを努める。 時折、ラインを割ることすらおもしろいと思ってしまう。 今月は、覚えている限り3本は未公開のものがある。 ひとつは、途中まで書いて着地点がわからなくなったもの。 ずっと書きたかった、美容

冬の部屋

今朝は、ぎゅんと寒い。 床もテーブルも、水も、ぜんぶが冷たい。 寒さに支配されて、 眠いのか、おなかが空いているのか、やる気が出ないだけなのか ぜんぜん区別がつかない。 寒い。 朝のストレッチが終わったあと、ヨガマットに転がっていたら寒くてびっくりした。 何に驚いたかって、この部屋は夏には暑かったことだ。 家の中で、いちばん暑かった。 それなのに冬には寒いって、残酷すぎやしないか。 困ったなァ。 * ベッドの横の、薄い黄色のカーテンをめくる。 冬になると、どきどきめく

美しいままに

日付が変わる前の、暗い帰り道。 あしたも仕事だから、今晩か明朝にはエッセイを書きたい。 でも、その前にお風呂に入りたい。 でも、本当はソファーに倒れたい。 本音を言っていいならば、ベッドに沈みたい。 本音ーーーそう言うならば、もうちょっと努められるような気がしている。 からだの、ほんの小さなバランスがもう少し整えば 「面倒」のその先にある本音、「今日中にいろいろ片付けたい」にたどり着ける気がする。 ああ、煙草を吸いたい ときどき、ほんとうに素直にそう思う。 一服したら頑

だからわたしは、線を引く

「だってさあ」 そのあとに続く言葉は、わかっている。 酔っ払って、終電に乗ったとしても帰りが遅すぎるこの男の、口癖だった。 「良いヤツなんだよォ」 * バカだなあ。と思う。 そして、無責任だなあ。と思い それが良いところでもあるから困るというか 一概に否定できない。 むかしは、敵キャラの行動が理解できなくて 「なんで世界滅ぼそうとすんの!??」と怒ったりしたけれど 敵には敵の正義と愛があって 純粋な破壊衝動だけで世界を征服するひと(人じゃなくても)は、あまり多くない。