バラの棘を落とすひと
バチン、と茎を落とす。
花用のハサミは、去年買った。
なくてもいいけれど、持っているととてもよかった。
硬い茎も、勢いよく落とせる。
バラ園で買ったバラには、立派な棘がついていた。
「バラって、本当に棘があるんだねえ」
友人の、やさしく、おだやかな声が、いまでも耳に心地が良い。
バラ園のバラは、花屋さんのバラと違って、むき出しだった。
むき出しの、生命力。
立派ないくつもの棘を、落としてゆく。
*
バラの棘を落とす人になりたい、と思う。
ひとつ、バチン
ひとつ、バチン
繰り返してゆくと、心が落ち着いてゆく。
このバラを受け取るあなたが、傷つかないように
わたしは棘を、落としてゆく。
*
バラの、その横顔を見つめながらいう。
もう大丈夫だよ、とやさしく撫でる。
その棘はきっと、外敵から身を守るためのものだろう。
植物のことはよく知らないけれど
動物が吠えて威嚇するように
バラには棘が必要なのだろう。
もう大丈夫だよ。
切られてしまったバラは、人の手に渡る。
きっと、花を愛する人のところに届く。
お水をたくさんもらえるといいね。
たくさん、かわいいねって言ってもらえるといいね。
誰かの涙を見たら、そおっと拭ってあげてね。
もう、大丈夫。
あなたにはもう、棘は必要ない。
*
ひとつ、バチン
ひとつ、バチン
大きな棘を、落としてゆく。
バラの棘を落とす人になりたい、と思っている。
※now playing
スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎