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バラの棘を落とすひと

バチン、と茎を落とす。
花用のハサミは、去年買った。
なくてもいいけれど、持っているととてもよかった。
硬い茎も、勢いよく落とせる。

バラ園で買ったバラには、立派な棘がついていた。

「バラって、本当に棘があるんだねえ」
友人の、やさしく、おだやかな声が、いまでも耳に心地が良い。

バラ園のバラは、花屋さんのバラと違って、むき出しだった。
むき出しの、生命力。
立派ないくつもの棘を、落としてゆく。

バラの棘を落とす人になりたい、と思う。

ひとつ、バチン
ひとつ、バチン
繰り返してゆくと、心が落ち着いてゆく。

このバラを受け取るあなたが、傷つかないように
わたしは棘を、落としてゆく。

バラの、その横顔を見つめながらいう。
もう大丈夫だよ、とやさしく撫でる。

その棘はきっと、外敵から身を守るためのものだろう。
植物のことはよく知らないけれど
動物が吠えて威嚇するように
バラには棘が必要なのだろう。

もう大丈夫だよ。
切られてしまったバラは、人の手に渡る。
きっと、花を愛する人のところに届く。

お水をたくさんもらえるといいね。
たくさん、かわいいねって言ってもらえるといいね。
誰かの涙を見たら、そおっと拭ってあげてね。

もう、大丈夫。
あなたにはもう、棘は必要ない。

ひとつ、バチン
ひとつ、バチン
大きな棘を、落としてゆく。

バラの棘を落とす人になりたい、と思っている。




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