私が早く生まれてきたのは

 ここ最近毎週末姉の子供たちの子守をする母について、私も姉の家に行っている。
 私には現在8歳と5歳の姪っ子と、1歳の甥っ子がいる。
 子供たちと接していると、最近の保育園や小学校事情、さらにはトレンドや流行についても知ることができてとても良い勉強になる。
 そんな中この日もいつものように姪っ子たちとリビングで昼食を食べていた。
 上の姪っ子の話では、どうやら最近の小学校は、放課後に忘れ物を取りに学校に入る時はインターフォンを押して、「2年1組の○○です。忘れ物を取りに来ました」と伝えなければ学校に入れてもらえないそうだ。
 私が小学生だった頃は、学校にインターフォンさえも無かったと思うし、校門の前でインターフォン越しの先生に向かって、「忘れ物を取りに来ました」と自らの恥をさらさなくても普通に学校に入れたのに…。
 セキュリティの関係上仕方ないことなのかもしれないが、世の中せちがらくなったもんだなあと、改めて実感させられる話だった。
 そんなことを話しながら、インスタントラーメンと冷凍のお好み焼きを食べていると、2番目の姪っ子が私に聞いてきた。
「ねえ、どうしてひかちゃんは目が見えないの?」
姪っ子からそう聞かれたのは今回が初めてではない。
 これまで何回も聞かれてきた。
 そう聞かれることはべつに嫌ではない。
 むしろ叔母の障碍を理解しようとしてくれているんだなあと嬉しくなる。
 だから私は何回でもこう答えている。
「早く生まれちゃったからだよ。その時にまだ目ができてなくてねえ」
私は未熟児網膜症による先天性の全盲の視覚障碍者だ。
 600グラムという極小未熟児で生まれた。
 私の誕生日は4月だが、本当は8月に生まれる予定だった。
 だから予定より4カ月も早く生まれたことになるのだ。
「早く生まれちゃったの?」
「うん、そうだよ」
「何で早く生まれちゃったの?」
「うーん、何でかねえ」
私が考え込む素振り(のふり)をしていると、姪っ子は言ったのだ。
「早くみんなに会いたかったから?」
その言葉に思わずはっとした。
 私が早く生まれたのは、早くみんなに会いたかったから…。
 実際には違うのかもしれないが、それでも5歳の姪っ子からそう言われると、あーそうかもしれないと思えてきて、胸が少し熱くなった。
 子供の一言ってすごいなあと改めて思わされた瞬間だった。

 余談なのだけれど、羽田光夏(はねだひか)という名前には、『夏』という字が入っているのだが、さきほども書いたように、私は春生まれである。
 このペンネームをつけた後、そういえば自分は8月に生まれる予定だったんだよなあということを思い出して、何とも言えない不思議な気持ちになった。
 ペンネームの由来については、過去の記事『羽田光夏という名前の由来』を参照していただきたい。

 羽田光夏と言う名前の由来|羽田光夏*はねだひか* @hanedahika0415 #note
https://note.com/hanehica0415/n/nd06c56c04652

 物書きとして生きていこうと決意した私が、自分が生まれるはずだった『夏』をペンネームの字に入れたのは、今でも偶然ではないような気がしてならない。

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