見出し画像

主夫カレー

 僕は主夫だ。望んだわけではない。仕事がなくなりそうなった。妻が働きに出ている。僕は自然と家事全般を担当するようになった。夕飯の支度は僕のメインイベントで、毎日スーパーに行く。コロナ禍、都知事は三日分の買い物を…とおっしゃったが、現実的には無理だった。例え二人分でもかなりの重量になるし、自転車の前籠はそれほど大きくない。それに、数日分の献立を考えて買い物するのが難しい。こちらは、その日その日の安く出ているもので何を作るか即座に考えながら買い物しているのだ。

それより、カレーの事だ。カレーのスパイスの香りだ。僕は月に一度、カレーを作る。(ポークカレーかチキンカレー)それ以上の頻度だとカレーに対する特別感がなくなり「またカレーか……」と、なるからだ。今の僕にできることは丁寧に作ることだけだ。貧しいものが安い材料で料るのだから、料理全般手間暇を惜しむわけにはいかない。まあ、カレーの場合、玉葱を丁寧に炒め飴色にするだけだが。とにかく下拵えをきちんとし、具材の旨みを引き出すしかない。特別な作り方はしない。お気に入りの市販のルーを使う。隠し味にはバター・砂糖・ウスターソース・ケチャップ・インスタントコーヒー・知人がくれた万能スパイス等々。
夕方までに作ってしまい、しばらく常温で冷ます。

妻が駅に着くとLINE(ライン)がくるので、帰宅時間に合わせて火を入れる。アパートの一階だから、換気扇から外にカレーを煮込む香りが漂う。
「カレー?」妻の嬉しそうな帰宅後の一声が聞きたいからだ。半分は残しておいて冷蔵庫で寝かせる。二日くらいしてから、惣菜のコロッケなどトッピングしてまた食べる。熟成していてとても美味しくなっている。ご飯も黒米を入れて炊いたりして変化をつける。カレーの香りが漂う食卓は平和だ。
しかし、本当は平和ではない。僕が、このままでいいわけはない。いつまでも妻の献身に甘えたままでいいわけがない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?