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HandiLabo Talk Session Report part1

住宅幸福論とHandiLabo

speaker
島原万丈(LIFULL HOME’S総研・所長)
加藤渓一(HandiHouse project)

<part1>
Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo
「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする。

「家を趣味にしよう」をコンセプトに掲げ、家のあり方、作り方、楽しみ方を模索し、日本の住文化をつくりなおす場として、2019年4月に始動したHandiHouse projectのコミュニティサービス『HandiLabo』。HandiHouse projectは『HandiLabo』で何をしようとしているのか、そこから世の中に何が生み出されるのか。『HandiLabo』の理念とその先にあるビジョンを深堀するために、2019年7月5日、永田町・LIFULL HUBでトークセッション
「住宅幸福論とHandiLabo」を開催。2019年5月にレポート『住宅幸福論 Episode2』を発表したLIFULL HOME’S総研・所長の島原万丈氏を招き、日本人の住宅観や住宅産業における問題と課題、課題解決のために必要な環境やサービスなど、これからの日本の住宅の“幸福”のあり方を探りました。
<Part2>Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方/日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント
<Part3>Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo/これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方

・Speaker

島原万丈(しまはら・まんじょう)
株式会社LIFULL、LIFULL HOME’S総研 所長。1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)でLIFULL HOME’S総研所長に就任し、2014年『STOCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市] 』、2017年『寛容社会 多文化共生のための〈住〉ができること』、2018年『住宅幸福論Episode1 住まいの幸福を疑え』、2019年『住宅幸福論Episode2 幸福の国の住まい方』を発表。主な著書に『本当に住んで幸せな街 全国官能都市ランキング』(光文社新書)がある。

・Speaker

加藤渓一(かとう・けいいち)
株式会社HandiHouse project。2008年武蔵工業大学(現:東京都市大学)大学院修了後、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO所属。2010年studioPEACEsign設立。翌年HandiHouse project 始動。「妄想から打ち上げ」を合言葉にデザインから工事のすべて自分たちの「手」で行う集団の一員。ロックバンドのライブの様に演者と観客が一体となって盛り上がり、熱 狂の渦が巻き起こるような家・場作りを目指す。2014年春には海外進出。アジアの南端の島、東ティモールに出向き現地の人との恊働。もの作りを通じたコミュニケーションが人種や言葉の壁を簡単に越えて行くことを実感する。

・moderator

坂田裕貴(さかた・ゆうき)
株式会社HandiHouse project。2011年HandiHouse projectとして活動開始。 HandiHouse projectとして設計施工の活動していく中で家にもっと愛着を、住む人も、作る人も家づくりをもっと楽しく。を、より多くの人に実現してもらえる環境を作りたいと思うようになりHandiHouse projectの新たな試みに力を入れている。

_Introduction

坂田裕貴(以下、坂田):
みなさんお越しいただきありがとうございます。HandiHouse projectの坂田です。今日は、住宅・不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」などの運営を行っている株式会社LIFULLの社屋にある、コワーキングスペース「LIFULL HUB」をお借りしてイベントを行わせていただいています。今日は、先日開始した『HandiLabo』や『HandiLabo online』についても触れながら、これからの時代、家を作ること、家に住むことをどう楽しんでいくのか、その先にある未来はどんなものなのかということを、会場のみなさんと一緒に話しながら考えることができたらと思っています。

加藤渓一(以下、加藤):
HandiHouse projectの加藤と申します。宜しくお願いします。

島原万丈(以下、島原):
LIFULL HOME’S総研の島原です。宜しくお願いします。

坂田:
本日ご来場のみなさんでHandiHouse project知っている、という方は? あ、ほとんどご存知のご様子ですね。でも知らない方もいらっしゃる。ありがとうございます。ではまずはHandiHouse projectのご説明と、HandiLaboとは何かということについて、加藤のほうからお話させていただこうと思います。

_ Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo
「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする

加藤:
宜しくお願いします。僕、2012年に東ティモールという小さな島国に行ってコーヒースタンドを作ってきたんですが、そのことはHandiHouse projectを語る上で大きな出来事だったので、まずそれについてお話します。

東ティモールの公用語、ご存知のかたいらっしゃいますか? 「テトゥン語」といって、「こんにちは」は「ボア タルディ」と言います。僕はテトゥン語も英語も話せないんですが(笑)、よくテロリストだと思われて捕まらなかったなと思うんですけど、リュックにインパクトとか手ノコとか工具を満載にして、東ティモールに2週間、行ってきました。

※HandiHouse project「東ティモールのカフェ

2週間経って、現場は全然工事終わってないんですけども(笑)、「あとは宜しく頼んだ!」「おうまかしとけ!」みたいな感じで僕は日本に帰ってきて、その後店はどうなったかというと、当時の東ティモールにはなかったバリスタという職業が生まれたり、トリップアドバイザー(※トリップアドバイザー:ホテルや観光施設、商業施設などの旅行に関する口コミ・価格比較を中心とするウェブサイトおよびアプリ。世界最大の閲覧数を持つ旅行口コミサイト。)のグルメ・レストランランキングで1位になったりとか(※その後も上位にランキング)、そんな注目されるお店になっています。

そんな東ティモールでの経験で思ったことは、言葉が通じなくても、ものづくりでコミュニケーションは取れるんだということと、もう最強だって言ってるんですけども、コミュニケーションツールとしてすごいものなんだと実感したんです。そういう実体験もあって、僕らHandiHouse projectは、ものづくりというものをコミュニケーションツールとして活用しています。

HandiHouse projectは今(2019年7月時点)で、総勢13名。僕らは建築事務所として、良質な空間を生み出す活動をする一方で、「良い人づくり」ということもしていきたいと考えています。

僕らは「妄想から打ち上げまで」という、空間づくりの行程をできるだけ分業せずに、設計するところから、実際に現場に出て工事をして、完成したらそこでお客さんと一緒に打ち上げをする、そこまでを全部自分たちでやろうというコンセプトを掲げて活動しています。

具体的にどんなことをしているかというと、実際に模型を作ったり、図面を描いたりすることももちろんなんですが、「お客さんと共につくる」ということをやっています。僕らは、「DIYのワークショップをする」とかではなく、お客さんを職人に見立てて、設計の段階からがっつり巻き込んでしまいます。

※HandiHouse project「情熱リノベーション

これはあるお客さんとの家づくりの一幕なんですが、お客さんが作業している後ろに僕が立って、「いいじゃないですか。でもそこのパテちょっとあまいです」みたいなことを言っている(笑)。そんな風にお客さんを職人さんのように作り手として扱って、家を作っていく。お客さんが自分で手を動かさないと、完成しないっていう状況をつくるんです。そうするとですね、お客さんは、家づくりの楽しい部分だけではなく、大変なところも含めて、本当に本気になって家と向き合ってくれるようになるんです。

そうなってくると、顔にペンキがつこうが、足元で子供が泣き叫ぼうが、必死になって家を作る。するとですね、だんだんお客さんの気持ちも変わってきます。ここが、僕らのしていきたい「良い人づくり」というところなんですけど、『日野の家』というプロジェクトの施主であるタカさんは、僕らと一緒に家をつくることで気持ちが変わってきたと言うんですね。

タカさんは「プロの仕事に対して、素人が口出しして良いのか」という思いがあって、プロと素人の垣根を感じていた。でも、僕らと一緒に家づくりをやっているうちに、「もっと意見を言っても良いし、自分の手を動かしてもいいんだという気持ちに変わっていった」と。「僕はハンディと家づくりをして、家と向き合う覚悟と勇気を得ることができた」と、あるインタビューで話してくれたんです。で、そうした勇気と覚悟を持って、「思うままにドアを作っちゃいました!」と、タカさんがFacebookに投稿した写真がコレです。

※HandiHouse project『日野の家』

これ、タカさんがDIYで作った扉なんですけど、2m×1mくらいあって、何だろこれ?って感じですよね。壁のように見えるけども、実はちゃんと動くんです。こちら(次のスライド)はその扉の内側にある部屋の写真なんですが、古いトタンとかガス管とか、いろんなものをパッチワーク状に組み合わせながら作ってる。これは完成したあとの写真なので、一発でバシっと決まって出来ているように見えますけど、実は床にたくさん傷があったり、試行錯誤しながら作った跡が部屋の中にたくさんあるんです。そうこうしていると、今度はトイレにペンキを塗ったりとか、帽子を照明器具にしてしまったりとか、こんな家が出来上がるんですね。

※HandiHouse project『日野の家』

僕らは『日野の家』では、床を貼って、壁にOSB合板を貼って、キッチンを作って、といったことしか実はしていない。ひとつとして同じ照明がなかったり、古材を組み合わせて作った本棚とか、鮮やかに際立ってくるところは全部、お客さんが住みながら自分でやったところです。

僕らがこういう活動をしていて思うのは、一緒に本気になってぶつかり合うと、お客さんのものの見方がどんどん変わって、その解像度がどんどん高まるんですね。そうすると、住まいのリテラシーもアップして、どんどん作りながら生活を楽しんでくれているという様子が見られました。これが僕らの行っている、「良い空間づくり」と「良い人づくり」です。

で、ここで今日の本題、『HandiLabo』の話をしたいと思います。僕らは2011年に活動を始めてもうすぐ9年になりますが、これまで日々、いろいろ作ってきました。ただ、僕らは「作ること」が日常ですけど、お客さんにとっては、ある程度家が完成したら、そんなに日々作るわけではない。「作ること」が日常にはなり得ないんだけど、ここで大事なのが、「作る行為」というよりも「作る心持ち」というか、そういうスタンスがあると、暮らしはもっと自由になるんじゃないかと。そうした考えは、島原さんが今回のレポートで書かれていたことと近いような気がしています。

そこで始めたのが、『HandiLabo』。「家を趣味にしよう」という主旨を掲げてやっております。『HandiLabo』では、これからの住文化をつくっていこう、新しい住文化をつくっていこう、HandiHouseという住文化を生み出していきたいと思っています。

家って、本来もっと楽しいはずなんですよ。それを、住まい手も、僕らみたいな作り手も、一緒になって試行錯誤しながら求めていきたいなと思って、『HandiLabo』を立ち上げました。『HandiLabo』とHandiHouseの違いについてですが、それをライフステージで説明すると、HandiHouseは短期的な関わりなんです。まあ半年とか、そのぐらいの期間なんですが、『HandiLabo』は子供の頃から、終の住処まで、家とどう向き合って生きて無くなっていくか、という長期的な関わりをしていくことを考えています。

『HandiLabo』には今、場所が二つありまして、ひとつがオンライン。ちょうど先月(※2019年6月)、Facebook上にonlineサロンをオープンしました。もうひとつが、リアルなオフラインの場所。こちらは横浜の駒岡というところに大きな倉庫を借りて、そこを工房とシェアオフィスという形にして運営しています。

※横浜の駒岡にあるオフラインの『HandiLabo

僕らみんなでこういう工房をつくったのは初めてなんですが、ホームセンターとか、どこにでも手に入る材料を買って、自分らで組み上げて、あとは丸ノコとインパクトとビスという、本当に簡単な材料と道具しか使わずに組み立てています。それがなんと、「新建築」の表紙になったという!これは歴史的ですか?歴史的って言っちゃっていいですか!?

坂田:
…どうぞ。

加藤:
ははは(笑)。この「新建築」、平成最後の号なんですよ。それに、こんなセルフビルドのプロジェクトが載るなんて、建築はこれから変わっていくかなぁって期待したいですね。

島原:
令和元年のほうが良かったかもね(笑)。

加藤:
そうですかね?(笑)。とまあ、こういう形で、オンラインの場所とリアルの場所と、その二つの場所を行き来しながら、うまくコミュニケーションをとってやっていきたいなと思っています。

それで、ここでどういうことができるかというのは、今日の万丈さんとのトークセッションの中でもいろいろ話していきたいなと思っているんですけども、今僕らが日々やっているのは、僕らが日々考えていることとか、なかなかオフィシェルな場では喋れないようなディープな話だったり、ハンディの頭の中を見せるようなものだったり、あとは定期的にイベントを催してみんなで家のことについて考える機会を持ったりといったことを、考えています。あと、オンラインメンバーになった上でさらに月1000円払っていただけると、駒岡の工房が使い放題になります。

それで、さっきの『HandiLabo』としてライフステージに長く関わりを持ちたいという考えに基づいて、いくつかプロジェクトが動いておりまして、まずひとつは「セイシュンラボ」という、10歳から15歳までの子供向けの無限秘密基地作りプロジェクトをやっております。

※子供たちで秘密基地をつくるセイシュンラボ

これは子供たちが主役で、『HandiLabo』にある廃材などの材料を使いながら、どんどん遊び場というか、構造物を作り続けようというプロジェクトです。作っていく中で、子供たちは自分が思い描いている理想のものと現実とのギャップで絶望したりするときもあるんですけど、僕らがサポートに入りながら、自分で考えて手を動かして作って。教育的な側面も持ちつつ、手を動かしながら思考するということができる環境を、こういったプロジェクトを通じてつくっていきたいと思っています。今、この構造物は7~8mくらいのでっかいものになってます。

こういうことを経験した子供たちって、きっと作ることにすごく興味を持ち始めると思んですね。例えば、自分が住んでいる家だったり、自分の部屋だったり、そういうところに還元されたりとか、新しい視点を持って育ってくれるんじゃないかなという期待を持ってこのプロジェクトをやっています。これが、先ほど話したライフステージの話の子供世代への関わりですね。

※「アパートキタノ」のウェブサイト

もうひとつ。これもかなり実験的なプロジェクトではあるんですが、家を持つ前の段階、賃貸のプロジェクトです。この「アパートキタノ」は、僕らが大家として運営にも携わりながらやっています。これは賃料月3万円の何の変哲も無いワンルームがですね、月5万円の部屋になっていくというプロジェクトなんですが、何をしたかというと、合板を17枚、ただ壁に貼っているだけです。ただその合板というのは、みんな自由にしていいよと。DIYしていいよ、汚しても何してもいいよ、という壁なんです。賃貸だから何も変えちゃいけないということではなく、住人自身が試行錯誤しながら暮らすことで、どんどん変化していくような場所にしたい。そんな変化を受け入れる「やわらかい内装」を目指す、という考えでやっています。

※「アパートキタノ」の入居後の一室

これは実際に住んで1年くらい経つお部屋で、棚をつけたりとか、壁に照明をつけたりとか。で、これはただ合板をビスで留めているだけなので、取り替えすることが簡単なんですね。有孔ボードに張り替えちゃう人がいたり、あと部屋をアトリエとして使って絵を描いちゃう人とか。DIYというフィルターをかけると、いろんな人が集まるんだなと思いましたね。

新しい住人が来ると、ツイッターとかSNSで「これからいろいろ作ります」「社会人初めての週末にDIYします」といった投稿をしていて、そこから『HandiLabo』のオンラインにおいて重要なところが見えてきたんです。

※「アパートキタノ」住人のツイッター

この「アパートキタノ」では、Slackというチャットツールを使ってコミュニティをつくっているんです。そうするとですね、DIYって一回何かを作ってしまうとそれで終わって満足しちゃうということがあると思うんですけど、新しい住人が入ってきて何かを作っている姿を見ると、他の住人も「私ももっと何か作ってみたいな」とDIY欲が再燃して、これはある住人のツイッターなんですが、(DIYの参考になるものを探して)「ピンタレスト飛び越えてyoutube見ちゃってます」みたいな状態になるんですね。すると今度は、「住人同士で一緒に車を借りてホームセンターに行ってDIYする」なんてことが起きるんですよ。

これってすごく面白いなと。今までそういう観点でDIYを考えることってあんまりなかったと思うんですけど、新しい住人が作ったものに対して、嫉妬とか憧れとかを抱いて、もう一回自分も何か作ってみようと思う。そんなふうに、コミュニティというものは工具のように、DIYを助けてくれる存在になり得るんじゃないかなと思ったんです。そのことは、今後『HandiLabo』のオンラインサロンを運営していく上ですごく大事なことだし、島原さんのレポートでもコミュニティやお客さんを家に招くことについて書いてあったので、その辺りについて、このあとのセッションで一緒に考えていきたいなと思っています。

僕からは以上です。ありがとうございます。

会場:(拍手)

<Part2>Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方/日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント
<Part3>Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo/これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方

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