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HandiLabo Talk Session Report part2

住宅幸福論とHandiLabo

speaker
島原万丈(LIFULL HOME’S総研・所長)
加藤渓一(HandiHouse project)

<Part2>
Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方
日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント

「家を趣味にしよう」をコンセプトに掲げ、家のあり方、作り方、楽しみ方を模索し、日本の住文化をつくりなおす場として、2019年4月に始動したHandiHouse projectのコミュニティサービス『HandiLabo』。HandiHouse projectは『HandiLabo』で何をしようとしているのか、そこから世の中に何が生み出されるのか。『HandiLabo』の理念とその先にあるビジョンを深堀するために、2019年7月5日、永田町・LIFULL HUBでトークセッション
「住宅幸福論とHandiLabo」を開催。2019年5月にレポート『住宅幸福論 Episode2』を発表したLIFULL HOME’S総研・所長の島原万丈氏を招き、日本人の住宅観や住宅産業における問題と課題、課題解決のために必要な環境やサービスなど、これからの日本の住宅の“幸福”のあり方を探りました。
<Part1>Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo/「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする
<Part3>Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo/これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方

・Speaker

島原万丈(しまはら・まんじょう)
株式会社LIFULL、LIFULL HOME’S総研 所長。1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)でLIFULL HOME’S総研所長に就任し、2014年『STOCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市] 』、2017年『寛容社会 多文化共生のための〈住〉ができること』、2018年『住宅幸福論Episode1 住まいの幸福を疑え』、2019年『住宅幸福論Episode2 幸福の国の住まい方』を発表。主な著書に『本当に住んで幸せな街 全国官能都市ランキング』(光文社新書)がある。

・Speaker

加藤渓一(かとう・けいいち)
株式会社HandiHouse project。2008年武蔵工業大学(現:東京都市大学)大学院修了後、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO所属。2010年studioPEACEsign設立。翌年HandiHouse project 始動。「妄想から打ち上げ」を合言葉にデザインから工事のすべて自分たちの「手」で行う集団の一員。ロックバンドのライブの様に演者と観客が一体となって盛り上がり、熱 狂の渦が巻き起こるような家・場作りを目指す。2014年春には海外進出。アジアの南端の島、東ティモールに出向き現地の人との恊働。もの作りを通じたコミュニケーションが人種や言葉の壁を簡単に越えて行くことを実感する。

・moderator

坂田裕貴(さかた・ゆうき)
株式会社HandiHouse project。2011年HandiHouse projectとして活動開始。 HandiHouse projectとして設計施工の活動していく中で家にもっと愛着を、住む人も、作る人も家づくりをもっと楽しく。を、より多くの人に実現してもらえる環境を作りたいと思うようになりHandiHouse projectの新たな試みに力を入れている。

_ Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方
日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント

坂田:
それでは続いて島原さん、お願いします。

島原:
どうも、島原でございます。今日ご参加の方々には、お手元に一冊ずつお配りさせていただいているんですけども、こういった研究レポートをつくる仕事をしています。今日無料でお配りしたように、欲しい方には、部数があるかぎり差し上げています。それから、まったく同じものがPDFになってLIFULL HOME’S総研のウェブサイトにアップしていますので、そこからダウンロードもできます。今日は、今年の5月に発表した、『住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方』という研究レポートから、お話をしたいと思います。

LIFULL HOME’S総研のウェブサイトから冊子送付の申し込みやPDFダウンロードが可能

エピソード2って書いてますから、エピソード1があるわけです。まずはエピソード1をざっくり振り返ってからお話していきたいと思うんですけど、エピソード1は『住宅幸福論 Episode1 住まいの幸福を疑え』という、幸福論なのに幸福を疑っちゃうというテーマでやっています。どういうことかというと、住宅幸福論シリーズ全体を貫く問題意識として、「住宅や住まいというものを規定してきた社会的な構造が、今大きく変わってきている」という見立てがあります。

まず、昭和の時代には、人口が増えて経済成長もしていて、土地の値段も上がっていた。だから逆に言うと、「不動産を買う」ということは、すごく合理的な選択だったわけですね。そして「家を買う」ということは、家族や夫婦というものを前提にしていた。その「家族」というのは、ご主人は終身雇用の正社員として都心のオフィスに毎朝通勤をして、奥さんが家を守るというモデル。

これが今、もっと先端的な事例も出てきていますけども、「週三日は家で働いてもいい」とか、あと僕もそうなんですけど、用があるときしか会社に来ないんですよ。在宅で仕事して。そうなると、必ずしも会社の近くに住まなくてもいいわけですよ。まあ、僕は比較的近くに住んでるんですけど(笑)。あと、「家族」というもの、「ファミリー世帯」というものも、日本ではもはや少数派になりつつあります。今の日本の世帯構成で一番多いのは「一人暮らし」なんですね。

そして不動産のほうをみると、都心部や地方の都市部なんかはまだ不動産価値は上がり続けてますけども、人口は減って、経済的にもう成長が鈍化している中で、不動産の価値はもう上がらない。つまり、不動産というものの価値がどんどんなくなってきている。こういう状況であるにもかかわらず、業界も含めて多くの人は、「家を買う」ということが大きなひとつの目標になっていたり、「持ち家のほうがやっぱりいいかな」と思っている方が多い。

これは、「今住んでいる家にどのぐらい満足していますか」というアンケートの結果です。この赤い線が持ち家の人の回答、緑のほうが賃貸。全体的に持ち家のほうが満足度が高い、つまり幸福度が高いというデータが出ていて、なかでも持ち家が新築マンションの場合の満足度は一番高い。けれども、このデータの陰には大きな要因がありまして、「年収」というものがあるんです。つまり世帯年収が高ければ高いほど持ち家率が高く、世帯年収が高ければ高いほど持ち家を新築で買うという傾向が強い。そうすると、持ち家と賃貸で比べていたけども、実は世帯年収を比べていたんじゃないかと。

これはちょっと身も蓋もない話なんですが、幸福学と呼ばれる学問領域の中では、世帯年収というのは幸福度との相関がとても高いんです。あるひとつの国の中で世帯年収の低いところから高いところを比べると、今の生活に対して満足している度合いは、年収が高ければ高いほど満足度も高い傾向にあるんです。そして、人生の満足度が高い人は、仕事にも満足している、家族にも満足している、家にも満足している、というような傾向があるんですね。

つまりさっきのデータは、本当に家の話をしていたのか、お金の話をしていたのか、わからない。そこで、臨床医学のデータ分析で使われる分析方法があるんですが、これによって年収の要因を外してみるとどうなるか。それをやってみたデータがこれです。

さっきのデータと比較して、持ち家と賃貸の差が明らかに縮まりましたよね。若干まだ持ち家のほうが高いですけども、そんなに大きくは違わない。

分かりやすい例として、分譲マンションの一室が賃貸に出されているケースがしょっちゅうありますよね。その分譲マンションの住戸に賃貸で住んでいる人と、隣の住戸に自分でローン払って住んでいる人が、家の満足度がそんなに変わるかという話なんですよ。

結局のところ、「今住んでいる家への満足度」は世帯年収の要因を外すとそんなに変わらなかった。では、新築と中古だったらどうか、とデータを取ってみたら、新築と中古もまったく同じ。新築戸建てと中古戸建ての比較も、若干新築のほうが高いですけども、あまり変わらない。賃貸アパートと賃貸戸建てが若干低いけども、賃貸マンションだったらあんまり変わらない。といった傾向があります。

つまり、世帯年収を込み込みにして分析していたので、持ち家のほうが良さそうに見えていたけども、同じ世帯年収の人が自分の家について考える場合は、持ち家か賃貸か新築か中古かによる満足度は、実はあんまり変わらない。

そこからさらにいろいろ分析をしていくんですけども、そうすると、「住んでいる街が好きになった」「その家に住んで自分の時間が増えた」「家族との時間が増えた」といった、生活に対して変化があったという人が、満足度の数値を上げているということが見えてきました。

中でも面白かったのが、建物の築年数が下がっていけば下がっていくほど、住まいへの満足度は下がっていく傾向にあるんですけど、満足度が高い人たちの一つの傾向として、築年数が古くなっていくことをポジティブに受け止めている。「味わいが出てきた」とか、「馴染んできた」とか、そういった受け止め方をしている傾向がすごく強い。そうした調査結果を全体的にみて、住宅というハコがどうのこうのではなく、「住まい方のほうが重要なのではないか」という結論を出したのが、エピソード1です。

じゃあ、「どういう住まい方が幸せなの?」について調査研究をしたのがこちら、エピソード2です。エピソード2では、いまの日本人の住まい方、暮らし方はどうなんだろうと考えたときに、よその国と比較したら考えやすいよねということで、デンマークと比較することにしました。

なぜデンマークなのかというと、そんなに深い意味はないんですが、2012年から国連が「World Happiness Report」、世界幸福度報告書という分析レポートを発表しているんですが、このレポートの世界幸福度ランキングで、デンマークは3位から下回ったことがないんですね。そのことから、非常に幸福度が高い国であると。ちなみに2019年の同報告書で日本は58位で(デンマークは2位、1位はフィンランド)、調査が始まった2012年からどんどんどんどん順位が落ちていってるんです。そんなわけで、「幸せの国」だと言われているデンマークと比較してみることになったわけです。

ちなみにデンマークというと、「ヒュッゲ(Hygge)」という言葉を聞いたことある方は多いと思うんですが、デンマークではこの「ヒュッゲ」、つまり「居心地の良さ」というものをすごく大事にする。Amazonとかで「ヒュッゲ」を検索すると、本がいっぱい出てきます。

「ヒュッゲ」という概念は今、世界的にかなり注目されているライフスタイルで、イギリスだと2016年に流行語大賞の候補にもなっているくらい、欧米でも知られた言葉になりつつある。「居心地の良さ」みたいなことを意味する言葉なんですが、現地に行って取材をしていると、あらゆることに「ヒュッゲ」という言葉が使われている。日本人が使う「かわいい」とか「かわいくない」という言葉と同じような感覚で、「それヒュッゲだね」「ヒュグリだね」みたいに使われているんです。パーティーの感想も「ヒュッゲだね」、「昨日おばあちゃんと電話で長電話したんだ」「それはヒュッゲだったね」みたいな、非常に広い使い方をされてる言葉なんですね。そんなデンマークの暮らしがどうやら面白そうだということで、取材に行きました。

実際に10軒くらいお宅訪問させてもらっていろいろ見たんですけども、そこで必ずこの質問をしたんです。「あなたにとって、家とは何ですか」。すごく抽象的な質問で、これ日本人でパッと聞かれたときに答えられる人って、あんまりいないんじゃないかな。答えが出てきても「寝る場所」とかね。けど、デンマークで10件取材したら全員即答。その回答はほとんどこれ、「自分のアイデンティティ」。それで、家も素敵なんですね。デンマークなので、家具も素敵なわけですよ。あとほかの言い方としてあったのは、「自己紹介」。もうほとんど言ってること同じですよね。「これが私です」もしくは「家族の自己紹介」といった感じなんです。

あと面白かったのは、この人は若い人なんですけども、新しいマンションを買っているんですね。新しいと言っても、ロイヤルコペンハーゲンの工場をリノベーションしたマンションで、こういった物件は現地では新築扱いになるらしいんですね。新築だからツルッとしているわけです。古くない。それで僕は住んでいる人に、「こういうのは失礼ながら、あまりヒュッゲじゃないんじゃないですか」って聞いたんです。そうしたら、「その通り。だから私は今、家を育てているんだ」「自分でいろいろ手を加えて、居心地の良いものを置いて、自分の色に染めているんだ」という答えが返ってきた。

と、デンマークでこういった取材を行って日本に帰ってきて、急遽、日本の20代、30代の男性一人暮らし、エピソード1のアンケートで最も「満足度が低かった」人たちですね。今日この会場にも20代、30代の一人暮らしの方いるかもしれませんが、そういう人たちを呼んで、グループインタビューをしました。それで、「家の写真を撮ってきて」とお願いして、出てきたのが右の写真です。

加藤:これは、だいぶ偏ってそうですけど(笑)。

島原:これ、とりわけて偏った事例を選んできたわけではないんですよ(笑)。で、左はデンマークで取材した、20代大学院生が一人暮らしをしている部屋。こうやって比べてみると、日本の一人暮らしの家ってどうなの?って思っちゃうじゃないですか。今回は、その辺を問題として意識して調査を始めたわけです。行ったのは主にアンケート調査で、日本の首都在住者とデンマークのコペンハーゲン在住者で、住宅観の比較をしました。

さきほど、「家とは何ですか」と聞いたら、デンマークでは「アイデンティティ」と答えたとお話ししましたが、それをもうちょっとたくさんの選択肢を用意して聞いてみました。日本人の回答がグレーの部分で、デンマークの回答がグリーンです。結果的に、グリーンの方が上に行ってますよね。つまり、デンマークの人たちは、家に対していろんな意味を自分で見出しているということがわかります。

デンマークと日本の差が小さい、つまり日本人の住宅観で相対的にスコアが高いところを見ていくと、「家は誰にも邪魔されずにリラックスできる場所である」とか、「家は誰も立ち入ることができないプライベートな場所である」とか、プライバシー感がものすごく強い。対してデンマークは、「家は仲間や友達を招いて交流する場所である」がすごく高い。つまり、家を「開いている」か「閉じてる」か、という違いが大きくあるわけですが、同時に「家は自分を取り戻す場所である」という数値も高いので、やはり「家はアイデンティティの場所」だと考えているということが、言えるんじゃないかと思います。

続いて、「あなたにとって理想の住まいのイメージはありますか?」と聞くと、日本では回答できる人が26%くらいしかいないんですけど、デンマークでは半数以上いる。じゃあ「理想の住まい像は?」と聞くと、「好きなものに囲まれたい」「心地の良いものだけに囲まれて暮らしたい」とか、「心からリラックスしてぼんやりしたい」といったスコアが高くて、これは日本人もデンマーク人もほぼ同じ。

その中で、デンマークと比較の上で日本でスコアが高い項目はどれかというと、「掃除や手入れの手間がかからない家に住みたい」とか「有名メーカーや大手業者が作った家に住みたい」「傷ひとつない完璧な家を買いたい」「最新の設備が整った家に住みたい」「雑誌に載っているようなおしゃれな家に住みたい」といった感じなんですね。

一方で、デンマークは何が出てくるかっていうと、「家を買う費用は節約して、家具や雑貨にお金を使って住まいを楽しみたい」「刺激や着想が得られるような家に住みたい」といったスコアが高い。要は、「クリエイティビティが刺激される家に住みたい」ということなんですね。さらに、「親しいご近所付き合いのある暮らしがしたい」のスコアも高くて、ローカルコミュニティのことにまで言及してる。このアンケートは実際は20数個あるんですが、全体的にやっぱり日本人のスコアは低く、スコアの高いところも、何というか「モノ」として「良いモノ」、ハードとして志向するような傾向があるわけです。

実はデンマークも、持ち家志向は結構高いんですね(「あなたにとって『自分の家を所有すること』は、どの程度大事なことですか」という質問に対する回答:デンマーク32%、日本30%)。ただ、賃貸率はデンマークのほうが日本より高い。つまり持ち家率は日本より少ないんですけれど、「持ち家を持ちたい」という意識はすごく高い。それで、「賃貸住宅への意識」を調査したデータがこちら。賃貸住宅でも面白い傾向が出ました。

賃貸住宅に住んでいる人に、賃貸住宅での住まい方についてどういうふうに考えていますか、と質問した内容なんですが、「賃貸住宅はローンに縛られなくてすむ」とか、「賃貸住宅は気楽に住み替えられる良さがある」というのは、日本もそこそこ高いんですけど、大きく違うのはここ。「賃貸住宅でも自分らしい住空間(住まい)は作れると思う」と回答している方が、デンマークは71%、日本は30%しかない。それぐらい違う。賃貸でも、諦めていない。

「地域での暮らし方の比較」では、「住んでいる街にどの程度満足してますか」という質問に10点満点でお答えくださいといって、デンマークは平均7.50点、日本は7.06点。デンマークは9点や10点の割合が高くて、日本人は「10点満点です!」となかなか答えにくい性格があると思うんですが、やっぱりデンマークのほうが全般的に高いと。

問題はここです。「今住んでる街で気に入ってる点はどこですか」という質問。これも、日本人の回答は全体的に非常に低いということがよくわかります。気に入っている点が少ない、ということですね。そんな日本人の回答の中でスコアが高いものはというと、「道路や交通機関などのインフラが整っていること」「街の治安が良いこと」「通勤・通学のしやすい地域であること」「静かに暮らせる環境があること」。つまり、便利で静かだったらいいんですね。

一方、デンマークはかなりいろいろな回答が出てくるんですけども、注目するのは、例えば「市民サークルやクラブなどの活動が盛んな地域であること」「自分らしくいられる街であること」「さまざまなチャンスに巡り合える街であること」こういう項目のスコアが高い。

この項目は、左側のほうは、治安、自然災害への強さ、安全性、快適性、便利であるといったインフラ的な項目になっていて、真ん中あたりはコミュニティ、その右は文化水準の高さや人気の街であること、最も右は自分らしくいられること、と、つまり「マズローの欲求5段階説」を下敷きにしながら項目を用意しているんですね(※マズローの欲求5段階説:アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもの。下から上へ「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5層がピラミッド状の階層を成している。欲求は低いものから順番に現れ、その欲求がある程度満たされると次の欲求が現れるとされている)。

その点から日本人の特徴をみると、低いところに回答が集まっていて、右側のほう、マズローの欲求5段階説で言うところの高次元の欲求については、回答がほとんど出てこない。デンマークでは、「自分らしさ」というものを街にも求めている。

次は「地域コミュニティとの交流頻度」についてのアンケートデータです。「近隣住人とどの程度の付き合いがありますか?」という調査。デンマーク人は半分以上の人が地域住人と交流をしている。日本人はほとんど交流してない。なかでも日本人の単身世帯の47%は、「地域住人とまったく交流がない」と答えている。「住んでる街での友人の数」を聞くと、デンマーク人は「0人」約15%、「3人以下」約37%、「4~9人」が約32%、「10人以上」が16%。日本人は、「0人」46%。約半分の人は友達がいない。あ、住んでいる地域にですよ。

日本で住んでいる地域に友達がいるという人は、子供がいる世帯であることが多いんですね。子供が介在したコミュニティは地域にあるけれども、逆に子供がいない人はゼロなんです。さっき言いましたよね、日本の現在の最多世帯構成は「一人暮らし」。その次は「夫婦二人」。つまり、近隣に友達がいない、地域にコミュニティがない暮らしをしている方が、日本には多くいるんですね。

「自宅に人を招く頻度」を聞くと、全体で「月に1回以上」招く人がデンマーク人は77%。ホームパーティーをしょっちゅうやっていて、「週に1回」でも33.8%です。そして日本。「月に1回」まで入れて16%。家に人を招くことはほとんどない。そりゃだって「プライバシーの場所」で、「誰も立ち入ることができない」っていうくらいですからね。まあ、さっきの家(先に写真を見せた日本人単身世帯の住まい)にはあまり行きたくないと思うのですが(笑)。

僕もデンマークで一軒、パーティーに呼んでいただいたんですね。面白かったのは、日本だと、家に人を招いてパーティーするって大変で、朝から掃除をして、買い物に行って、ちゃんとしたお料理を作って…と、いわゆる「おもてなし」をするじゃないですか。デンマークはというと、時間になるとみんなその場所に来るけれど、集まってきただけで、これから買い出しに行こう!って、そんな感じなんですね。みんなで買い物に行って、買って、帰ってきて、みんなで作って、何となくパーティーが始まってるという。取り立てて、準備しているわけではないんです。

そしてこちらは「家での暮らし方の比較」調査。「住んでいる家の満足度」はデンマーク人が7.02点、日本人は6.67点で、デンマークのほうがちょっと高い。まあ、それはいいとして、「家で気に入っている点」の質問。さっきの「住んでいる街で気に入っている点」と同じように、「マズローの欲求5段階説」に倣って項目を並べています。

そこでの日本人の上位3項目はというと、「日当たり・風通しが良いこと」「持ち家であること」「新築で購入・建設したこと」それが上位3つ。「住んでいる家の気に入っているところ」を聞いて、これしか出てこない。非常に寂しいというか、何というかですね。これは、持ち家の人も賃貸の人も合わせたデータなので、賃貸の人の場合、「持ち家であること」「新築で購入・建設したこと」への回答はなくなるので、残るのは「日当たり・風通しが良いこと」ぐらい。「てんとう虫かよ」みたいな話なんですよね。

デンマークの人たちの回答を見ると、「快適性」の階層のスコアが高いですね。デンマークの家って本当に快適なんです。断熱性も高くて、10月の下旬でも軽装で暖房なしで過ごせる。ほかに回答が多いのは、「友人を呼んで交流できること」「家族やパートナーと親密になれる空間であること」、それと「創造性が刺激される空間であること」「自分らしさを表現できる空間になっていること」という、社会的欲求や自己実現欲求に意識が向いている。

続いて「住まいの改善意欲」。これは、今住んでいる家をよりよくするためにどの程度、気を配って暮らしているか、という質問なんですが、ご覧の通り大きな差が出ていて、デンマークは41%の人が、普段から自分の住んでいる家をより良くすることに気を配っている。(※日本人は23%)「リフォーム・リノベーションの経験」もデンマーク人は43%あるんですけれども、これは持ち家と賃貸、合わせた結果です。デンマークでは賃貸居住者でも30%の経験率がある。一方、日本の賃貸では1%です。これくらい乖離している。

「リフォーム・リノベーション」の目的も、「好みのデザイン・インテリアにするため」とか、「高機能・高性能な設備にアップグレードする」といった、「よりよくする」という発想ですね。日本人でリフォームの目的で多い項目は、「古びた見た目をきれいにするため」「具体的な不具合や故障を直すため」。こんな感じ。「ダメだから直す」というのが日本人のリフォーム、「グレードアップする」のがデンマーク人のリフォーム。と、こういう違いがあると。

それから、「インテリアの変更頻度」も高くて、壁紙を変えたり家具変えたり、そういうものも含めた広義のインテリアですけれども、これも頻繁にしている人が多い。じゃあ「どんなことをやってるんですか?」と、インテリアに関する普段の行動を聞くと、「こまめに掃除や片付けをしている」というのも出てくるんですが、たとえば「キャンドルやライティングを楽しんでいる」とか、「観葉植物や花を飾っている」「絵画やポスター、オブジェなどアート作品を飾っている」「好きな家具を一つ一つ吟味して選んでいる」「家族の歴史や子供の成長がわかる写真などを飾っている」というふうに、ちょっとしたことをいろいろやっていますよ、というデータでした。

ということでまとめに入りますけども、デンマークの人は、「マズローの欲求5段階説」でいう、高次元の欲求まで射程されているような住まい方をしていて、住まいに「自己実現」とか、「自分を表現する」「創造性を刺激する」、こういう意味まで入っている。さらに、親しい人との交流もする。日本人は「家はプライベート空間」と考えているんですけども、「家に対する改善」というものはあまりしない。家が「寝に帰る場所」なら、その場所を「心地よく寝られるようにしよう」とか、「心地良く目覚められるようにしよう」という行動に至ることはどうやらなさそうで、家を選ぶときも、簡単に安く手に入って、できるだけパッケージされたモノを選ぶという、モノ志向がある。

デンマーク人に幸福な住まい方を習うとすれば、「自らでより良くしよう」という意欲と行動、つまりこれは「主体性」という言葉で表せますよね。主体性という言葉は、自分自身で考えて行動すること。つまり、自分の判断で行動するときに生まれる言葉です。そこには自己責任という含蓄も当然発生するわけですけども、逆に言うと、だから「賃貸住宅でも自分らしい住まいは作れる」と彼らは思うわけです。と、いうことで、住むことに対する主体性を育てていくような仕掛けが、日本の住宅産業には欠けているのではないか、という結論に至りました。

みなさん、「こんまり」の本って読んだことあります?(※こんまり:近藤麻理恵さん。日本出身の片付けコンサルタント。2010年に出版した著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)がミリオンセラーに。現在はアメリカ合衆国のロサンゼルス在住。アメリカの雑誌TIMEの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。「コンマリ」の通称で知られる)今、Netflixで配信されている、こんまり流片づけ術の番組がアメリカやヨーロッパで大ヒットしているんですね。それで、こんまりの『人生がときめく片づけの魔法』を改めて読んでみたんです。

すごいいいこと書いてあります。何が書いてあるかというと、こんまりは、「私が提供しているのは、片づけ術ではありません」「綺麗に片づいたものをつくってあげるということはしません」と。そうではなくて、「私が提供したいのはマインドです」と。「自分で自分を良くしていく、自分の人生を好転させていくマインドを提供している」のだと。「そのマインドがなければ、片づけなんかできない」って言ってるんです。

さっきの主体性の話と全く同じような話だと思うし、加藤くんのプレゼンテーションを聞いていても思ったけども、やっぱり「自分で関わっていく」主体性というものが、日本の住宅産業の中で取り残されてきたのではないかと思うんですね。そこをハードコアにやっているのがハンディハウスなわけですね(笑)。と、いうことでちょっと時間すぎましたけど、僕からは以上です。

会場:(拍手)

<Part1>Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo/「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする
<Part3>Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo/これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方

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