HandiLabo Talk Session Report part3
住宅幸福論とHandiLabo
speaker
島原万丈(LIFULL HOME’S総研・所長)
加藤渓一(HandiHouse project)
<Part3>
Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo
これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方
「家を趣味にしよう」をコンセプトに掲げ、家のあり方、作り方、楽しみ方を模索し、日本の住文化をつくりなおす場として、2019年4月に始動したHandiHouse projectのコミュニティサービス『HandiLabo』。HandiHouse projectは『HandiLabo』で何をしようとしているのか、そこから世の中に何が生み出されるのか。『HandiLabo』の理念とその先にあるビジョンを深堀するために、2019年7月5日、永田町・LIFULL HUBでトークセッション
「住宅幸福論とHandiLabo」を開催。2019年5月にレポート『住宅幸福論 Episode2』を発表したLIFULL HOME’S総研・所長の島原万丈氏を招き、日本人の住宅観や住宅産業における問題と課題、課題解決のために必要な環境やサービスなど、これからの日本の住宅の“幸福”のあり方を探りました。
<Part1>Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo/「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする
<Part2>Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方/日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント
・Speaker
島原万丈(しまはら・まんじょう)
株式会社LIFULL、LIFULL HOME’S総研 所長。1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)でLIFULL HOME’S総研所長に就任し、2014年『STOCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市] 』、2017年『寛容社会 多文化共生のための〈住〉ができること』、2018年『住宅幸福論Episode1 住まいの幸福を疑え』、2019年『住宅幸福論Episode2 幸福の国の住まい方』を発表。主な著書に『本当に住んで幸せな街 全国官能都市ランキング』(光文社新書)がある。
・Speaker
加藤渓一(かとう・けいいち)
株式会社HandiHouse project。2008年武蔵工業大学(現:東京都市大学)大学院修了後、MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO所属。2010年studioPEACEsign設立。翌年HandiHouse project 始動。「妄想から打ち上げ」を合言葉にデザインから工事のすべて自分たちの「手」で行う集団の一員。ロックバンドのライブの様に演者と観客が一体となって盛り上がり、熱 狂の渦が巻き起こるような家・場作りを目指す。2014年春には海外進出。アジアの南端の島、東ティモールに出向き現地の人との恊働。もの作りを通じたコミュニケーションが人種や言葉の壁を簡単に越えて行くことを実感する。
・moderator
坂田裕貴(さかた・ゆうき)
株式会社HandiHouse project。2011年HandiHouse projectとして活動開始。 HandiHouse projectとして設計施工の活動していく中で家にもっと愛着を、住む人も、作る人も家づくりをもっと楽しく。を、より多くの人に実現してもらえる環境を作りたいと思うようになりHandiHouse projectの新たな試みに力を入れている。
_ Talk Session:島原万丈×加藤渓一|住宅幸福論とHandiLabo
これからの日本の住まいにおける「幸せ」のあり方と作り方
坂田:
それでは、これまでの話を元にトークセッションをしていこうと思うんですが、二人だけが話すというのではなく、今回は会場のみなさんにも主体性を持って関わってもらうために、この段階までの二人の話を聞いて、例えば「島原さんの研究レポートについて、もうちょっとここの部分聞いてみたいな」とか、「ちょっとハンディハウスが何やってるのかわかりませんでした」みたいな(笑)、そういった質問があればと思いますが、質問があるかたいらっしゃいますか?
参加者1:
(挙手)はい。今回の調査は、デンマークでも日本でも、都市部と郊外、さらに田舎とで差があると思うんですけど、そういった調査エリアによる違いといったところまでも、調査されてるんですか。あ、ハンディの中田裕一です。
島原:
今回の調査対象エリアは、デンマークのグレーターコペンハーゲンと呼ばれるエリアで、いわゆる日本でいうところの首都圏、一都三県に当たるエリア。なので、都心部から郊外と呼ばれるようなエリアまで含んで行っています。戸建ても結構多いエリアです。
坂田:
その質問の意図は?
中田:
日本とかなり違うと思うんですよ。都心に住んでいる人と、ちょっと離れた郊外に住んでいる人と、さらにもっと田舎町に住んでる人と、彼らの「幸福な住宅」というものは、地域による価値観の差もあって、それぞれで違うような気がしていて。
中田理恵:
島原さんのレポートの話では、デンマークの場合は都市部の人たちがこれだけ主体性を持って住んでいるということがとても衝撃で。日本の場合、地方の人のほうが家のことに主体性を持っているというイメージがあったので。あ、ハンディの中田理恵です(笑)。
島原:
そうですね、確かに、日本の東京を中心とする首都圏と言われるエリアと、例えば僕の実家は愛媛県の南の方なんだけど、その2者で違うのは間違いないですね。何が違うかと言うと、人との交流頻度がすごく違うと思うんです。東京と比べて、人を招くとかの部分が。けど、現代ではもはや、地方都市と言えども、いわゆる商品化された住宅がほとんどで、昔ながらの大工さんが作ったような家は少なくて、地場工務店のつくる家でもメーカーの建材をこう、ぱっぱって組み上げるみたいな家とか、建売みたいな家が地方でもすごく多いので、住まいというものに対する関わり方というものは、それほど違いがあるとは言えないような気がするんですね。首都圏と違うところとして、「庭づくりをしている」とか、そういうのはあるかもしれないですけどね。
坂田:
今のやりとりを聞いていて、日本人は家に人を招かなくなっている。デンマーク人は家に人を招く文化がある。で、それが住まいに主体的に関わるという意識につながっているんだということを考えると、加藤が名言、いや、迷うほうの迷言かな(笑)。「コミュニティが工具になる」と発しているんですけども、「何を言ってるんだ加藤は」って思われちゃうかな?(笑)。「コミュニティが工具になる」というのはどういうことなのか、その話を深めると、日本人に求められる住まいへの主体性の持ち方についての可能性も見えてくるのではと思っているんですが、どうでしょう加藤さん。
加藤:
以前に島原さんが「LIFULL HOME'S PRESS」の記事で、一番最後に、「DIYというのは個人的で小さな経験なんだけど、その経験が住空間に対する見方や接し方を変える」「小さくて大きな生活革命」ということを書いていて(※「LIFULL HOME’S」LIFULL HOME'S PRESS「DIY的 ー この小さくて大きな生活革命」)。
工具を使うことやDIYって難しいように見えて、実際はすごく簡単で、それができることが大きく暮らしを変えてしまう。『HandiLabo』はオンラインサロンを始めていますが、この場も同じような効果を生むことができるんじゃないかと思ってるんです。
要は、ほかの人が作っているものを見たり、かっこいい暮らしをしたりしているのを見る。それが、オンラインサロンという括られた枠の中であったりすると、距離感が近いわけじゃないですか。「僕もやってみよう」と思いやすいというか、主体的に考えやすくなるというか、背中を押されるような感覚になるんじゃないかと思っていて。例えば、「木を切る」となったときに、手ノコでもいいんですけど、それよりも電動丸ノコのほうが早いし正確だし、というのと同じような感覚で、コミュニティがDIYの補助として働くんじゃないかと思って、「コミュニティが工具になる」という名言!?を発したわけです(笑)。
坂田:
なるほど。確かに、合板を長手方向に全部手ノコで切らなきゃいけないのかと思うと諦めてしまいそうだけど、知識があればホームセンターでぱっと切ってもらえばいいんだって思えるように、自分だけの世界で暮らしていると何も起きないけれど、そういったコミュニティがあると意欲も湧くと。そういうことですね。
島原:
デンマークの調査でね、実はよくよく考えたらちょっと違和感があることがあって。何かと言うと、「家は私のアイデンティティ」というデータですね。日本のマーケットでも僕らのようなメディアがよく言うように、「私らしい家」まさにそれをつくろうとしているわけですね。家で自分自身を表現するという。そして、写真を見てもらった通り、彼らは非常に空間づくりが巧みなので、「私らしい家」というものをインテリアで表現しているわけです。そして、住まいに対する満足度も高い。それはそれでいい。いいんだけども、だったらなぜ、あんなにも頻繁に家に手を入れて、家を変えているのか、ということ。
加藤&会場:
あーーー。
島原:
一見すると、失敗してるの?って話ですよね。でもよくよく考えてみると、どうも最初に「確固とした私」というのがあるわけではなくて、たぶん、家づくりをしながら「私を作っていく」そういう感覚なんだと思うんです。そこで大きな役割を果たしているのが、やっぱりホームパーティーで、新しいメンバーがパーティーに来ると、まずその家のツアーをするらしいんです。つまり、パーティー時の定番の話題がインテリアなんですね。
自分の家に人が来ると、「ああいうのいいよね」「こういうのいいよね」と言ってもらえるし、自分もほかの人の家に行っていろいろ見る。そうしたサイクルによって、また自分の家を改造したくなるわけですね。変えたくなっていく。そういうふうに、何ていうのかな、「工具」という言い方なのかはわからないけど、デンマーク人にとっては「人付き合い」が家づくりの大きなモチベーションになっていることは間違いなくて。つまり「コミュニティ」が。「家は自分らしさだ」「自己紹介だ」「自分のアイデンティティだ」と言えるのは、コミュニティがあった上で自分のアイデンティティが確立されているということですよね。
日本人は、アイデンティティというものは「自分の中だけにあるもの」と思いがち。「自分らしさ」というものは、「自分の奥底にある生まれ持った何か」と、いうふうに思ってる人が多いと思うんだけども、基本的にアイデンティティというものは、人との関わりの中で出来上がっていくものですよね。そういう意味で、もし家づくりに対して「私らしさ」ということがすごく求められるんだとしたら、ものすごく簡単にドライブする方法として、「人と交流しながら」というのが、デンマーク人の中にあるんだと思うんですよね。
加藤:
僕は島原さんのこのレポートの中で、島原さんと同じところに「おっ」と思って。レポートの中で、デンマーク人の住まい観について、「とりあえずの私を映した空間」と書かれていて。その時点では完璧ではないんだけど、作り変えることで、空間を更新し続けることで、自分のアイデンティティを育てていく。家と一緒に育てていくという。「とりあえずの私を映した空間」を改善することが暮らしを楽しむこと、といったことを書かれていたんですが(※『住宅幸福論Episode2』P220:「3 住まいの幸福とインテリア」)。その辺もちょっと話していただけたら。
島原:
うん、これはデンマーク人の「家は私のアイデンティティです」という言葉をその通り受け止めた場合のモデルですね。「私」というものがあって、それを広い意味でのインテリアとして「私らしい家」を表現している。「本当の私」という確たるものがあって、インテリアに対するテクニックが優れていれば、この表現は一回で完結するはずなんです。なのに、満足度も高いのに、なぜ住まいの改善に余念がないのか。
と考えると、やっぱり「本当の私」なんてものは、実はなくて、実際のところは「なりたい私」であって、こんな私になりたい、こんなふうになりたいというのを、家で表現している。そして、そこに他者がやってくる。他者との交流の中で、自分はこう表現したけど、みんなにはこう見えた、こう評価された、そこには当然、ズレが出てくる。そのズレを直そうしていく。その動きがずっと止まらない。なので、ずっと家に関わり続ける。そうして家を常に改善し続けているけど、その時点では常に最高の満足度がある。そういうことなのではないかと。このベクトルこそが「私らしさ」というふうに考えられるんじゃないかな、と思っています。
坂田:
日本人と根本的に違うのは、一発で正解にたどり着くことを求めちゃう性質みたいなものとか、あとは他人から批評されることに対して慣れてないというところでしょうか。(課題として)そういう状況がありますよね。作ったものに対して「何か微妙」って言われたらどうしよう、と思って見せられない日本人と、作ったものに対して「私こう思って表現してみたけどどう?」って聞ける、デンマークの人の環境みたいなものとの差が大きい感じがしますね。
島原:
そうですね。あの、「私らしい家を探す」ってフレーズ、すごくないですか。冷静に考えたら。
坂田:
それは名前の方の“めいげん(名言)”ですね。
島原・加藤:
(笑)
島原:
「私らしい家を探す」って、「家は買うもの」という日本人の感覚に置き換えたら、デベロッパーかハウスメーカーが作った家の中に「私らしさ」がある、ということですよね。ちゃんと考えたらおかしな話であって、「私らしい家」というものは「自分で作っていかざるを得ない」という話で、それを実践したとしても一発で完成できてしまう人はいないというのが、面白い答えだと僕は思っていて。
加藤:
確かに。日本だと「家は変えられないもの」という意識があるじゃないですか。だから、無難な家を選ぶ。それから先30年くらい住む家を、3ヶ月くらいで考えて、決めちゃうんですよね。
でもわかんないじゃないですか、先の変化なんて。住む前のたったの3ヶ月にこれから先30年に起こることをすべて考えて、それに変わらずに応えられる家を決めるって、すごく合理的じゃないし、実現するにはお金もすごくかかる。先々の暮らしにもMAXで対応する家を最初の時点でつくろうとすると、もう4、5千万円とかかかっちゃうじゃないですか。
中途半端な状態でも良ければ、それが2千万円とか3千万円とかに収まって、残りの30年で1千万円とか2千万円とかお金をかけながら、家をどんどん改善していく、良い家具を買っていく、みたいな。まさにデンマーク流というか、そういう家づくりのあり方を提唱していけたら。
島原:
今出たその「やりながら考えていく」考え方って、デンマークもそうなんだけど、都市計画でも結構あるんですよ。日本だと何十年も前に計画した都市計画を「今やるの!?」っていうの、あるじゃないですか。40年前の計画がやっと動き出したみたいな。デンマークでは都市計画とかも、とりあえずやってみて、それで様子をみて、ちょっとずつ変えていくという考え方をしているらしいんですね。
これは研究レポートの中で菊池マリエさんが書いてくれているんですけど(※『住宅幸福論 Episode2』P.150 幸福度No.1の国の「幸せ)と「家))、デンマークの民主主義では、A案・B案・C案があったら、多数決を取ってどれにする?っていうやり方をしない。A案・B案・C案があって、みんなの意見がバラバラだったら、みんなで議論してD案を作ろう、という話なんですね。
それってすごく「柔軟に変わりゆく私」というものを表している気がしてるんです。個人のアイデンティティというものに関しても、ディスカッションする、議論する、民主主義的なアイデンティティの作り方があって、議論していく過程の中において自分が出来上がっていく、交流する中で自分が出来上がっていくのと同じ構造になっている。その、議論してアイデンティティを作っていくやり方って、日本だと議論というものはディベートになりやすくて、勝ったものの意見が通りやすい、勝った負けたという話になりやすいんだけど、A案とB案が違うねってなったら、C案を考えようというのが本来の「議論」なので、そういうデンマークらしい民主主義的な個人主義というものと住まい観が、同じような形になってるのかなと。
坂田:
ここまでのお話を聞いて、何かご質問のある方はいらっしゃいますか?
参加者2:
デンマーク人の主体性についてのお話なんですが、教育の観点からみると、日本と比較してどうなんでしょう?
島原:
これ、そこまでレポートに書いたら、「結局、そこから違うからダメじゃん」となったら嫌だなと思って書かなかったんですが、民主主義教育というものの影響は本当に大きいです。フォルケホイスコーレ(※フォルケホイスコーレ:北欧独自の教育機関。ニコライ・フレデリク・セヴェリン・グルントヴィが理念を提案し、クリステン・コルが創始した)という有名な教育スタイルがあるんですが、そこは学校なんですけど、日本の教育では、前に先生がいて、黒板に書いていくわけですよね。つまり正解を教える。そしてテストをする。でも、フォルケホイスコーレではテストはしないんだそうです。その人に、その子供その子供に合った勉強をしましょう、という。教えるというか、教育というもの自体が日本とは随分違うのかな。「study」より「learning」みたいな、そんな感じなのかな。それと、さっき言ったように議論をとにかくする。そういうやり方をしているらしいので、それは彼らのアイデンティティの作られ方に影響しているかなと思いますね。
参加者3:
私も以前、ヨーロッパに住んでいた時に感じたんですけど、日本で家借りて住むときって、まず汚しちゃいけないとか、壁を壊しちゃいけないとか、じっとしてないといけない。
島原:
じっとしてないといけない(笑)。
参加者3:
日本の場合、とにかくじっとしてないといけないっていうのが先なんですけど、民度とかもあると思うんですが、ヨーロッパではそもそも建物も300年前のものとかで、数ヶ月だけ住む場合でも、「まあ壊さないで」くらいしか言われないんですよね。デンマークの「賃貸でも自分らしさを表現できる」というのは、貸す側の意識も、日本と全然違うんじゃないかと思って。
島原:
そうですね。アメリカとかパリとかロンドンも僕、取材したんですけども、そこほどは、デンマークでは賃貸のリノベーションを勝手にやっていいわけではない。やってもいいけど、原状回復義務はある。ニューヨークとかロンドンはないですからね、そんなの。よっぽどのことをしない限りは。デンマークでは原状回復があるのであんまりできないんですけど、それでもやっちゃう。それがまず、ありき。
参加者3:
えっ、それは…。
島原:
要は、「原状回復すればいいんでしょ」って感覚なのね。そこでちょっと面白いなと思ったのは、デンマークには民間賃貸とNPOがやっている賃貸とがあって、その所有者というか運営者によって違うんですけども、賃貸住宅そのものに修繕積立金がある。歴代の住人で積み上げてきた積立金があって、その原資をもとに、じゃあ今回入居するときに、キッチン古くなっているので変えましょうか、という形でリノベーションはできる。
坂田:
敷金のちょっと形が変わった版のような。
島原:
そうですね。修繕積立金をちゃんと集めてる。
加藤:
あと、デンマークの人は自分で次の住人を探すってことも、レポートに書いてありましたよね。それも大きな要因になっていそうですね。
島原:
そうですね。デンマークのコペンハーゲンは、実は家が全く足りない。空き家がまったくないので、家探しというものが一大イベントになっていて、FacebookなどのSNSで「家を探してる」という人がいーっぱいいて。それぐらい逼迫している。
坂田:
自分で見つけてきた人に貸すと原状回復義務がなくなるとか。
島原:
たぶんそういうことなんでしょうね。次の住人が「これでいいよ」と言ったら、そのまま住むんでしょうね。
参加者4:
賃貸不動産管理の会社に20年以上勤めております、伊部尚子と申します。私が勤めているのはハウスメイトパートナーズという会社なんですけども、管理戸数は全国で7番目、21万戸以上お預かりしていて、その中で私自身6年くらいですか、「賃貸でも穴を開けていいんじゃないか」「原状回復しなくてもいいんじゃないか」という活動を地道にやっています。うちの会社も創業44年なので、古い物件がいっぱいあって、もう正直、現場で原状回復をやってきた我々としては、もう穴ぐらい空いてもいいんじゃないって思う物件、すごくいっぱいあるんですよ。
オーナーを安心させるためにDIYが可能な物件用の契約書も作って、仕組みもつくって、「この壁は穴あけ放題だよ」みたいな物件をつくって、この前も練馬区で、加藤さんも見に来てくださっていましたけども、DIYがかなりできる物件をやってるんですよ。「LIFULL」とか「at home」とか「SUUMO」とか、いろんな不動産ポータルサイトに物件情報を出すんですが、そういう特殊な物件の入居者募集に苦労しているところがあって…。
島原:
「goodroom」いいんじゃない?あ、俺がこんなこと言っちゃいけないか(笑)。
参加者4:
「R STORE」に載せてやっと反響が出てきたんですが、DIYがやりたい人となかなかつながれないんですね。そうなると周囲は、「やっぱり決まらないじゃないか」とか「お客さんがいないんじゃないか」と、なかなか賛同者が増えない状況で、これ、どうやって増やしたらいいんでしょう。
加藤:
DIY賃貸に対して僕らは、通常の管理と、僕らはクリエイティブ管理と呼んでいるんですけど、DIYをサポートするクリエイティブ側の管理と、ふたつあると思っていて。僕らはそのクリエイティブ側の管理、自分らしさを作る方の管理を、僕らのサービスの中で行っていきたいなと思っていて、例えば『HandiLabo online』付きのDIY賃貸だったりとか、そういうものも今後サービスとしては展開していきたいと思ってるんです。
僕らがやっている「アパートキタノ」も、やっぱり募集に関してはなかなか難しくて。いきなり「DIYできるよ」と言っても、なかなか。僕は賃貸って、無責任でいいと思うんですよ。自分のものじゃないから、人のものだし。(DIY賃貸なんだから)自由にどんどん試行錯誤すればいいのに、そういうマインドって日本人の中にはなかなかなくて、それを掘り起こすにはすごく時間がかかると思うんですけども、地道にやっていくしかないのかなと思っていますね。
坂田:
「アパートキタノ」で、無責任でいいのに、何で全然やんないの!?みたいな、もうちょっと深い話とかないの。加藤渓一的にはもうちょっとこうしてほしいんだけど、みんな全然何にもやんねえな、みたいな(笑)。ちょっと、住人も来ているのでその前で言うのもあれかもしんないけど…。
加藤:
いや、「やらないなー」みたいなのは、ないかな。むしろ、すごく面白く住んでくれてる。正直、僕も予想以上と言うか、普通のサラリーマンの人もいれば、建築系の人とか画家さんとかいるんだけど、DIYっていうフィルターを通すと、こうもいろんな人が集まるんだなという実感があって、そこに希望を持ちましたね。
そういう人たちが集まると、めちゃくちゃ仲良くなるんですよ、急に。このあいだ、夜中の12時とかに「鍵を無くして部屋に入れません」という連絡が住人から来て。そしたら結局、同じようにDIYしてる人の部屋に、泊まらせてもらってたんです。slackの中では繋がっていたんだけど、ちゃんと会うのはそれが初めてだったっていう。そこで泊めてあげられるほど仲良くなっちゃうっていうのは、要因にDIYがあるんじゃないかなって。
島原:
2011年かな。青木純さんが「ロイヤルアネックス」というマンションで、「入居者が好きな壁紙を選べる」という賃貸住宅シリーズをつくりましたよね(※青木純さん:株式会社まめくらし代表。家業の不動産賃貸業を継いで大家となり、空室率25%超えだった「ロイヤルアネックス」をカスタマイズ賃貸という手法で貸し出し人気物件に再生。「新時代の大家」として賃貸住宅の企画やまちづくりに関わっている)。
「ロイヤルアネックス」は「壁紙が選べる」で有名になりましたけど、やっぱそれも最初、青木純さんは「いいこと閃いた!」って思ったらしいんだけど、いざそれで募集したら、入居者は「白でいいそうでーす」って。
会場:
(笑)
島原:
でもそこで、「白と言ってもこれだけあるぞ」という話をしたりとか、青木さんが入居者をサポートすることによって、そういうことが動き出した。僕らメディア側の人間が「ロイヤルアネックス」に取材に行ったときに、住人がいないと、「鍵開けて部屋見てもいいですよ」って。自分は留守なのに「取材来ていいからみてください」って。それで行くと、「取材お疲れ様です」って、お菓子とか置いてあるわけですよ。「そんなことができるのは何故なの?」って聞くと、「自分が選んだ壁紙でつくった家をみんなに見て欲しいから」って。そこから始まってるんですよね。そういう動きが広まってくると、面白いですよね。
加藤:
面白い。でもやっぱり問題点としては、家にお金をかけないというか、そういう価値観。それは家が高いから、最初に家を買う際のお金が高いからというところが原因だと思うんですけど、その後の家にお金かけないじゃないですか。で、洋服だとか習い事だとかにお金をかける。その辺の感覚って、どういうふうに変えていくのがいいのか。
島原:
確かにね。住宅産業、広義のインテリアについて、ライバルは服かもしれない。
加藤:
あっ…。そうですね。
島原:
どことお金を奪い合っているかを考えたときにね。日本人が、さっきのデンマーク人の家の作り方を素晴らしいと思う、素敵だと思う。でも、彼らがやってるその感覚って、日本で言えば、服で「私」をつくっている。自分を表現してる感覚にすごく近いと思うんですよ。逆にデンマークの人たちは、服装がすごく地味なんですよ。みんな黒いパンツ履いてダウン着て、以上。みたいな。そんなに服にお金かけてないですね。だから日本人がデンマーク人の住まい方の感覚を想像するなら、服を考えたら、すごくわかりやすいかなと思いますね。で、その感覚をどうやって、家に持ってくるか。
加藤:
うんうん。なんかその辺が、もっと気軽にできるといいと思うんですよね。だから僕らも、『HandiLabo』で子供向けもやって、学生向けのワンルーム賃貸もやって。上流というか、そういうライフステージの人たち、若い人たちにアプローチしてる。要は、結婚して家を買うときにアプローチするのは、実はもう手遅れで、そこをもっと源流から変えていかないといけない。洋服を買うのではなく、良い家具を買うとか、自分で作るとか、そういう主体性をどう育むかというのは、すごく大事だなと思いますね。
参加者5:
DIY欲とか、家にどう手をかけるかというモチベーションの話になったので、ちょっと聞きたかったんですけど、自己実現欲みたいなのもあると思うんですけど、服って着なきゃいけないものだから、着るじゃないですか。着なきゃいけないものだから、どうせならプラスアルファで自己表現をしようと。
でも、日本の家って賃貸でも、ワンルームでも、最低限満たされ過ぎているのが、あまり手を入れない理由なのかなと、さきほど質問なされた方のDIY賃貸普及についてのお話とか聞いて思ったんですけど。そこで、「アパートキタノ」はいい具合で満たされていないことが、いいのかなと。キッチンにはコンロもないし、収納もないし、あとやっぱり日本人は合板を見ると「完成していないもの」という偏見があることが功を奏しているんじゃないかと。
加藤:
あー、なるほど。「これ下地でしょ」みたいな(笑)。確かに。
参加者5:
「それが良い」と言う人もいるかもしれないけど、「何かしないと」と思わされるというか。「アパートキタノ」はあの絶妙な足りなさ具合が意図的なものだと思ったんですが。
※「アパートキタノ」の入居前の住戸
加藤:
僕としては、合板のままでもいい具合に住める状態を目指してデザインしたんですよ。ちょっと木目が活きていて、キッチンもtoolbox(※toolbox:「自分の空間を編集していくための道具箱」をコンセプトに、内装建材やDIY用品、工事サービスを提供しているウェブショップ)のかっこいいやつが付いていて。普通のクロスとかシステムキッチンより、ああいう木の感じがいいよね、と。
でも確かに、今思うとそうかもしれないですね。ただそれが、大家の思惑が見えるというか、要は、もうボロボロの物件で、最初にお金も手もかけたくないから、「DIYしていいですよ」みたいなのあるじゃないですか。そういうふうに見えるのは、僕ら嫌だなって思っていて。さっき島原さんのレポートのプレゼンの中でも出てきた、ゼロからプラスにする、暮らしを変化させるという話で(※新築扱いの物件を「育てている」と話すデンマーク人のエピソード)、日本ではマイナスをゼロにするためにリフォームとかリノベーションを行うけれど、そうじゃなくて、ゼロからプラスにするために手を加える。そこからプラスしていける状況をつくるためのゼロのデザインというのは、僕すごい大事だと思う。
参加者5:
それで、『HandiLabo online』では、ゼロからつくるためのきっかけづくりをしていく、という。
加藤:
そう!そろそろ『HandiLabo online』の話をしないと!
島原:
『HandiLabo online』のオンラインサロンの話ね。さっきプレゼンしてもらったんですけど、結局のところハンディハウスは、オンラインサロンによってどんなことをしたいのか、オンラインサロンがあることはハンディハウスにとってどういう意味があるのかとか、その辺りもうちょっと聞かせてもらってもいい?
坂田:
えっとですねー、オンラインサロンがあることで何があるのかっていうのは、僕の頭の中ではもう、いろんな可能性が輝き過ぎていて、まとまらず中途半端な状態なんですけど。
島原:
それでとりあえず実行したってわけだな(笑)。
坂田:
そうなんですけど(笑)。形を作り込む前に、まずやってみる派だなと思いまして。とりあえずやり始めたというところはあるんですけど、ひとつ大きなものは、加藤が話していた、ハンディハウスの「妄想から打ち上げまで」というライフステージの、前とかもっとあとをサポートできるといいよねというのが、あったと。
あとは、僕らハンディハウスは今13人いますが、本当はもっと、僕らのような考え方をする作り手とか、こういう住まい方をしたい人が、いるんじゃないかと思っていたんですね。僕らは2011年から活動を開始して9年目になりますけど、似たようなことをやっている人たちがどんどん出てきて、もう僕ら3年後には食えていけないんじゃないかとか、そういうふうになるんじゃないかという話を飲みながらしてたんですけど、蓋を開けてみたら9年間、僕らとマジで競合する人たち出て来ねえぞっていう(笑)。
結局それって、「マーケットが育っていない」ということになるし、こんなんじゃ面白くならないなってことで、住まい手もつくり手も、もっと作ることに主体的になれる場をやらなきゃまずい、という思いがありました。そのために、どういうコンテンツをここでやっていけばいいのかということは、模索中って感じです。
島原:
加藤くんは何かイメージあるの?
加藤:
今、坂田がプロに対する話をしたので、僕は一般ユーザーに対しての話をしようと思うんですけど、さっき言った通り、ハウスメーカーだったり建売だったりマンションだったり、「完璧な家を最初に買う」といった感覚を、やっぱり変えていきたい。(住まいに対する主体性の持ち方について)島原さんは「ハコはあまり関係ない」とお話されていましたけど、僕は、そういう暮らしができるハコをつくることとか、そういう暮らしがもっと主体的にできるような人をどう育てるかにすごい興味があって。なので、子供向けのワークショップとか賃貸とか、『HandiLabo』という考え方から生まれてくる事業や活動は、どんどんやっていきたい。
ただ、僕ら自身はDIYとか自分たちの手で作るということをモットーとしてやってきたので、そこからはぶれずにやっていきたいし、主体性を獲得する上で、この手法は大変ではあるけど近道というか、一番の特効薬だと思っているので、それを信じてやっていきたいなって。
島原:
オンラインサロンに対する質問がある方います?
参加者6:
加藤くんと同じ八王子市から来ました。『HandiLabo』の活動を通じてマインドを育てていきたいとお話されていましたが、「DIYがやりたい」とか「そういう暮らしがしたい」といったことは、本当は今でもみんなが思ってて、そういう思いはあるけども、例えばお金のことだったり、仕事場への距離とか、通勤時間のことだったりとか、そういったハードルを越えられないから、進んでいかない。
マインドが育って、仕事のことやお金のことも乗り越えられたら、そういうマインドの成熟は進んでいくのかもしれない。それで、さっき島原さんがお話されていた、時代が令和になって、これから5年か10年かわからないですけども、会社に毎日行かなくてもいいかもしれない、家で仕事ができる時代にどんどんどんどんなっていくかもしれない。そういった社会の変化が起こると、こういう暮らし方が一気にブレイクスルーするというか、住まい方も変わっていくんじゃないかなっていう期待をしているんですが。まあ八王子に住む者としては、八王子は土地が安いですから、お金の問題はクリアできると思っているんですけど、働き方の変化による住まい方の変化というのは、起こりうるのかどうかについて、話をお聞かせいただけたらと。
島原:
これから働き方がどの程度変わるのか、あるいはどの程度の速度で変化して、どの程度変化が広がるのかは、すごく大きい問題になると思うんです。今はどちらかというと、夫婦共働き、共働きで子育てをしたいというニーズが一般的ですよね。そして、住宅を買える層がどんどん都心に近づいてきている。というのが、不動産マーケットの現状ですよね。逆に郊外は、すごく厳しくなってきている。駅から遠いものは特に。
けれどもさっき言ったように、本当に週1回とか3回とかしか会社に行かなくてもいいんだったら、無理をして都心に住む必要はない。都心が好きなら別ですけどね。それだったら、例えば逗子で暮らしたいんだけどちょっと日々の通勤がキツイから、と諦めることがなくなるとか、八王子とか埼玉のほうに引っ越して、という働き方もできるようになる。しかも郊外や田舎の家は格安だし、ちょっと条件の悪い不動産だったら、流通すらしないでタダ同然になっているものがある。そこにDIYの技術を持っていったら、ハックできると思うんですよね。社会構造的にネガティブな問題になっている空き家をハックする。そんな空き家を使って超ハッピーに住める。みたいなね。そういう方向性が出てくると思うんですね。働いている人の何割がそれを享受できるかはわからないけども、一定数が増えるのは間違いないかなって僕は思ってます。
加藤:
「DIYって文化になるんですか」みたいな質問をすごくよくされるんですよ。僕らはそこに立ち向かいたいなと思っていて、オンラインサロンという場をつくったんですね。場所に捉われずに参加できる。場所に捉われずに参加できることにすごい意味があって。だから、僕らと同じような思いを持ってるけど、何となく手を出せずにいるという人がまわりにいたら、オンラインサロン参加してもらえたらなと。
ちょっと僕が今、オンラインサロンで個人的にやろうと思っていることがあるんですけど、僕も今、八王子に住んでいて、家を買って一回作ったんですね。そして最近、結婚しまして。(会場から拍手)あ、ありがとうございます。そうしたら奥さんからですね、「使いづらい」とクレームが来まして(笑)。「もっと良くしてくれ」と。でも僕はそこでへこたれずにというか、もともとビスを外せば変えれるように作ってたんですよ。
島原:
こんなこともあろうかと。
加藤:
そうです、そうです。もともとは僕一人のために作った家だったんですけど、一人暮らしでも荷物とか増えていくじゃないですか。そういう時に変えていける形。自分のパーソナライズを、どんどん進化していくような状態を自分の家で実践して、それをオンラインサロンに投稿したりしていきたいなーと思っていて。
『HandiLabo』のコンセプトは「つくる、学ぶ、失敗する、考える」なんですが、「作って終わり」ではなくて、そこには失敗もあって、そんな失敗も共有しながらやっていく。「さあ、家の妄想を始めよう」とも書いているんですけど、そんな情報の共有から「自分もやってみよう」とか、お互いのちょっと背中を押すような関係を築けたらと。
たぶん日本人って、そういう感覚からやっていかないと、いきなりシステムとかハコを用意しても、誰もやらない。やっぱり変わっていかないと思うので、オンラインサロンを何となく覗いているうちに、「何か自分でもできそうだな」と心境が変化する、みたいな。「家に対してこういう考え方もあるんだ」みたいな。オンラインサロンがそういう場になってくるといいなと。僕ら提案する新しい住まい方だとかも含めて発信することで、みんなが希望を持って、もっと自由になって、やれるようになったらいいなと。そこで困ったことがあったら、オンラインサロンに投稿してハンディが答えてくれるとか、お金を払えば手伝ってくれてといった、そういう関係をつくれたらいいなと思ってます。
※加藤の自宅である「ハチオウジハウス」(出典:カウカモマガジン)
島原:
今どきネットで検索すると、「壁紙の貼り方」とか、動画で出てくるわけじゃないですか。『HandiLabo』のオンラインサロンは、ただノウハウがあるわけじゃないよっていう。
加藤:
そうですね、ハウツーではないです。もうちょっと一歩進んだところですね。
坂田:
さっきの、「つくり変える」って話。僕は東京に出てきてから4回くらい引っ越ししてるんですけど、僕の家のリビングに置いてある家具がベッド以外全部…、なんでリビングにベッドあるんだっていう話は置いといて、ちょっと安く買ってきたベニヤ板か、現場で余った角材で作られてる家具なんですよ。
引っ越しの度にとか、ちょっと気分が変わったときに、「この棚板のサイズをちょっと変えてこういうふうに使おう」といった感じでやってて、毎回ちょっと小さく切り刻まれながら、家具がトランスフォームしていくみたいな住み方をしていて、オンラインサロンを始めた今、何でそれをちゃんと全部記録取っておかなかったんだって思うんですけど。
加藤:
(笑)
坂田:
でもそれをみんなができるかというと、僕はプロで、材料も現場に転がってたりする状況があるじゃないですか。でやっぱり、そこの差は解決すべきだと思っていて。
DIYの情報はインターネットで見つけられて、質問もオンラインサロンがあればできる、となるんですけど、その先にあるものはリアルなものなわけです。今日の会場にもお越しいただいている相羽建設の迎川利夫さん(※相羽建設株式会社:東京都東村山市の工務店。新築住宅「小さなお家と大きなお庭」でHandiHouse projectと協働)が以前にお話してくださったことなんですけど、昔は家に「通いの大工さん」がいて、その人たちと一緒に相談しながら家を作っていた。「子供が大きくなってきたから部屋をこういうふうにしたいんだけど」みたいな、そういう話ができる人との付き合いがあったというのがあって、そういうのが実現できると良いなって思うんですよね。
『HandiLabo』もオンラインサロンも、僕は本当は「ハンディ」という名前を付けなくても良いかなと思うくらい、本当にいろんな人に使ってほしくて、その場で、同じコンセプトや同じ哲学を持ったつくる側の人と、使う側の人たちが出会って、気の合う仕事をやってくれると、作る側も、住む側も、そんなにハッピーなことはないと思うんですよね。そういう場を目指していきたいなと思いますね。
島原:
全国にこういう場所を作るとかね。こういうハンディみたいな集団が、各所に現れてくると面白いなと思うんですよ。元素人でも良いんですけど。「リノベーションスクール」(※リノベーションスクール:株式会社リノベリングが運営している、実在する遊休不動産を題材に活用プランを作成、オーナーに提案して実事業化を目指す、リノベーションによるまちづくりの実践的スクール)はそういう機能というか、プラットホームになりつつあるじゃないですか。それとはまたちょっと違う切り口なんだけども、このプラットフォームからどんどん新しい挑戦者が出てくることも、すごく楽しみですよね。
坂田:
そろそろ締めの時間なんですが、質問ある方いらっしゃいますか?
参加者6:
オンラインサロンでできることについてなんですが、有料会員になるとラボの利用ができるとかありますけど、オンラインサロンで、ハンディのメンバーや参加しているプロのメンバーが、空間づくりのアイデアなどを発信する、会員になるとその情報が得られるよというのはわかるんですけども、エンド側は、例えば「こんなの作りたいんだけどヒントください」とか、「手伝ってくれる方募集してます」とか、そういう使い方をすることは、ありなんですか?
加藤:
全然、可能です。なので、DIY賃貸の管理会社さんとか大家さんとかと一緒に組んで、そういった物件や利用者を増やしていく活動もしたい。あと、DIYをしていて困ったときに対応していくこと。僕も「アパートキタノ」の住人さんから質問がきたりもするんですよ。でも、そんなに難しい質問じゃないんですよ。「木に何か塗りたいんだけど、どういう塗料塗ったら雰囲気良くなりますか」とか。それを僕が教えたり。
質問者6:
そういうレベルのことを、どんどんオンラインの場に投稿していいんですか?
加藤:
僕はアリだと思ってます。
質問者6:
きっと賃貸でDIYしようとしている人たちは、そういうレベルのことも知らないからきっと何もできなくって、実は私はいつもDIYする際に、ひっそり加藤さんに連絡して、「これの板厚はこれでいいのか」とか、「収まりはこれでいいのか」とか聞いてるんですけども、それをオープンにして、みんなとシェアしてもいいのかなと。
加藤:
シェアしたい! つまり、また何かDIYする気ですね?(笑)。そういう投稿は、僕は本当に全然良いと思っていて、それを見てみんなが「やっぱり同じ悩み持ってるんだ」とか思えたらいいなと。「こんな簡単なこと聞いていいのかな」って思うかもしれないけど、正直言ってネットを調べればいくらでも出てくる情報ではあるんですが、その情報のどれが正しいかわからない。だけどオンラインサロンというフィルターを通すことで、それがちゃんとした情報なんだと思える。こういうのもあるんだよって、新しい発見があったりする。本当に小さい情報かもしれないけど、それによってその人はどんどん広がるかもしれない。そうして、「ついには家を作りました」みたいな、この先20年30年やっていって、そんなことができたらいいなと思ってますね。
質問者6:
改装OKな賃貸住宅がもっと供給されるようになってくると、『HandiLabo』のような場を有料で使うことのメリットがどんどん出てくるかと思います。そうして、家づくりをしたら、卒業するのか引き続き参加するのか…。
加藤:
家を買うときに『HandiLabo』に入るのではなくて、もっと前の状態から入ってほしいなって。で、その後、家を買って、それでやめちゃうんじゃなくて、参加し続けることで、もっともっと自分らしい暮らし作りができる。そういう場にしていきたいなと思ってます。
坂田:最後に、僕から参加者の方に逆質問。フィールドガレージの原直樹さんにちょっと質問したいんですけど。原さんは「フィールドガレージ」(※フィールドガレージ:東京・中目黒に拠点を置き活動するリノベーション会社。リノベーション向きの物件探しから設計施工まで行っている。)というリノベーション事務所を主宰されていて、僕らがこういうことをやる前に、中目黒の事務所に「DIY STUDIO」というレンタルDIYスペースを併設していて、ここを利用している方、結構いると思うんですけど、今までのお施主さんが家をどんどん更新するために使っているとか、どんな人が使っているのか、そこで行っているワークショップを通じてコミュニティが出来てきて、といった、実際にそういう場を運用している先輩の話を参考として聞かせていただきたいんですが。
原直樹さん:
原と申します。そうですね、うちの場合は結構ほったらかしで、何か言われない限り何にも手出ししないし、工具の使い方をちょっと教えてあげるくらいで、「もう好きに使って」というスタイルなので、お客さんももう、とにかくいろんなものをつくりに来ますね。そうして作られたものがSNSにアップされて、それを見た人が「あ、何作ってもいいんだ」となって、本当、好き勝手に使える場になってますね。
イベントとかワークショップとかは、実は全然していないんですよ。僕がそういうのちょっと苦手ということもあるんですけど、「これを作ろう」と言ってやるのが、何だかDIYぽくないっていうか。
加藤:
あー、わかる。
原:
「みんなでこれを作ろう」「同じもの作ろう」っていうのは、違うなって。何か、やりたくないんです(笑)。
坂田:
「DIY STUDIO」を利用している人たちは、SNSを通じてそこでいろんなものが作られているのを見て、自分も行って作ってみようと思って、またそれが投稿されて、という。
原:
そうそう。それを繰り返してるだけで。
加藤:
「ほったらかし感」ってすごく大事ですよね。だって、「DIYじゃん」っていう(笑)。
坂田:
DIYの意味、知ってます?みたいな。
加藤:
時々、すごくいろいろ聞いてくる人がいるんですけど、それじゃあDIYじゃない(笑)。何かきっかけを得るのはいいんだけど、ここまで聞く?みたいな。そこのさじ加減は大事かもしれませんね。
原:
そうですね。で、お客さんの利用率は以外と悪い。リノベーション物件の工事中に、一部、施主のDIYでやるところがあって、さすがにタイルカットは現場でグラインダーかけられないから、それをやりにくるとか、そういうのはちょっとあったりするけど、自分の家で勝手にやってるケースのほうが多い。わざわざ来ませんね。
坂田:
中目黒にある「DIY STUDIO」にわざわざ来ないなんて言ったら、『HandiLabo』なんてマジで来ない(笑)。
島原:
(笑)
坂田:
ちなみに『HandiLabo』は、最寄が綱島駅でそこから徒歩30分という。車は停められるんで。10台くらい停められるんで!
原:
僕らの「DIY STUDIO」は車が停めにくいところというデメリットがあるので、手で持てる範囲のDIY利用なんですよね。
坂田:
その辺がまた、気軽で良かったりするのかもしれないですね。道具もあるし。
原:
小物を作りに来る人が多いです。
坂田:
なるほど。あの、改めてもうちょっと関係を深めていきたいと思ってるんで、ぜひ。
原:
今度、電話しますよ(笑)。
坂田:
大きいものを作りたい人は『HandiLabo』へお越しください(笑)。「DIY STUDIO」と提携できないかな(笑)。
では、今日は以上でイベントを終了させていただきたいと思います。今日はみなさんありがとうございました。
会場:(拍手)
※島原さんとHandiHouse projectのメンバー
<Part1>Side:加藤渓一|HandiHouse projectとHandiLabo/「ものづくり」で人と家とコミュニケーションする
<Part2>Side:島原万丈|住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方/日本とデンマークとの比較から見えた「幸福な住まい方」のヒント