太宰治とロシア文学
Привет!
大阪大学ロシアサークル【Рассвет】のなーたそです!
今回は、私が個人的に最も好きな作家である太宰治について書かせていただきたいと思います!
※以下、ネタバレを含みますのでご了承ください💦
はじめに
太宰治はもともとは、大学でフランス文学を学んでいました。しかし実のところ、フランスだけではなく、なんとロシア文学にも精通していたようなのです!!
(ロシア語を専攻している身としては、これはとても嬉しい大発見でした (Ꙭ )‼︎︎︎︎ )
その中でも特に好んでいたのがプーシキンとチェーホフ。実際に数々の作品の中でも、その名前や引用が見られます。
また「誰よりもロシアではプーシュキン一人といってもいい位に傾倒してゐます」と述べていた記録も残っているようです。
ロシア文学との出会い
太宰治がロシア文学と出会ったのは、彼の師匠である作家 井伏鱒二の影響がありました。
昭和5、6年の夏、上京してきた太宰と初めて会った井伏が「外国語が得意なのか」と尋ねたところ、「一向に駄目だ」と言うので、それではと翻訳のプーシキンを勧めたようです。
やがて太宰は、プーシキンの代表作の一つである『オネーギン』に魅了され、そこからロシア文学に親しむようになったのだとか。
『斜陽』と『桜の園』
太宰の作品の中でも、ロシア文学との関係が特に強く伺えるのが、長編小説『斜陽』です。
『斜陽』は、最後の貴婦人であり美しく儚く滅びてゆく母、破滅への衝動を持ちながらも革命に生きようとするかず子、貴族である身に自らを失い麻薬に溺れる兄 直治、そして酒に頼りながらもしたたかに生きる作家 上原の、四者四様の「滅び」を描いた物語です。
この『斜陽』と言う物語、実際作中にも「チェーホフ」の名前が度々登場するのですが、実はチェーホフの代表作である『桜の園 (Вишнёвый сад)』や『かもめ(Чайка)』から着想を得ているのではないかという考えが広く定着しています。
例えば、美しく儚く滅びるかず子の母は、どことなく『桜の園』のラネーフスカヤを想起させるのです。具体的な類似点としては
・気取りのない、のびのびとした美しさ
・気立てのやさしさ
・経済的観念のなさ
・辛さに抵抗することがなく、噛み締めて耐える様
といったところが挙げられます。
また、残りの主要人物3人についても、それぞれ『かもめ』の登場人物を思わせる描写になっています。
かず子 ⇒ ニーナ(なお、かず子は『桜の園』のアーニャと重ねられる部分もある)
直治 ⇒ トレープレフ
上原 ⇒ トリゴーリン
ただ、この類似点を踏まえた上で、逆に「異なる点」に着目してみると、さらに面白くなるんです(^^♪
『桜の園』との違い
例えば、かず子の母とラネーフスカヤを比較してみると、かず子の母は何にも縋ることなく、ただ美しく生命を絶やします。一方でラネーフスカヤはパリに戻る、つまり恋に縋って生きようとするのです。
他にも、チェーホフはアーニャに「さようなら、古い生活!」というセリフを与えることで、「新しいすばらしい世界」に希望を持たせましたが、一方で太宰がかず子に、そういった「未来への希望」を抱かせたであろう描写は読み取れませんでした。
さらにもう一つ着目すべき点は、チェーホフと太宰の、それぞれの作品への見方です。
チェーホフは『桜の園』を「喜劇」として発表しています。この「喜劇」と言う捉え方にもいろいろ説はあるのではっきりとは言えませんが、少なくとも登場人物たちの悲しみに同情して書いたわけではなさそうです。
それに対し、太宰はわざわざ戯曲形式を避け、かず子の独白という形で物語を進めています。さらに最後には、憎まれ役だったはずの直治にでさえも、遺書によって読者からの同情を誘っていることが読み取れます。
太宰はもしかすると、チェーホフが描いた人物たちに見出した「滅びの美」や「憂鬱」だけを切り取り、自らの「悲劇」の物語として深化させたのかもしれませんね。
さいごに
このように、太宰治とロシア文学には少なからず関わりがあり、そして少なからず、彼自身がロシア文学から影響を受けていたことが伺えるでしょう。
これを踏まえると、私たちが太宰の作品に親しむ時にも、彼がリスペクトしたロシア文学と関連づけて捉えてみれば、また異なった発見や新しい解釈を楽しむことができるのかもしれません。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
なお、このブログはあくまで筆者の見解にすぎませんので、詳しくは以下をご参照ください。また、ご感想やお気づきの点などございましたら、お気軽にコメントしていただけると有難いです!
参考文献
・斜陽/太宰治 著/新潮社
・桜の園・三人姉妹/チェーホフ 神西清 訳/新潮社
・太宰治におけるロシア文学の問題 : プーシキンと チェーホフの持つ意味/山崎 正純/九州大学学術情報リポジトリ/
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/12009/p001.pdf
・太宰治とチェーホフー「斜陽」の成立を中心に/東郷克美/国文学 解釈と鑑賞 VOL.37 No.12-15
・「斜陽」についてー太宰治のチェーホフ受容を中心にー/柳富子/比較文学年誌 / 早稲田大学比較文学研究室「比較文学年誌」編集委員会 編
・太宰治とプーシキン/長谷川吉弘/国文学 解釈と鑑賞 42(14) 1977.12 p113~115
・сюжет для небольшого рассказа/Т.И.Бреславец/
https://cyberleninka.ru/article/n/syuzhet-dlya-nebolshogo-rasskaza
・wikipedia/ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%AE%B0%E6%B2%BB
📢お知らせ
大阪大学外国語学部が毎年開催している「語劇祭」の演目が決定しました ヽ(´∇`)ノ
2024年度、ロシア語専攻ではチェーホフの『桜の園』に取り組みます!
詳細は決まり次第、追って下記SNSでお知らせさせていただく予定です。お楽しみに〜!