八女茶生誕600年|引き継がれた軽やかな旨味「玉露かりがね」
<本記事は2024年5月に内容更新しました>
<八女茶のルーツ>
福岡県八女市黒木町笠原。
人里離れたという表現がふさわしい山深い地域。
この小さな茶畑が点在する山間部で、八女茶は生まれました。
八女茶は生誕600年を超えました。
1423年に明(中国)から帰国した栄林周瑞(えいりんしゅうずい)禅師は、かつて修行した中国・蘇州霊巌寺(れいがんじ)の景観と似ている、ということから、八女市黒木町に同名の寺を建立。
この地に茶の種子を持ち帰り、その栽培方法を伝えました。
栄林禅師が訪れた中国・蘇州も高級緑茶の生産地。
同じく黒木町の周辺地域は肥沃な土壌と豊富な伏流水に恵まれ、雨量も多く、昼夜の寒暖差が大きい。
また、高温・多湿で霧の発生も多く、お茶づくりに最適な場所だといえます。
今日では、この黒木町と隣接する星野村を含めた八女市山間地域は「八女伝統玉露」の産地として、質・量ともに日本一の評価を確立し、名産地の仲間入りを果たしています(八女市星野村「玉露」についてのnoteはこちら)
<誕生にまつわるエピソード>
八女茶への高い評価は、栄林禅師による先見の明と生産者による努力と研鑽が作り上げたもの。
しかし、その誕生プロセスには、いくつかの偶発的要素の積み重ねもあったとのこと。
ここでは、八女茶の名づけ親とされる九州最古の茶商 許斐(このみ)本家 十四代当主 許斐健一氏に伺ったエピソードをご紹介します。
<外国からの圧力>
まず、八女茶の信用と信頼、すなわちブランドを確立する必要に迫られる事件が起きます。
江戸末期、「黒船」に乗ったペリーの来航をきっかけに、日本茶輸出は一気に加速します。
しかし右肩上がりの出荷増のなか、貿易商や関係業者は利益を優先するあまり、低品質や着色した茶葉を混ぜたものを輸出するケースも目立つように。
アメリカはこれを問題視し、明治16年(1883年)、日本茶の輸入を一律に禁止する「贋製(粗悪)茶輸入禁止条例」を制定。
結果として、この出来事が当時の全国各地の茶商に品質向上と管理の必要性を迫る契機になります。
当時の八女地方の茶葉は総じて「筑後茶」と呼ばれ、その他、八女市内各地域の茶葉の名称も統一されていませんでした。
そこで、許斐本家九代・十代 許斐久吉は、親子二代にわたって地元茶業者や組合へ働きかけ、特産品「八女茶」としての名称統一および品質向上にむけて尽力します。
そして、禁止条例制定から約半世紀たった1925年、地元茶業組合において「八女茶」への名称統一が満場一致の賛同を得ることに。
この経緯から、同店は八女茶の名付け親と呼ばれています。
<製茶を支えた技術>
外圧という環境変化に加えて、日本緑茶製法には欠かせない技術が八女の地場に備わっていたこと。しかも一見すると直接的には関係のない和紙の製造技術。これが高品質な「八女茶」誕生に貢献します。
「築後茶」と呼ばれていた当時、その大半は釜炒り製法を採用していました。
その一方、国内需要は1738年に「青製煎茶(日本緑茶)製法」が京都・宇治で開発されて以降、蒸し製の緑茶(現在の一般的な緑茶)が江戸を中心に大流行します。1800年代後半、正岡子規や夏目漱石などの文人が蒸し製を好んだことも、人気に拍車をかけた一因だったようです。
しかし八女の生産者にとって、従来の釜炒り製から蒸し製への製造転換は製茶技術の面でも容易ではありません。
しかも、茶産地として先行する京都・静岡に対して八女は後発組。
その劣勢な製茶環境を下支えしたのが八女の地場に備わる和紙製造の技術でした。
なぜ、和紙が重要か。
実は、当時の蒸し製造において鍵になるのは焙炉(ほいろ)による作業。この工程は、釜炒りの「釜」機能の一部を「和紙」に代用しているともいえる重要な製造工程です。
「八女手漉き(てすき)和紙」の歴史は400年以上。奈良時代には「筑後の紙」として朝廷に献上された記録も。
原料の楮(こうぞ)が自生していたこと、手漉き工程で必要な水が近隣を流れる矢部川より容易に調達できることから、この地で和紙づくりは発展しました。
江戸末期から明治初期にかけた激動の時代。
「八女茶」への名称統一によってブランドを確立しようとした茶商の存在。
ときを同じく、「外需から内需へ」「釜炒りから蒸し製へ」と変革を迫られた八女の生産者。
そして、お茶づくりには直接的には関係のないようにみえる、しかし製茶を支える重要な一要素といえる和紙づくりの技術。
八女が茶生産に適した気候・風土であるとともに、これらエピソードも栄林禅師の蒔いた種を今日の八女茶へと繋げる大切な要素だったといえます。
<プロダクトについて>
八女茶の代表的な茶種<玉露>。
その特徴は何よりも旨味。
直射日光を遮る被覆栽培により、新芽はそれ自身に養分を蓄え、力強い旨味を備えます。
また、光合成も抑制され、渋みのもとになるカテキンの生成は進行せず、トロリとした甘みが強調されます。
一方、<かりがね(茎茶)>の良さはスッキリとした飲み口。
茎は成長過程で直射日光が当たりにくことから、同じく光合成は促進しません。
ただし茶葉のように強制的に旨味を取り込まないため、自然由来のやさしい後味が特徴です。
「濃厚さ」と「スッキリとした飲み口」
「力強いインパクト」と「やさしい後味」
同じ旨味でありながら、相反する特徴をあわせもった「玉露かりがね」
低温で淹れると玉露らしい凝縮された旨味を感じる。
やや高温で淹れれば爽やかな飲み口が際立ち、柔らかな印象に。
八女茶生誕600年の歴史が作り上げた旨味。
その日の気分にあわせ、軽やかにお楽しみいただけますと幸いです。
<販売ページのご案内>
単品販売はこちらです。
2ヶ月ごとに30g×2種類の日本茶が届く、繁田園の定期便「季節のお茶便り
6月回にて、「玉露かりがね」(30g)と「こみなみ」(30g)をお届け予定です。
送料無料・ポスト投函でお届け、1年間の全6回コースと半年間の全3回コースの2種類をご用意しております。
八女玉露の単品販売はこちらです。
深蒸し八女茶の単品販売はこちらです。
<淹れ方&楽しみ方>
以下の順番で〈おすすめの淹れ方〉を記載しています。
ひと手間と少しの時間がかかる水出し煎茶ですが、ペットボトル緑茶とは全く異なる味わいをお楽しみいただけます。(そして、実は500mlあたり約100円と、お値段も意外にリーズナブル)
ボトルの水出しには、フィルターインボトルが便利です。
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