マガジンのカバー画像

ソルティ・ドッグ

87
塩日記2020
運営しているクリエイター

#エッセイ

コピー機と私

新しい機種にも関わらず以前のリソグラフより印刷速度が格段に落ちたコピー機を2台動かしながら、蒸れた空気の滞留する狭苦しい印刷室でこうして仕事をするのもあと何回かなあと考えた。事務職新人の仕事は書類整理と印刷作業から始まるので、いつ籠もっても、印刷室は初心に返る場所のような気がする。頼まれたものを規定通りに印刷する、だけ、と言葉では簡単に言えるが、印刷の手際と心配りでその人の能力はある程度透けて見えると思っている。ちなみに私は苦手だ。手際はいいけれど心配りができない。だから余計

私を真夜中から連れ出すヨタカ

BOOTLEGのカバージャケットがエドワード・ホッパーみたいだと人に言われて、見てみたら確かにホッパーのようだと思い、ちょうどそのとき書いていたこの曲に米津は「Nighthawks」と名づけたらしい。シカゴ美術館に所蔵されているNighthawks(夜更かしする人々)はホッパーの最も有名な作品である。どこに建っているかも明らかではない夜のレストランPHILLIESで、一組の男女、一人の男、一人の店員が揃っている。 私は最初、米津がホッパーの作品からインスパイアされてNigh

いつか燃え果てたこの場所に、ましろい雪が降るまえのこと

「なんか話しやすくなったね」 市街地のバスセンターで居合わせた彼女はおもしろがるように笑った。ひとりずつステップを上り、ふたりで最後部座席に座る。始発から終点までだいたい40分。床が板張りの、古い車体のバスはむだに横揺れを起こし、芯が弱くやわい私のからだはぐらぐらと右へ左へと振られる。そう? とまごついた声で訊くと、うん、としっかりした肯定が返ってきた。 「中学の頃はもっとさあ、尖ってて怖かったじゃん。寄るな触るな話しかけるなって感じで。氷の女王なんていうあだ名はけいにぴ

他者の存在がある「おいしさ」

同居している弟が実家に行っていて、夕飯を私一人で食べることになった。あと30分したらつくろう、あと10分したら、あと5分……などとうだうだしていたら結局面倒になって、食べずに寝た。仕事帰り、スーパーに寄って、買い物をして帰ってきたにもかかわらず。 昔から一人で食卓に座るのが嫌いだ。家でひとりの食事をしているときが、生活の中で一番孤独を感じる気がする。カフェで一人ご飯とかなら平気なのに、家のテーブルにひとりで向き合っているときの孤独感といったら言葉にしようがない。大学生になり

破滅するにはまだ早い

お気に入りのカフェで、推しにファンレターを書く。期間限定のイチジクとぶどうのパンケーキに、普段は四季春を頼むのだけど、めずらしくジャスミンティーを頼んだ。夏のうちに送るつもりだったので便せんは100%夏模様だ。彼女が手に取るときには秋も随分深まっていることだろうに。文章の中で謝っておく。ああ、字が汚い。私はあらためてペン字練習をするべきだ。 友だちに手紙を書くようにファンレターを書く。みんなのことを聞かせてもらえるのが嬉しいと言っていた顔を思い出しながら言葉を選ぶ。静かにゆ

アイカツ!楽曲に救われた私の話 − 「受け取った勇気でもっと未来までいけそうだよ」

病気らしいよ。メニエール病じゃないかって。とりあえず薬出して1週間様子見、でも発症してから半年近く経ってるっぽいから治らないかも、大学病院で検査しないとだめかもねって言われた。 子どものころから通っていた耳鼻科がいつの間にか移転していて、院長先生も世代交代し、まったく面識のない先生に言われた言葉を反芻しながら、広くなった駐車場の端っこに停めた車の中で、ポツポツと母親にLINEをした。27歳になって1ヶ月が経ったくらいのことだ。半年以上続いていためまいが段々ひどくなってきてい

透明な青さにもたれかかって、私たちはからいジンジャーエールを飲む。

「高校時代の私たち、マジで勉強だけだったじゃん。なんかもっと青春っぽいこと、しておけばよかったなあと思うことめっちゃある」「特進だったからしゃあないよね。土日も学校で模試受けてたもんな、夏休み2週間しかなかったしな」「それな、ほんとそれ」 居心地のいい地元オブ地元のカフェで、お互い、大きなソファにもたれながら彼女はため息を吐き、私は笑った。コロナ対策で少しだけ開けられた窓から風が吹きこむのを、きもちがいい、と呟く。陽射しは夏の盛りだったけれど、風だけはすでに秋の匂いがしてい

あなたの音楽と詞が縺れるように

相変わらず、ヨルシカのアルバムの封は切っていない。ツイッターで「包ん読」がトレンドになっていて、それな、と思っている。 新しい曲をいっぺんに聴く、聴くというか解釈するというか飲み込むというか、が得意ではないので、米津玄師のアルバムの構成もすでに分解してしまった。カムパネルラ、優しい人、ひまわりだけが、iPodの選抜プレイリストに突っ込まれている。私の選抜プレイリストは常時11曲までと決まっていて、通勤時間にだいたい一周するように調整してある。TEENAGE RIOTはシング

人真似をつづけてきた私の

うまくなりたかった。本当はいつだってうまくなりたかった。氷の中に生花を閉じ込めるように、美しさを凝らせた言葉を、書いてみたかった。 人真似だった。インスパイアとかオマージュとかそれらしい単語で誤魔化しながら、自分の文章や物語が人真似でしかないことを知っていた。憧れて筆写したあの人の文章で、おもしろくて読みふけったあの人の構成によく似た物語で、私の創造力が「その程度」だと自覚したのはだいぶ昔のことだ。10代の私は、本なり広告なり映画なり、心を動かされた表現を、ノートによく書き

菅田将暉と米津玄師の「まちがいさがし」のまちがいさがし

私は菅田将暉の歌う「まちがいさがし」が好きだ。どれくらいかというと、いっとき(おそらく2ヶ月ほどの間)、朝はこの曲しか聴かず、数日おきに行く一人カラオケで3時間ぶっ通し「まちがいさがし」しか歌っていなかったくらいである。 米津玄師「STRAY SHEEP」には、楽曲提供者である米津自身がセルフカバーしている「まちがいさがし」が収録されている。 インパクトの強いリード曲「カムパネルラ」から始まって、詞とリズムで捉えどころなくフラフラと舞い遊ぶ「Flamingo」、ドラマ主題

浜崎あゆみと私の孤独

「あゆが好きだ」と公言することは、「私は孤独だ」と告白することによく似ていて、私は、親しい友人にもほとんど話したことがない。 ▽▲▽ 2020年7月1日に放送された日本テレビ「今夜くらべてみました」で、社会学者の古市憲寿氏が「浜崎あゆみ」について熱弁しているのを見た。あゆが孤独に築き上げた一時代、その真っ只中で、彼女の音楽に救われて生きていた少女の一人だった私にとっては、氏の解釈には共感しかなかった。 「ayuの曲って、すごく暗くて孤独で、それがやっぱり、当時ウケたなっ

「その人だからつくれる世界」が好き

minneに住める。むしろ住みたい…… という謎の呟きを残して、昨晩の私は寝落ちした。 ▽▲▽ 約1ヶ月半、3人分の仕事を抱えていたのだが(2人分の仕事であれば4月下旬からずっとである、まあ2人分くらいならたいしたことはない(麻痺))、自分でもそろそろ限界だと感じて「はいむり!休む!私は休む!平日に何もしない日をつくる!!!」と決め、2020年7月16日木曜日を「私の、私による、私のための休みの日」に制定した。というので、本日はお休みです。何もしない日だけど、記録として

連続更新50週目、あなたに差し出す花束は、きっと晴れ間のカンパニュラ。

「毎日更新はムリでも、毎週ならできるかもしれない」 と考えて、週に1回、最低1記事を投稿し始めて、今週がちょうど50週目だった。コスメ、アクセサリー、私の好きなものをただ並べた「私の味方」の記事で「50週」のポップアップがあらわれたときは、自然とため息が出た。何でも「これは運命!」と言っちゃうタイプの人間なので、日々の私の味方が本当に味方になってくれている、これは運命としか表現しようがない。 ため息の内訳は、ここまで来られたという安堵と、私なんかでも「書くこと」を続けるこ

どんなときでも、私の味方

仕事が激ハードモード!ひとりで三人前働いている!!! ので、私の味方を貼る。武装道具とも言う。「ドレスはみんなを輝かせる!」って、アイカツスターズ!の虹野ゆめちゃんが言ってた。ただし、ドレスを味方だと呼んだのは、アイカツ!の大空あかりである。 私のガチメイク道具。マスク生活なので、いまはファンデーションやリップ類はほぼ使っていないけど、大事な仲間なので載せる。このごろはアイメイク濃くなりがち。YouTubeを見まくって下まぶたを武装する方法を覚えた。 写真とはちょっとち