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侍ジャパンに学ぶ最強のリーダー論

本日からいよいよ日本のプロ野球が開幕します。
つい最近まで開催されていた野球の世界大会WBC(World Baseball Classic)では、野球ファンのみならず、多くの日本国民が熱狂したのではないでしょうか。

かく言う私も、小さい頃から野球小僧だったのでWBCは第1回開催の2006年から追っていますが、大人になった今だからこそ魅力に感じた要素が今回大会にはありました。
それは、優勝を成し遂げた侍ジャパンこと日本代表チームが見せてくれたリーダーシップです。
史上最強と呼び名の高かった今回の侍ジャパンでは、各チームのリーダー(主力)格の選手やスタッフが並んでいて、各々のリーダーとしての資質が随所に見られたので、その中でも特に強く刺さったものを紹介します。

憧れを捨てる - 大谷翔平

前代未聞の二刀流プレイヤーとして世界的、歴史的な活躍を見せている大谷選手ですが、WBCでは様々なドラマティックなシーンを生み出したことから、もはや「マンガの主人公」と比喩されるレベルに達したのではないでしょうか。
そんな大谷選手も、普段はどちらかというと穏やかでマイペースなイメージがこれまではありましたが、WBCでは情熱を剥き出しにしてメンバーを引っ張ろうとする姿が印象的でした。

その中でも特に印象的だったのは、アメリカ代表と闘うことになった決勝戦(3月22日)の試合前にチームメイトにかけた言葉です。
日本の野球では、試合前にチームで円陣を組んで(日によって異なる)代表者が簡単な掛け声をするという「声出し」という文化があるのですが、この日の声出し担当は大谷選手でした。
そんな大谷選手がチームメイトの前で発したのが「憧れは捨てましょう」という言葉です。
というのも、この日の対戦相手アメリカは、世界最高峰とされる野球リーグMLB(メジャーリーグベースボール)の中でも屈指のスター選手が集まるまさに銀河系集団で、普段日本でプレーする侍ジャパンのメンバーからしてみれば憧れの対象になるような、格上のチームだったのです。
もしかしたら、心のどこかで「わぁ、テレビで見てた人たちだ」と憧憬の念を抱きながらこの日を迎えた選手もいたかもしれません。

しかし、当然そんな相手との勝負に勝たなければ侍ジャパンは世界一になることはできないと思った大谷選手は、チームメイトに「今日だけは憧れを捨てましょう、憧れていたら相手を倒すことができません」という言葉をかけました。

ここからは想像なのですが、きっと大谷選手も5年前に海を渡ってMLBに挑戦した当初は、大なり小なり対戦相手の選手に対して「憧れ」を抱いてしまっていた過去があったのではないかと思います。
日本では怪物級の選手だった大谷選手とて、アメリカに舞台を移してなかなか思うように活躍できないシーズンが3年ほど続いていたのですが、そんな中で厳しい世界で勝つには「憧れを捨てて戦わなければいけない」という気づきを得て、困難に打ち勝ってきたのではないでしょうか。

日本という小さな国から世界のトッププレイヤーに上り詰めた大谷選手だからこそ、「(格上の相手に)憧れを抱いていたらいつまでも勝てない」というメッセージには説得力を感じました。
目標に向かって突き進むにあたって、憧れの相手と対峙することは往々にあると思いますが、その時ばかりは憧れは捨てて戦おうと思いました。

自己犠牲 - ダルビッシュ有

今回の侍ジャパンの中で唯一ベテランの選手だったのが、ダルビッシュ投手でした。
そして、WBCで日本が最後に世界一になった14年前にも出場していた唯一の経験者でもあります。
そんな立場への自覚もあってか、今回は最年長としての責任を強く感じていたように思います。

そんな中でも話題になったのが、大会前の強化合宿で行った「ダルビッシュ塾」でした。
侍ジャパンの中でもMLBのチームに所属する選手は、(チーム事情などもあって)基本的には合宿には参加せず、直前の強化試合から合流することがほとんどだったのですが、ダルビッシュ投手はMLB所属選手の中で唯一、大会1ヶ月前に始まった強化合宿から参加。
そこでは、若手の選手に惜しみなく自分の技術を伝える姿や、チームメイトを誘って食事会を開催する様子が度々メディアで報道されていました。

日本を離れて久しいダルビッシュ投手にとって、今回の侍ジャパンのメンバーはほとんどが日本時代に一緒にプレーしていない選手たちだったので、自分の経験を伝え、コミュニケーションを大事にすることで、チームの実力と絆を底上げしようという気持ちが人一倍強かったのでしょう。
年齢差も考慮して、自分から動かないと若いメンバーたちが萎縮してしまうのでは、という想いから自ら積極的にチームメイトに話しかけにいく姿はとても印象的で、カッコ良いなと思いました。

しかし一方で、大会が始まってみるとダルビッシュ投手自身のパフォーマンスとしては、本来の持ち味を発揮できていないように見えました。
これは、大会を終えて帰国した栗山監督のインタビューを見て知ったことなのですが、ダルビッシュ投手は上述の「ダルビッシュ塾」でチームメイトにあまりに時間を割きすぎて、自身の調整の時間を十分に確保できていなかったそうです。
一見、個のレベルで考えてしまうと自業自得とも取れてしまうかもしれませんが、今回ダルビッシュ投手がチームメイトに与えた恩恵の大きさを考えると、自己犠牲をすることが世界一になるために必要なこととダルビッシュ投手自身が判断したのではないのかなと、私は思います。
自分の立場を理解した上でチームのために自己犠牲することの大事さを学びました。

メンバー(選手)へのリスペクト - 栗山英樹

侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導いた栗山監督の手腕は、世界中の称賛の嵐を呼びました。
そんな名監督のマネジメントには光るところがいくつもあるのですが、その中でも今大会ここぞという場面で際立ったのが、栗山監督の選手に対する「リスペクト」だったと思います。

例えばこんなエピソードがあります。
球界きっての名手である源田選手が、ファーストラウンドで行われた試合のとあるプレーで、自身の小指を骨折する大怪我を負ってしまいます。
通常であれば翌日までに代替選手を招集し、翌日から源田選手は侍ジャパンから外れる予想を誰もがしていたかと思いますが、実は試合後に骨折した源田選手から栗山監督に涙ながらに「試合に出続けさせてください」という訴えがあったそうです。
それに対し監督は「ゲンちゃん(源田選手)がいない侍ジャパンは考えられないから」と、次の試合からも骨折しながらも強行出場することを決意しました。(実際、練習でプレーに支障がないことは次の試合前に確認できたそうです)

そんな源田選手に対しての信じる力がチームの明暗を分けたシーンが準決勝のメキシコ戦(3月21日)。
この試合、序盤に先制されながらも7回に吉田選手の3ランホームランで試合を振り出しに戻した侍ジャパンは、直後にまた2点を失い「やはり今日は負けてしまうのか」というムードが少し漂う中で迎えた一点ビハインドの8回裏、無死一二塁の場面で源田選手が打席に立ちました。
プロ野球ファンなら、点差やアウトカウントなどといった状況と、小技が得意という源田選手という点も踏まえて、「ここは送りバントだろう」と分かった方も多いはず。
実際に源田選手は当たり前のようにバントを試みるのですが、終盤の緊張する場面でのプレッシャーからか、なんと珍しくも2球連続で失敗してしまいます。
「3バント失敗」というルールがあり、もう1球失敗してしまうと打者はアウトとなり、侍ジャパンはかなり劣勢に立たされるため、失敗のリスクを考えて次の1球はヒッティング(バントではなく普通に打つことを試みる)だろうと予想したファンも多いかと思いますが、源田選手に対して信頼の厚い栗山監督はなんと3回目のバントを命じるサインを出しました。
そして、源田選手は3球目に送りバントを決め、一死二三塁という好機を次の打者に繋ぎました。
この後、代打が送られた山川選手が犠牲フライを放ち、この回で点差を詰めることに成功するのですが、もし源田選手が3球目にバントを成功させていなかったら、続く山川選手の犠牲フライも起こり得ず、点差が縮まることがなければ、9回裏の村上選手の一打がサヨナラ打になることもなかったはずなので、このメキシコ戦で勝利をグッと近づけたのは、8回裏の源田選手の送りバントだと個人的には思います。
リスクのある采配だったと思いますが、栗山監督が選手の実力をリスペクトしていなければ、生まれなかった成功でしょう。

ちなみに上述の通り、同試合の9回裏には2人のランナーを塁に置いて一点差の場面で打席に入った村上選手が劇的なサヨナラ打を放つのですが、実はこの村上選手、今大会はここまで絶不調だったのです。
そのため、この場面が前述の8回裏と似たシチュエーションだったこともあり「村上に(バントが得意な選手を)代打に送るのでは?」、「村上にバントのサインが出るのでは?」という憶測も飛び交ったかと思いますが(実際村上選手もそんな覚悟をしていたそうです)、村上選手を信じていた栗山監督は「自由に振ってこい」と伝えて村上選手を打席に送ったそうです。
もちろん、可能性の話なのであの場面で誰かがバントを決めていても、侍ジャパンが逆転できたかもしれませんが、少なくとも栗山監督が村上選手を信じていなければ、あのドラマティックな名シーンは生まれなかったことになります。

振り返ってみると、優勝までの道のりで命運を握るシーンというのがいくつもありましたが、その度に栗山監督の選手へのリスペクトが勝利に導いたのではと思います。

まとめ - だから野球は面白い

いかがだったでしょうか。
プレー以外にも、こういった選手たちの個々の人柄やストーリーなどが分かると野球ってより一層魅力的に感じるし、学びが多いスポーツだと思います。

興奮のWBCが終わってしまったのは寂しいですが、今日から始まるプロ野球(そして明日から始まるMLB)にも新しいドラマを期待したいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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