いちなさんインタビュー「偏見に気づき,ありのままを目指す」

今回はいちなさんにお話を伺いました。

いちなさんは現在,中学三年生の受験生。
助産師にという夢を叶えるための第一歩として,看護科のある高校を目指し日々勉強されています。

ご提示いただいたテーマは「LGBTQと性の在り方」。いちなさんは勉学の傍らallyとしてnoteで発信をし,その中で自認もパンセクシュアルへと変化しました。

しかし,かつては当事者の方々に偏見を持っていたそうです。

そんないちなさんの思いがどう変化し,今,何を思っているのか。はなすばがお話を伺いました。

※ally(アライ):元々は「味方」「仲間」などを表す英単語。ここでは,LGBTQの当事者に共感し,積極的に支援・協働する人を指す。

※パンセクシュアル:「全性愛」とも呼ばれる。男性/女性といった分類に限らず,あらゆる人々に対し恋などの感情を抱く人を指す。


LGBTQとの出会い

―――それではいちなさん,よろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

―――今回,テーマとして「LGBTQと性の在り方」を提示していただきありがとうございました。
いちなさんはLGBTQのことを,いつから知っていましたか?

小5のときに道徳の授業で初めて知りました。
だけど正直他人事として考えていて,自分の周りにはいないし関係ないなって思ってました。

―――意外にも,当初はあまり問題意識を持っていなかったのですね。

はい,LGBTQに対して無意識に壁をつくっていました。今まで女性は男性と恋愛することが当たり前,心の性と体の性が一致していることが当たり前,と思っていたんです。同じ人間なのに,何もかもが自分たちと違うと思ってました。もう本当に,この頃の自分を殴りたいです(泣)
当時は知識も全然なかったですし,多分,知ろうとも思っていませんでした。

―――「なにもかも違う」というのは,どんな感情や感覚なのでしょうか?

自分はLGBTQの方とは違う,っていう突き放すような感覚で,下に見ていたかもしれないです。

―――LGBTQの方々への当初の気持ちは,「違う」という横の関係から,上下の関係ができるほどの感覚だったのですね。
そうなっていたのは,知識や当事者の方を具体的にイメージする視点が足りてなかったことが原因だったのでしょうか?

そうですね。当時はLGBTQっていう言葉以外何も知らなかったし,自分の身近にいるわけないって考えてたので。

―――そんな自分に対して,当時はどう思っていましたか?

自分では「悪いことではない」「他の人も偏見はもっている」と思ってました。赤信号皆で渡れば怖くない,という気持ちでしたね。他の人と同じ考えを持っていることで安心するというか。

LGBTQへの理解

―――なるほど,そんな風に感じていたのですね。その意識がallyとして活動するまでに至ったのには,どんなきっかけがあったのでしょうか?

同世代でトランスジェンダーの岡笑叶さんが取り上げられている新聞記事を読んだんです。そしたら,まず「同年代でこんなにしっかりしてて,人の心を動かせる人って凄い!」って思いました。そこから更に,偏見を持つことや壁をつくることは,当事者そのものを否定することになるんだなって気付いたんですね。

岡 笑叶さん:大阪のインターナショナルハイスクールに通う,17歳。
LGBTに含まれるトランスジェンダー(T)のFTMであることを公表し,現在は男子として通学している。
自身の中学校の制服選択制設立のきっかけとなるほか,各種メディアへの出演,LGBT当事者としての講演活動,株式会社ファーストペンギンの代表取締役など精力的に活動している。
※FTM:身体は女性,心は男性である人

岡 笑叶さん公式サイト:https://wakana10-08.amebaownd.com/


また中2の時にLGBTQについて調べていた時,allyという言葉に出会いました。
その瞬間「自分がなりたいのはこれだ!」って思いました。ずっと私みたいに「LGBTQを支援する,したい」と思っている人を表す言葉はないのかなって調べていたので,立派なallyになろう!と決意しましたね(笑)

―――なるほど,自分と同年代の人にも当事者がいて,そのあり方を世の中に発信していることに衝撃を受けたのですね。
いちなさんにとって「立派なally」とは,どのような人ですか?

LGBTQの方の気持ちを完璧に分かることはできないけど,その方々の話を聞いて皆に嘘なく,当事者・その他の人の両方の立場に立ち,自分の言葉でLGBTQについて伝えることができる人。それから,自分も勉強や努力を惜しまない人ですかね。

―――立派なallyになるためには真摯さと学ぶ姿勢が大切なのですね。
いちなさんは,今自分がLGBTQについて持っている知識は,多いと感じますか?少ないと感じますか?

少ないです。LGBTQについて調べれば調べるほど,初めて知ることに沢山出会います。
ジェンダーは一見同じようにみえても少しずつ違ったりするので,まだまだ分からないことだらけです。LGBTQをカミングアウトしている方のブログを読んだり,LGBTQを支援している団体のサイトとかで勉強しているのですが,これからも勉強していかないといけないな,と感じます。

―――ジェンダーやセクシュアリティについては沢山の細分化された言葉があり,またそれに完全には当てはめられないため,学びは尽きませんよね。
転機となった岡さんとの出会いは新聞記事とのことですが,LGBTQだといちなさんが知っている方と,実際に会ったことはありますか?

あります。

―――それはいつでしたか?その時はどう感じたのでしょうか。

中1のときです。学校にLGBTQについての講演をしに来てくれた方がいて,その方はゲイであることをカミングアウトしてました。初めてLGBTQであることをカミングアウトしている方に会いましたね。
このときにはもう岡笑叶さんを知っていたため偏見はなかったし,LGBTQについても興味がありました,なので率直に,自分のことをありのままに話していて凄いなって思いました。キラキラしてるっていうか。もっとLGBTQについて知りたい!って思いました。

―――初めて会ったゲイの方を見て,その堂々とした姿に感動されたのですね。
いちなさんはnoteでも「本当の自分を見失いそうになるときがある」と書かれていましたが,いちなさんにとっての「ありのまま」とはどのようなことですか?

他人に自分のことを知ってもらうだけではなく,自分でも「これが私だ!」と胸を張って言えるような状態が「ありのまま」かなって思います。

―――「ありのまま」について,相手が知ってくれていることだけでなく,自分が自信を持って発信していくことも重視されているんですね。どうして「ありのまま」「自分らしく」といったことが大切なのだと思いますか?

人間は一人一人個性があって生まれてきてると思うんですけど,周りに合わせたり好きなものを好きって言えないような社会になっているなって感じているんです。
でも,それを自分の強みとして活かしていけると,周りの人がより自分を理解してくれたり,自分が成長できるからかなと思います。

―――活かすというと,元の言葉にはあまりない自発的なイメージが,いちなさんの「ありのまま」にはあるのでしょうか?

あります。他の人から見てその人が「ありのまま」に見えても,自分が「ありのまま」って思ってなかったら,それは本当の「ありのまま」ではないと思うんです。なので,私の中では「ありのまま」は自発的なイメージがあります。

allyからパンセクシュアルへ

―――素敵なお考えですね。ありのままの自分を自分で理解するということですが,いちなさんはallyとしてLGBTQについて発信する中で自身の自認がallyから「パンセクシュアル」へ変化されたそうですね。その経緯を教えていただけますか?

はい。まだLGBTQについての知識が浅かったとき,実は同じクラスの女の子のことが気になっていたんです。だけど今まで好きになるのは男の子だったし、自分が女の子を気になるはずがない,って自分を否定していたんですね。
その後にallyとしてnoteでLGBTQについて発信しながら勉強していたら,パンセクシュアルという言葉に出会いました。
「自分はバイセクシュアルではしっくりこない」と思っていたときに知ったので,「やっと見つけた!自分はパンセクシュアルだ!」って気付きました。

―――言葉を知ることで,自分に対する疑問もスッキリしたんですね。自認が変化したことで,LGBTQや自身の活動に対する考え方は変化しましたか?

はい。変わりました。今まではallyとして,noteで「LGBTQについて理解する人を増やす」という目標で活動していたんですけど,やっぱり当事者の気持ちは想像でしか書くことはできませんでした。
でもallyからパンセクシュアルに自認が変わって,当事者ではない人の気持ちとallyの気持ち,パンセクシュアル(LGBTQの当事者)の気持ちが,それぞれ分かるようになりました。いろんな立場から物事を考えることができるようになったし,私だからこそ伝えることができることがあると思っています。

―――なるほど,確かにそれらすべての立場になったことがあり,気持ちが分かる方はなかなかいませんよね。いちなさん独自の強みだと思います。

周囲の人の理解

―――そうなんですね。ありがとうございます。
ここまでいちなさんご自身やLGBTQに対するイメージを伺ってきましたが,周囲の方はどのようなイメージを持っていると感じますか?

LGBTQについて知ってはいるけど言葉しか知らないって感じで,まだ差別や偏見はあります。男が男好きになるなんてあり得ない,みたいに。
私は,LGBTQという言葉があることで,同性同士で恋愛したり体の性と心の性が一致してない人がいることを広めることができると思うんです。だけど,広まったら広まったで「あの人はLGBTQだから」って差別されたりすると思って。それも問題点かなって思います。

―――難しい問題ですよね。いちなさんは沖縄在住とのことですが,LGBTQへの理解に地域差はあると思いますか?

あると思います。沖縄のなかでも私が住んでいる那覇市ではパートナーシップ制度を導入したりしているんですが,他の市はまだ導入されてません。しかも今はまだ自治体だけが動いている傾向もあるので,国単位でLGBTQについて考えていってほしいです(泣)

―――やはり一番根っこにある国の動きというのは大事だと私も感じます。このまま行くと,地域ごとの対応の違いも,権利の差や分断として出てくるのでは,と心配です。

「LGBTQ」という言葉への思い

―――先ほど「LGBTQ」という言葉があることのメリット・デメリットを話されていましたし,noteでも普段から「LGBTQという言葉を無くしたい」と言われてますよね。私はよく「偏見なくLGBTQという言葉が使われるようにしたい」という意見を耳にします。
いちなさんはどうして,言葉そのものが無くなってほしいのでしょうか?

LGBTQっていう言葉はポジティブな言葉ですが,当事者の方を,カテゴライズして遠ざけてしまう面もあると思うんです。
だからLGBTQは普通にいることを伝え,その在り方を「当たり前」と思ってもらいたいんです。

―――「広めることができる」といちなさんがおっしゃったように,言葉は人間にとって考えなどを伝えたり理解したりするために重要なツールだと思います。
そのなかで,LGBTQという言葉を使わないでありのままに表現するというのは,具体的にどうすることなのでしょうか?

LGBTQっていうのに縛られず自分の個性,強みにしていけたり,発信できたりすることです。

―――それは,「LGBTQはこんな感じ」といった固定観念からの自由になり,ただ「自分である」ということを示していく,ということでしょうか?

はい。LGBTQっていうのはマイナスイメージが大きくなりがちだしカテゴライズされていると思うんです。だけど私はLGBTQという言葉は,「自分はLGBTQなんだ」と気付くためにあると考えています。「自分は周りの人と少し違うかもしれない」と思うと,それは自分一人だけかもと不安になります。そんな時にLGBTQという言葉に出会えば,自分一人だけじゃないと知って安心するはずです。
でもその安心感さえ得られたら,その後は無理にLGBTQであることに縛られなくていいんじゃないかって。それにLGBTQの当事者という前に1人の人間ですから。

―――なるほど,LGBTQへのイメージや固定観念からも自由になり,ただ「その人がその人らしくある」「ありのまま」ということを重視されているのですね。

はい,そうだと思います。

―――LGBTQという言葉が個人を縛るものにならないために,「みんな」がすべきことは何だと思いますか?

LGBTQの存在を他人事ではなく自分事として考えて,自分の「普通」の基準を押し付けることをやめる,ということがみんながすべきことだと思います。

―――LGBTQという言葉が個人を縛るものにならないために,「いちなさん自身」がすべきこと・したいことは何だと思いますか?

LGBTQ=マイナスなこと,っていう固定概念をLGBTQの当事者やALLYの話を通して少しでもプラスのイメージに変えていくことです。
また,まだ漠然としているのですが「自分はLGBTQかもしれない」と1人で悩んでいる人に寄り添えるような世界をつくっていきたいです。

発信する側へ

―――わかりました,ありがとうございます。それでは,今度はいちなさんが実際に発信されていることについて伺いたいと思います。
いちなさんはSNSをnote以外にやっていないとのことでしたが,なぜnoteを選んだのでしょうか?

自分でもよく分かりませんが,他のブログサイトとかよりも始めやすかったし,使いやすくかったというのもあります。
だけど1番はnoteはインスタとかツイッターよりも伝えたいことを自分の言葉で何回も考えて投稿できる気がするからですね。私が勝手に思っているだけですが(笑)

―――そうなんですね,そのメリットは私も感じています。いちなさんのnoteは全体的にLGBTQについて考えるきっかけを提供しているように感じます。「偏見や心の壁は当事者そのものを否定する」と岡笑叶さんを知って気付いてから,「皆も考えてほしい」と他の人にまで意識が向いたのはなぜですか?

私自信も笑叶さんを知ってLGBTQについて考えるようになったように,人はテレビで見たとかちょっとしたきっかけで知りたいと思ったり,考えが変わったりすると思います。だから私も,他の人のちょっとしたきっかけになりたい,心を動かしたいと思うようになったからですね。
私1人の力で世界を変えるのはとても難しいことですが,私の声が届いた人がまた他の人に伝えるっていうのが続いていったら,沢山の人がLGBTQについて考えることができると思うんです。

―――素敵ですね。意識は皆の中で作られていくものですもんね。そのような連鎖によって,偏見を持つ人がLGBTQについて考えるきっかけを作ったらどんなことが起こると思いますか?

私も偏見を持っていたから分かるんですけど,偏見を持っているものについて自分から知ったり考えたりすることは無いと思います。そんな人にLGBTQについて考えるきっかけを渡せれば,「LGBTQってこと以外は皆変わらないんだな」ということに気付けると思います。

―――偏見を持っている人の中には「考えたけどやはりマイナスな感情が無くならない」という方も出てくるかと思います。思想の自由がある中で,そういった人についていちなさんはどう思いますか?

マイナスな感情をもってしまうのは仕方ないことだと思います。違いを認め合うのは簡単なことではないかもしれません。だけどマイナス感情を持っていてもLGBTQの存在を否定したり,侮辱したりするのは絶対にしてはいけないことです。それは知っていてほしいと思います。

―――そうですね。行動を起こすのはまた違いますよね。
ここまでいちなさんの活動についてお聞きしましたが,LGBTQについて,仲間と一緒にやっていきたいことはありますか?

もっと知名度が上がってLGBTQの当事者の方から話を聞けることが増えれば講演をしたり,LGBTQ・ally・どちらでもない人…全ての人々が,気軽に自分のことを話せるような団体をつくりたいです。それと,今コロナで開催が難しいみたいですが,パレードにも参加してみたいですね!

LGBTQフレンドリーな助産師へ

―――将来やりたいことについて,すでに色々と考えているのですね。それに加えて小学校5年生から助産師を目指しているそうですが,そのきっかけ・理由はなんですか?

ドラマでやっていたコウノトリがきっかけですね。当時めっちゃハマって。主人公は産婦人科医だったんですけど,もっと身近で命の誕生にかかわりたいなと思って助産師になりたい!って思いました。

―――看護科のある高校を目指しているそうですが,高校からもう専門的な課程に入るのは大きな決断かと思います。それについて,どのように考えていますか?

私は当たり前って思います。自分の夢を叶えるためには通らないといけない道なので,後悔しないように頑張るしかないなって思います!

―――本当にしっかりと先を見据えていて,素敵ですね。助産師になったら「LGBTQの方の出産や子育てをサポートしたい」とnoteに書かれているのを読みました。LGBTQの方々が相手だからこそ,配慮したいこと・やりたいことなどはありますか?具体的に教えていただけると幸いです。

出産や子育てはどれもおめでたいものだけど,それだけではなくてとっても大変で不安で,周りのサポートが不可欠だとおもうんです。だから皆が受講できる,子育て教室みたいなものを定期的に,できる限り沢山開催したいです。

―――出産はおめでたい反面不安も大きい,というのはLGBTQに関わらず全ての人にとってそうだと思います。その上で,LGBTの方々は特に大変なことが多いだろうから手厚くサポートしたい,ということでしょうか。
その場合,普通の人のサポートとはどのように違う内容のサポートをしたいですか?

はい。そうです。当事者でない方にも当てはまる方はいると思うのですが,LGBTQであることで親や周囲の人に頼れないことがあるのが一番の問題だと思っています。この問題を解決するために,同じように出産を経験している人,子育てをしている人,していた人の話を聞ける集会をもったりできる団体をつくることも必要だと思っています。それとともに,出産や子育てに関わる助産師や産婦人科医などにLGBTQについての講習会をする,といったことも必要だと考えています。

―――なるほど,確かにそのような困難はありそうですね。そんな時に,同じ立場を経験している方に相談できることは大きな心の支えになると思います。
そのような素敵な場づくりもできる助産師さんへの道,心より応援しております。

ありがとうございます。


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今回はご本人の希望で,メールでインタビューをさせていただきました。

はなすばにとって初めての経験であり手探りの部分もありましたが,いちなさんのご協力と「これを伝えたい」と思わせてくださるような意思の強さのおかげで,記事化までこぎつけることができました。

いちなさん,ここまで読んでくださった皆さん,本当にありがとうございました!

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