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【読書感想文】夜のピクニック



夜のピクニック 恩田陸さん



時間が経ってから読み返すと、以前とは全く違った風に響く本ってあるよね。私にとって、この本はまさにそれ。本は全く変わってない分、自分の変化をしみじみ感じたなぁ。



高校は、良い大学のために。大学は、良い就職先のために。若いうちは、後々のキャリアアップのために。30代40代は、、、良い老後の生活のために?


‥あれ。じゃあ、今はいつ生きればいいんだ?


今のために生きるのって、今しかできないはずなのに、それよりも”こうありたいと願う未来”のために、今を生きていていいのかな。



きっと今を生きることも、未来のために生きることも、もっとぐちゃぐちゃになりながらどっちも大切にする事ってできるのかもしれない。



そんなことを考えさせてくれる、高校生のあるイベントを舞台としたお話です。




あらすじは、こんなかんじ。

1年に1度のビックイベント「歩行祭」。全校生徒が夜通し80kmという道のりを、ただひたすらに歩くという高校の伝統行事。主人公の貴子は、高校3年生。高校生活最後の、そしておそらく人生においても最後になる「歩行祭」に、彼女はある密かな”賭け”をしていた。

3年間の学生生活の思い出、卒業後の未来図、あの子とあの人が付き合ってる、あの人はどの大学を目指すらしい・・などなど、友人たちと語らいながら、ゴールである母校を目指し、ひたすらに歩いていく。




物語に出てくる、”歩行祭”というものに参加した事はないし、この本を読むまで知りもしなかった。でも読み終わった後には、なんだか自分もまるで参加した事があるような、すごく身近なものに感じさせられる、”歩行祭”。


分かる。わたしもこんなことがあった。そういうモヤモヤ、感じたことがあったなぁ。読み進めるにつれて、そんな感情がたくさん出てくる。


最近は忘れていたけど、思い出せてよかったな。




当たり前のようにやっていたことが、ある日を境に当たり前でなくなる。こんなふうにして、二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が、いつのまにか自分の後ろに積み重なっていくのだ。卒業が近いのだ、ということを、彼はこの瞬間、初めて実感した。



あぁこの感覚、わたしも”卒業”が近づく度に感じていた。高校卒業、バイト先をやめる、留学に旅経つ、といった一つの区切りが近づくとき。それぞれの場面で、それぞれの”当たり前”が消えていくことを実感していた。



でも、その実感ができることって、きっと幸せな事なんだと思う。

だって、実感ができないままに”当たり前”が消えることだって、たくさんあるから。むしろ、その方が多いかも。



例えば、恋人から別れを告げられた時。自分の素直な気持ちに気付いて、新たな環境に飛び込むことを決めた時。


こういうときって、当たり前だけど学校の入学卒業と違って、明確なタイミングが定められていないんだよね。だからバラバラで、いつそれを迎えるのか、自分から迎えに行くのか。ぜーーーんぜん分からない。


いつどこに”卒業”潜んでいるのか分からない生活だからこそ、どんな時に卒業証書を渡されても、堂々と受け取れる自分でありたいな。なんて思ったり。




この本に出てくる、比較的ドライな男の子に対して、彼の親友がこんな言葉をかけるシーンがある。


あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上り切りたい気持ちは痛いほど分かるけどさ。(中略)だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。


おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。



今をちゃんと生きるからこそ、生きれる未来があるんだろうな。



こんな言葉をまっすぐに届けてくれる親友を持つ、ちょっぴりドライな男の子は幸せ者だな。そして言葉をまっすぐに届けたくなっちゃう夜にみんなで歩く、歩行祭も素敵な行事だな。



みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。



おそらく7,8年ぶりに読んだ本だったけど、こんなに響くお話だったなんて、びっくり。これだから本はたのしいな~~。



他にも、数年前に読んだ本を再読してみようかなと思わせてくれた、一冊でした。

また読むど。























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