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【読書感想文】去年の冬、きみと別れ

去年の冬、きみと別れ  中村文則さん



わーーお。圧巻。という言葉がぴったり。

読む力が問われる。最後の最後で明らかになったと思った。けれど、最後、読んだ後も「どうゆうことだ・・?」と再び読んで、自分の読みの甘さを知る。そんな本でした。ちょっと悔しい。完敗です。




猟奇殺人事件を犯した有名カメラマンと、その彼の本を書きたいライターの「僕」。カメラマンの動機は不可解で、彼の姉など周囲の人々もどこか狂気的。「僕」が集めたであろう、カメラマン、姉、「僕」目線などの様々な資料から、少しずつ事件の全貌が明らかになっていく…。





この本に出てくる人々は、みんな怖い。狂っている。

彼らは、「自分狂ってるんで」と自分で認識している様に言うが、その狂気の深さに自分では気づいていない、ほんとうに怖い人々だ。



そんな人々の「狂い」の対象は、愛‥なのかな?自己愛、写真への愛、人への愛、モノへの愛‥。


愛は人をこんなにも狂わせてしまうのか。そして狂った結果、こんな恐ろしいことを人はできてしまうのか。


実はこのタイトルには、続きがある。

ネタバレになっちゃうかもしれないからここには書かないけれど、「去年の冬、きみと別れ」の後には続く言葉がある。その言葉もまた、愛の怖さ、人の可能性の恐ろしさを感じるものだったなぁ‥。




読んでいてただただ怖かった。天気のいい昼下がりに読む本ではなかった。でも寝る前に読んだら辛くなってしまいそうだ。

初めから終わりまで、しとしと静かな雨が降っているような、そんな暗さだった。





冒頭で、圧巻と言ったのは、本の一番最初と最後に出てくるこの文章の意味だ。


M・Mへ そしてJ・Iに捧ぐ。


この意味が分からなかった。

物語の後の、作者の解説でも触れているのにも関わらず、分からなかった。


グーグルで調べるのは悔しいから、答えを探して再度軽く読み返した。でも分からなかった。



そして結果グーグル様に聞いてみて、「・・・・なるほど、完敗です。」となった次第でした。


黙って頭を横に振っちゃうような。両手を上げてお手上げポーズをとってしまうような。

この本が生み出す世界と、私の読む力、もう天と地の差。


こんな世界を生み出せる人が世界にはいるんだなぁ‥と。

もうなんか、尊敬という気持ちを抱けるほど、私はそこまでいっていないですという感覚。






いや~~~~すごかったな。

その意味が分かって、はじめて”この本がどのような存在なのか”が分かる。


小説って長いながい芸術作品なのかな。

色々な視点から、少しずつ物語の世界が見えていく。ぜんぜん関係ないような部分や、まったく最初は意味が分からなかったものが、最後になって一つの作品としてぱっと収まる。



読むタイミングによっては、自分が苦しくなってしまうくらいに人間の怖さも書かれている。けどその怖さも含めて人間なんだよなぁ。



「…それがいい。きみは自分の生活を守って行けばいい。…世界が本質的に退屈であっても、その中で生き切る人間の姿は美しいのだから。…だけど、時々思い出してくれ。…人生を完全に間違えてしまった我々のことを。本当は、そのように生きていきたかった我々のことを」





中村文則さん、くらーーーい話が多いイメージであんまり読んでなかったけど、ちょっとずつ読んでいきたいな。


この感動を、すぐ書き残さなきゃ!!!なったくらいに、心が動かされた一冊でした。ブラボー。完敗です。



また読むど。




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