ガラスの破片がばら撒かれた世界で生きる〜『82年生まれ、キム・ジヨン』で描かれる女性の日常〜
3年ほど前から周りの人が読んでいて、よくおすすめされてきた『82年生まれ、キム・ジヨン』。たまたま古本屋で格安で売られているのを見つけ、ようやっと読んだ。
描かれていることは、進学、就職、結婚、出産、子育てなど、それぞれのライフステージで選択を求められる女性の姿だ。読んでいる間は、とても心がチクチクする。
女性を取り巻く環境は、改善されてきた点もある。でも、女性への偏見や差別的なジェンダー観はいまも根深い。
女は男に仕えるものという考え方はなくなってきているものの、女が男より多くの家事をすることが多い。
結婚や子育てがすべてではないと浸透してきているものの、やはりこの価値観はどこかで私たちの身体をがんじがらめにしている。
そんな社会に女性として生きるということは、一見なんともないが、小さなガラスの破片がばら撒かれた世界に生きているような感覚だ。
小さなガラスの破片は見えづらい。痛がっていたら、はたから見た人に不審がられる。だからこそ、我慢するしかない。痛くないふりをするしかない。平然と。そして、ガラスの天井を破ろうものなら、キャリアや家庭かの二者択一をせまられ、何かしらの痛みを伴う。
この本は、私自身の過去の記憶を刺激すると同時に、多くの女性が痛みを感じているんだろうなと、ページをめくるたびに心が重くなった。
そして、なかなかなくならないミソジニー(女性嫌悪)に恐怖も感じた。
きっと、今を生きるどの女性も、本に出てくる女性たちと同じように葛藤した経験があり、彼女たちと違う選択をした女性たちもいれば、同じ選択をした女性もいるだろう。
本で登場するエピソードの中には、自分も経験したものもあった。当時は疑問に思い、怒りさえ感じたことも、仕方ないと流してしまった。でも、この本の読み、私だけじゃなかった、やはりあれはおかしいと思ってよかったんだと気づいた。だからこそ、きづいたなら見て見ぬ振りをせず、問題提起していきたいと思った。
そして、この本では男性の発言(もはや失言)もリアルだった。
でも、これは男性だけの問題ではない。私たち皆で男女のコミュニケーションのあり方を考えないといけないと感じた。その過程で、男性が縛られている「男性性」とも向き合っていく必要があると思う。
一方、一つ一つの決意や選択が、女性の社会進出を支え、社会の風潮を変えていったのだと実感できる本でもあった(解説を読むのが大事!!)。
誰のどんな選択を責めるわけでもない。
ただ、自分にふりかかった悔しさを、「そういうものだから」という言葉で片付けて再生産してしまうのではなく、次の世代が、「女だから」「男だから」という理由で苦しみを感じなくていい社会を実現するための選択をしていきたいと思った本だった。
2023年に読んでよかった本リスト(そんなものは今まで作ったことないけれど)に確実に入る本だ。
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