見出し画像

魚座の季節

夢の中のキミは
とても饒舌で多弁で
丸くて黒目がちな瞳をくるくる動かしながら

昨日おばが突然やって来てと言う
叔母さんなんだか伯母さんなんだか
そもそも
おばさんはどう言う関係のおばさんなのかも言わないままで

それから次々とキミの話しに登場する人たちについて
キミは終始
“突然やって来た人たち”
と言う飾り文句がついていた



目が覚めてボクは
夢だったのか現実だったのか
しばらく記憶を辿っていた


いつもの電車
いつもの景色
いつもの道
いつものデスク

いつもの場所でランチをしていて
急に思い出したんだけど
夢だと思っていたキミの
饒舌多弁な突然やって来た人たちのお話しは

やっぱり現実だったんだと言うこと
なぜなら
ランチをしているボクの携帯電話に
ボクの父方の叔母からメールが来たから

面倒なことになりそうだと
そのまま画面を伏せてランチを食べる

見上げた空には
魚のかたちみたいな雲がのび〜っとたなびいている

2月と3月の境い目の空気は
強さと儚さが溶け合っている、と思う

ボクはふりかけごはんをほとんど噛まずに飲み込んで、夢の中のキミを描いてみる

夢の中のキミは
饒舌多弁
現実のキミは
ちょっとのおしゃべりと少しの微笑み

記憶の中のキミは
ボクの話しをじっと聞いている
現実のキミは
ボクの話しに一つ一つ文句を言う


食べ終わったお弁当箱を包みにしまって
魚のかたちの雲を見上げだけど
もう魚じゃなくなっていた

キミと過ごした季節は
遠いけど
近い

手を伸ばしても
遠いけど
頭の中には
すぐに浮かべることが出来る


街の通りの木
ふっくらと柔らかさを帯びてきた蕾に
溶け残った雪氷がほんの少しだけ付いている

優しく当たるお昼の太陽が
じんわりと溶かして行く

魚座の季節は
強さと儚さ


厳しい寒さと
春を感じるほんわかさ

お別れも
初めましても
魚座の季節には
終わりと始まりが混在する


さようならが優しくて

よろしくお願いしますが
少し緊張する


魚座の季節は
すれ違う人々の
色んな感情があちこちにある


そんな街中を歩きながら
遠いキミをいつも思い出すのは

決まって
魚座の季節なんだ


魚座の季節

強くて

そして儚い


夢のようで

本当だったりするんだ


帰ったら
叔母に連絡しなくちゃ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?