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リビング・イン・ニア・トーキョー #21

 4連休だった。
 今の職場は、祝日は働きに出て、どこかでその代休を取るという仕組みになっていて、今回は月・火の祝日を木・金で消費するということになった。

 木曜はレンタカーを借りて、海ほたる経由で木更津へ行った。
 通勤のために持っていた車はニア・トーキョーに引っ越してくるときに売っ払ってしまったので、ドライブはすっかり非日常になってしまった。年5〜6回はどこかしらにこすったりぶつけたりしていたので間違いなく自分は車を運転するべきでない人種だということは分かっている。けど、たまに乗りたくなっちゃう。人情だね。

 秋冬に向けて、テーラードジャケット?がもう一着欲しいので、探し回る旅。
 テーラードジャケット。ファッションに疎くてよくわからないんだけど、多分それ。襟がついてて、なんか、ビジネス!みたいなやつ。ちなみにあれの名前はこれに書くためにはじめて調べて知った。といってもあんまりカチッとしたものでなくて、質感もソフトめなものがいいんだけど、これがなかなか見つからない。
 質感となるとネットショッピングだけじゃどうしても分からないので、実際に触ってみたい。ついでなので、行ったことのないところに行ってみたい。ゆえの、海ほたる経由、木更津。

こーいうやつがほしい。

 テーラードジャケット...
 いつからそんなものを買って、仕事以外の場で着るようになったのだろう。
 少し前(本当にちょっと前)までの自分だったら、「綺麗めなやつ絶対似合わない無理オエェェェェ」と思っていたし、転じて「あれを仕事以外の場で着こなせるやつの気が知れない」とか、「あんなのはイケメンがよりイケメンになるために作られた悪魔の服」ぐらいには思っていた。生涯買うことはないだろう、ぐらいには考えていた。そんなものを今、買おうとしている。なお、「もう」一着です。ひええ。

 ただし、綺麗めなモノに対する抵抗感があっただけで、着る服に一切の頓着がない、というわけでもなかった。
 とは言っても、手に入れるアイテムはどいつもこいつもゴーマイウェイな感じで、一例を挙げるとレインボーのチューリップハットと象がいっぱい書いてあるベージュのTシャツ、それに青/ピンクのオールスターで大学に通ったりしていた。あれを「おしゃれ」だと信じて生きていたのだから、業が深い。今までの人生を思い返しても、レインボーのチューリップハットを被って平然と歩いているような人間に会ったことはない。

 きっと、自分に自信が無かったんだと、今は思っている。
 見てくれが嫌で嫌でしょうがなくて、シンプルなものを着るとかえってその嫌な見てくれが際立ってしまうという感覚があったのだろう。だから、それを隠したいがためのカラフルオンパレード。だったんじゃないかなあ。
 就職してからはさすがに社会の波に揉まれたのでそういうカラフルな格好で街を歩くこともなくなったが、代わりに服にかける時間も余裕もなくなり、気付けば着る服は部活で使うようなジャージばかりになっていた。よくてポロシャツ。そして冬はパーカー一択。そんな感じのうだつがあがらない生活を6年も送ったのだから、そろそろテーラードジャケットぐらい着たっていいよね。

 にしても、年月とは恐ろしい。
 あんなに全身カラフルだった人間が、今はネイビーとグレーのシンプルな格好を好むようになり、世のイケメン集団が着ているような服を好むようになってきている。なんでこんなことになったのだろう。

 きっかけは間違いなく、昨年なかばの「心がぶっ壊れた事件」だったと思う。
 あの辺りから、自分の価値観はグルリと転換し出した。いまだもってあの辺りで何が起こったか、簡潔に言語化するのは難しい。暇な時に過去のnoteを見てもらうといい。

 半年かけてぶっ壊れた心を建て直していく日々。
 ずっと持っていた「どうせ自分なんか」という心の存在に嫌と言うほど向き合わされた。そんで、そんなものぶった斬ってしまえ!ぐらいにはなった。どうにもならないんじゃない、どうにかするんだよ!みたいな。道が無ければこじ開けちゃえばいいじゃない、みたいな。そんぐらいに考えるようになった結果、かつて悪魔の服と恐れていたテーラードジャケットを「着てみよう」と思うようにもなったのだろう。どうせ似合わない、じゃなくて、似合うように自分を変えてみるといいのだと。

 考えが変わると不思議なもので、結局自分はこういうのを着たかったんだな、と思うようになったりもする。素直か。あとは、痩せて着れる服の選択肢が増えたことも大きい。それが自分に自信を持つことにつながったのかもしれない。単純か。単純だよな。

 アウトレットを巡るもお目当てのものはなく。
 エスニックな雑貨屋さんやらを巡り、帰りは南船橋を回りながら、ららぽーとなど。結果、何も買わず。贅沢な時間の使い方をしてしまった。
 エスニックな雑貨屋さん。そういえば、靴も欲しい。

こーいうやつ。

 民族チックなものが欲しいんだけど、これまたお目当てのものが見つからない。
 あまりに見つからなくて、金曜にはなんと幕張まで行ってしまったのだけど、お目当てのジャケットにも、靴にも、出会えませんでした。

 そこでついに、ついに今日。
 僕は、テーラードジャケットを求め、あの表参道に足を伸ばしてみる予定である。

 まさか人生で「表参道に服を買いに行く」なんて陽キャラシティボーイ(偏見)の代名詞みたいなことをやる日が来るなんて思いもしなかった。
 初めて表参道に行くってだけで浮き足立ってる28歳男性、独身。きっと見る人が見たらおかしくてしょうがないんだろうが、まあ、そんな人生を歩んできたのよ。そして、これからも歩んでいくのさ。
 お目当てのモノに会うことはできるだろうか。表参道って全日本ファッション連盟の本部みたいなもんだと思ってるんだけど、ここで会えなかったらどこで会えるんだろう。

 最近ハマり直してる、くるり。
 「HOW TO GO」という曲のこんな歌詞が頭をよぎる。

いつかは想像を超える日が待っているのだろう

 超えてきてるなー。

(2494字)

*追記
結局何も買わず、表参道をあとにしました。

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