見出し画像

僕とかオレとか

「僕」とか「おれ」とか、一人称が色々あるのっていいなと思う。
みんな、それぞれにこだわりがある気がする。
私が好きだったおじさま達も、耳で聞く分には同じ「おれ」でも、メールだと「俺」って書く人や「オレ」って書く人がいたり、みんな自分にしっくり来る一人称を使っているのだろうなと思う。
固いお仕事をしているおじさまが、「私」と言っているのしか聞いたことがなかったのに、私と一対一で話す時に急に「僕は」とか言うとキュンとする。


私自身は、両親やおじさまと話す時は「わたし」、友達と話す時はくだけて「あたし」になるぐらいだが、もう一つ、ベッド方面においては「花野」というのがある。
いやらしいことを言わされる時とか、おねだりする時って、自分のことを名前で呼びたい気持ちがあるのだ。
しかし小さい頃は自分のことを「花野」と呼んではいたものの、とっくのとうに大人になっているんだし、おじさまの好みも鑑みなくてはいけないので「私」にするか「花野」にするか迷ってしまう。


だから、
「どうして欲しいのか言ってごらん」
「‥‥〇〇して欲しいです‥」
「じゃあ『花野は〇〇して欲しいです』って言いなさい」
などと言われると「あ、花野って言っていいんだ!」と分かって嬉しい。


あと、セックスの時ってエロい部位の名称を言わされることがあると思う。(え?無い?)
私はベッド上では完全にMなので、そういうことを言わされがちな人生だ。
恥ずかしいことを言わされること自体は全然オッケイ、むしろウェルカムなのだが、その時に困るのが名称そのものをどう呼ぶかだ。


自分の部位については私にも譲れない呼び方があるので、あまり迷わない。
困るのはおじさまの方の部位の名称を言わされる時だ。
私はてっきり□□と呼べばいいと思ったら、おじさま的には△△だった、という事態は是非とも避けたい。
「何を挿れて欲しいの」
「‥‥おじさまの□□を挿れてほしいです」
「えっ」
みたいなことになる事態。
いい場面でそんな恥のかき方をしたくない。


だから、何と言ったらいいかわからない時は『イヤイヤ』と首を振る。
『花野、わかりません』みたいに。
そうするとおじさまは「△△を挿れて下さいって言いなさい」とか言ってくれるので間違えないで済む。
おじさまのS感も感じられて一石二鳥だ。


‥‥あ。
そんな話はどうでもいいのだ。
一人称の話がしたいのだった。


たくさん一人称があるのは良いのだが、そのために不自由している人を身近に知っている。
トランスジェンダーの友達だ。(友達の場合は生物学的には女で自己認識は男)


彼は外見は完全に男だし、私たち仲の良い友達の前では普通に「オレ」と言っているが、それ以外の知人の前ではそうもいかず、かといって「わたし」と言うのも嫌なのだろう、自分自身のあだ名(『キムタク』みたいなの)を一人称にしている。
「オレ今日は帰るわ」じゃなくて「キムタク今日は帰るわ」という具合に。
本人はどっちかというと堂本剛みたいな顔だが。


彼はもともと周りのすべての人の笑いを取るようなタイプなので、冗談っぽいニュアンスが出てそれはそれで面白い。
しかし、彼が常に生きづらい思いをしているのはもちろん知っているし、何かの折に性別を記入しなければならない事があると、彼のペン先が一瞬迷うのを何度も見てきた。
それを見るたびに私は「本当は誰の前でだって『オレ』って言いたいのではないかな」と思って胸が痛む。


みんなが自由な一人称を使える日が来るといいのだがな、と心から思っている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?