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仲良しになるきっかけを作ってくれた雑種犬

小学1年生の時、近所に男女あわせて5人の同級生がいた。私を含め4人は同じクラスで、休日には担任の先生がザリガニ取りや自然散策に連れていってくれて楽しんでいた。

ひとり違うクラスになったS君の家は、洋品店を営んでいて、そのお店には時々母と買い物をしに行っていた。S君は、なんとなく博士のような雰囲気を持っていて、おとなしく、目立たない、いつも一人でいるような子だった。親同士は世間話をして楽しんでいたが、私とS君は特に話すことはなかった。

小学校3年生の頃、S君の家で犬を飼うようになった。名前は忘れてしまったが、柴犬に似た雑種犬だった。S君のお母さんが、
「いつでも遊びに来てね」
と声をかけてくれ、私はその雑種犬に会うため、S君の家に遊びに行った。

そのうちにS君と雑種犬と私で散歩に行くようになり、家の近くを流れる天竜川の堤防沿いを一緒に歩いて、おもしろい形や色の石や瓶、草や花などいろんなものを見つけた。S君と見つけて気に入ったものは、テトラポットの秘密基地に隠した。時には、家の冷蔵庫にあったほうれん草のお浸しをラップに包み、テトラポットの秘密基地でS君と雑種犬と一緒に食べた。

天竜川②


私は小学1年生の時から鍵っ子だった。学校から帰ってきても、長期休みの時でも一人でお留守番をしていた。近所に住む同級生の家に遊びに行くこともあったが、遠慮しがちだった。
「何回も遊びに行っていいんだろうか。」
「実はお家の人は迷惑しているんじゃないか」
小学生ながらにそんなことを気にしていた。だけど、雑種犬がいたおかげか、S君が醸し出す雰囲気のおかげか、S君のお母さんの優しさのおかげか、私からS君に「一緒に遊ぼう」と声をかけやすかった。

なによりS君といると楽だった。スポーツが得意だった活発な私と、読書が大好きで物静かなS君。S君が私の言いなりになっていたわけではない(と思う)。


「あんなことしない?こんなことしない?」
と二人でコッソリ話して、いろんな遊びを楽しんだ。S君からの提案も私が思いつかないことで楽しかった。そして、S君と一緒にいるといつも穏やかな時間が流れた。

私とS君が仲良く遊んでいたことは、周りの友達はあまり知らなかったと思う。でも、S君と雑種犬と一緒に遊んだ時のことは、天竜川の流れや堤防の砂利の感触、あの時の温かな日差しとともに今でも思い出す。

あれから30年以上たった今、S君はどこでどんな風に暮らしているんだろう。


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