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夫婦の会話

結婚して20年余り経つ私たち夫婦の会話のキャッチボールは、時にデッドボールになることがある。それが故意に投げたものではないから、投げた側からしても、相手がどうして傷ついているのか分からない。

若い頃の私は、「何でそんな言い方をするの?!」と腹を立てたこともあったけれど、これだけ一緒に居ると、夫は悪気があって言ったことじゃないことが少しずつ分かるようになってきた。

私も夫に対し、デッドボール級の言葉を言い放つことがあった。私の場合は感情が爆発して言い放ってしまい、今思えば夫は夫で「そんな言い方しなくても」という思いはあったと思うし、いつまでもプンプンしている私の態度もイヤだったと思う。

夫が嫌がることを肌で感じるようになり、今では剛速球並みのボールは投げないよう、夫が受け取りやすい球種を投げるよう心がけている、つもりでいる。

つい先日、仕事から帰った夫と話をしていると、夫が言った言葉が私に伝わらず、会話のキャッチボールが上手くいかなかった。私と夫はふたりして「ん?」みたいな表情でお互いを見ていた。

すると夫が

「ちい、また病んでる?」

とさらっと言った。確かに過去に悩み事があるときは、そちらに意識が向いてしまい、夫との会話がチグハグになってしまうことがあった。しかし、この時は大きな悩み事を抱えていたわけではなかったので、私は心の中で、今は病んでないよ、と呟いた。それに、ふたりで「ん?」となったのも、私たち夫婦にはよくある言葉のキャッチミスくらいにしか思っていなかったので、そんなに気にはしていなかった。

しかし、私の隣に座っていた娘が突然こう言った。

「パパのことは大好きだけど、ママに『また病んでる』って簡単に言うところは好きじゃない。ママが仕事で辛かったことを思い出させるようなことは言わないほうが良いよ。今のママは、前のように仕事で悩んでないから。」

キャッチャーミットがパシン!と音を立てるような速球を放った。

突然娘が言った言葉に夫も動揺していた。それこそ、夫本人も悪気があって言ったわけではなかったからだと思う。

私も娘の言葉に驚いた。と同時に、「この子はなんて正義感の強い子なんだ。」と思った。

夫婦でぶつかり合うことを避けようと、若い頃と比べ、夫との会話の仕方も変わってきた。夫が冗談交じりで言った言葉が、私の胸にチクッと刺さることがあっても、聞き流すことも覚えた。

いくら体格の良い夫でも、女性に剛速球を投げられると怪我を負うことも知った。

長年夫婦で一緒に居て、お互いにちょっと遠慮しているところは何かしらある。

けれど、遠慮するのが悪いことだとは思わない。言い換えるならば、配慮。これからも私は夫と一緒に長く生きていきたいから、本音と配慮、両方の折り合いをつけながら、夫と会話をすることができたら良いと思う。

これからも楽しいことでも、悲しいことでも、些細なことを話のネタにして、絶えず会話をしていきたい。



ヘッダーはあまのこさんのイラストをお借りしました。イラストの夫婦のようにふたりで歳を取っていきたいと思い、使わせていただきました。ありがとうございます。

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