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「かしこーならんと」

初めまして。木下克俊です。僧侶ですがクリニックに勤務して終末期のスピリチュアルペイン・苦悩に向き合う仕事をしています。逃避していた苦悩に患者と周りのひとびとが向き合い、統合性をより深く経験できるよう。

病気や障害を持った人の全人としての健康とは何か?「人間としての統合性(integrity)が脅かされたり、破壊されると苦悩が生じる。苦悩は脅威がなくなるか統合性が回復されるまで持続する。(Whole pserson care)」

雑貨屋をしていた
おじいちゃんとおばあちゃん。
祖母との対話。

「かしこーならんと」
お父さん、お母さんの
言うことを聞いて
「かしこーならんと」
おばあちゃんの口癖。

近所のお地蔵さんに
毎日お参りして、
子ども、孫の健康、安全
を祈るおばあちゃん。

91歳になり
大腿骨が骨折し
一カ月前から入院していた。

5年続いた透析が出来なくなり
週末、透析ができなければ
覚悟してくださいと言われ
見舞いに行った。

朝、四人部屋の病室に入ると
「そら」を仰ぐおばあちゃん。
目を大きく見開き
口を開け

ゼーぜー

生きていた。
骨がむき出しになり
顔には、苦しみが
あふれていた。

「生きる」

「苦しみ」
が同じに見えた。

おばあちゃんが
「ベットを起こしてくれ」

起こすと、立ち上がろうと
するおばあちゃん。

一か月も入院していて
家に帰りたい

腰の骨が疲労して骨折した。
身体を使いつくした。

立ち上がることは出来ないけど
帰りたいという気持ち
が伝わってきた。

胸につながっているコードを
しっかりした指先で、たぐりよせ
丸めて、着物の中にしまおうとする。

あまりに引っ張りすぎて
コードの先にある計器が
倒れそうになるので、

倒れちゃうよ。おばあちゃん。
どうするの?と話しているうちに
綺麗でありたい
と身なりを気にしているのだと
分かった。

コードを丸めるのを手伝い
着物の中にしまいこんで
おばあちゃん、
綺麗になったよ。

と手をさすった。
手の甲はカラカラにひあがり
指の爪まで枯れていた。

そうやって、おばあちゃんに
触れていて
恐怖につつまれている。
と分かった。

今はね。
おばあちゃん。

息をすいこんで
息をはく

それだけでいいんだよ。
ちょっと楽になったら、
それを鼻でやってみて。

おばあちゃんは
言われるままに口を閉じ
鼻で呼吸を始めた。

胸が膨らみ、腹が縮む。
怖いね~おばあちゃん。
痛いね~おばあちゃん。

だから、呼吸をみようね。
うんうんうん
と聞いてくれて
そのうちに、顔が穏やかになり
息をすうたびに瞼が閉じる。

恐怖が消え、
緊張がひいていき
眠りにはいった。

3歳児の赤ちゃんのように
深い眠りにはいった。
私はそっと部屋を出た。

その日の夕方、広島駅に降りると
着信があった。
おばあちゃんが亡くなった。

朝の気持ちがよみがえる。
ああ、ばあちゃんなくなった。
いってもうた。
ありがとう。ありがとう、ばあちゃん。

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