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使い勝手無限のニンニク醤油ができるまでの話

 新ニンニクの季節である。

 私が暮らす埼玉県でも、瑞々しい新ニンニクが売られている。しかも、少し小さめではあるが、近所の無人販売所で2玉150円というお値打ち価格だ。私は目の色を変えて、むさぼるようにニンニクを買い、ホクホク顔で自宅へと戻った。

 こりゃあ、シラスと大葉のニンニクパスタだな。

 そんなことを思いながら、じゃあ白ワインも買っておこうか、などと算段を始める。今、シラスも旬である。最高の取り合わせではないか!
 なんて鼻息を荒くしていたが、予定が変わった。

 沖縄はお酒の〆にステーキを食べるらしい。

 この話を初めて聞いたとき、なんて理にかなっているのだろうと思った。
 沖縄は暑い。
 暑いのに〆にラーメンを食べたら、体が熱々になってしまって、またビールや泡盛を飲みたくなってしまう。そうなると、いつまで経っても〆られない。沖縄において〆のラーメンは危険だ。

 ステーキならば、お腹もしっかり満たされ、たんぱく質のおかげで、遅くまで飲んで疲れた体をリカバリーできそうだ。ラーメンを食べるより、ステーキの方がむくみも少ない気もする。

 近頃、そんな沖縄のステーキ文化を、都内でも気軽に楽しめるようになった。沖縄発祥のステーキ店。やっぱりステーキの襲来である。

 ラストオーダーは店舗によって違うが、都内にある吉祥寺店のラストオーダーは午後10時。とっぷり夜が更けてから食べるお肉……。想像するだけでお腹が鳴る。

 私は最近、ネット動画でやっぱりステーキの存在を知ったのだが、その動画によると、ここのニンニク醤油は持って帰りたいくらいに美味しいらしい。
 そういう話を耳にすると、夫は必ずといっていいほど、こんなことを言い出す。

「ねぇ、やっぱりステーキのニンニク醤油、うちで作れないかな?」

 出た。
 夫は、お店に出てくるものは、家でも作れると思っているのだ。
 二郎系ラーメンも作ってくれと言われたし、

 箱根名物のシチューパンも作ってほしいと言われ、3日かけて作ったことがある。

 その昔、テレビ東京のドラマ『孤独のグルメ』で、フェイジョアータというブラジル料理が登場したときも、
「これ、家で作れないかな」
 と言われ、私は思わず、白目をむきそうになった。(ちなみに、材料が入手できず断念)


 まぁ、ブラジル料理に比べたら、ニンニク醤油は気軽に作れそうだ。しかも、今、我が家にはとれたての新ニンニクもある。

 ちなみに、私はやっぱりステーキに行ったことはない。そもそもステーキ店に入ったことすらない。ステーキにかけるニンニク醤油がどういったものか、私には見当もつかない。ないない尽くしである。

 私は動画を何度も見返し、やっぱりステーキのニンニク醤油の色味や、混ざり具合などを確認した。どうやら、ニンニクパウダーではなく、すりおろしニンニクが使われているようだ。もう少しきちんとした成分表が見られればいいのだが、公式ホームページにソースの記載はなかった。

 きっと、美味しくするために、いろいろな材料が入っているのだろうが、私には、そのいろいろが全くわからない。

 半ばヤケになった私は、
「余計なものは入れない」
 某食パンのCMみたいなことを言いながら、ミキサーに醤油200ml、みりん200mlに、ニンニクを1玉を入れ、勢いよく回し、ニンニクが完全に細かくなったところでスイッチを止めた。

 500mlの空のペットボトルに注いでみると、見た目はやっぱりステーキのニンニク醤油に近い仕上がりになっている。
 だが、味は恐らく違うはずだ。
 そもそも、食べたこともないステーキ屋のニンニク醤油を真似て作るなんて、できない相談である。

 翌日、夫の仕事は休みであった。

 もう、いろいろ面倒くさくなったので、食卓には、野菜を味付けしないで、炒めたり、茹でたりしたものをそのまま出した。ステーキ肉なんて急には用意できないので、肉は鶏もも肉を塩コショウをかるく振って焼いただけ。そこにうやうやしく、ニンニク醤油を登場させることで、ご馳走感を演出してみた。

「ニンニク醬油作ってみた。化学調味料無添加だよ」

 夫は、化学調味料無添加という言葉に弱い。
 ニンニク醤油の入ったペットボトルをマラカスみたいに振りながら、

「うわぁ♪ やっぱりステーキのニンニク醤油みたい!」

 と言って喜んでいる。
 熱々のチキンステーキにかけると、食欲をそそるニンニクの香りが立ち上った。
 夫がチキンステーキを頬張る。

「わー、おいしいねぇ。やっぱりステーキに来たみたい」

 ミキサーにかけただけのニンニク醤油で、夫は行ったことのないやっぱりステーキに行った気になってしまった。

 私も食べてみたが、さすがニンニク。旨味もコクもスパイシーさも完璧だ。チキンステーキも美味しかったが、焼いただけの舞茸にかけて食べると、これまた美味しい。うまみ成分が入っていなくても、物足りなさなど全くない。私はニンニクのポテンシャルの高さを、改めて感じた。

 チキンステーキの皿に溜まった油で、ガーリックライスも作ってみたが、炭水化物なのにお酒が止まらない。ニンニク臭い泥酔中年女の出来上がりである。厄介なことこの上ない。

 さて、このニンニク醤油。
 炒め物に少し加えてもコクが出て、なかなか良かった。これからの季節、そうめんやうどんなどのつゆや、冷やし中華に加えてもいいかもしれない。夢は広がる。

 夫の「うちで作れないかな?」の一言のおかげで、呆れるほど簡単で、使い勝手無限の調味料が出来てしまった。

 ただ唯一の欠点は、臭うこと。

 翌日、人に会う予定のある方は食べない方がいい。どんな心優しい人でも、その臭いに思わず眉間に皺を寄せてしまうだろう。

 ドラキュラ退治を生業としている方には、お勧めの調味料です。
 沈殿しているので、使うときにはドレッシングのように振ってお使いください。


私はハンドミキサーで作りました。
甘いのが苦手な方は、
みりんを少なめにして作ってみてください。


 

お読み頂き、本当に有難うございました!