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夫、冬至に海原雄山になる

 昨日は冬至であった。
 我が家では冬至になると、南瓜と小豆のいとこ煮、もしくは山梨県民が愛してやまない、「旨いもんだよ南瓜のほうとう」でお馴染みのほうとう鍋を作る。
 今年は、いとこ煮を準備した。何故ならば、数日前から「冬至はいとこ煮だね!」と夫に決め打ちされていたからである。

 何故か夫は、いとこ煮にはうるさい男だ。
 味付けも塩と酒のみで味をつけるように厳命されており、砂糖を使うことは許されない。塩や酒のみで、甘くてほくほくしたいとこ煮を作らなければならないのだ。普段は、妻に文章のネタにされても、全く気にしないほど優しい男なのだが、何故か、いとこ煮となると普段隠している亭主関白の気配を漂わせ始める。昨年作ったいとこ煮は、小豆が柔らかくなってしまい、一応食べてくれたものの不評であった。

 今回、小豆を初めて電気圧力鍋で煮てみたのだが、少々柔らかくしてしまった。夫に煮上がった小豆を見せながら、
「これじゃあ、やっぱり柔らかいよね? これでいとこ煮作ったらダメよね?」
 と聞くと、間髪入れずに、
「柔らかいね! これはお汁粉にした方がいいね!」
 と明るくダメ出しを食らった。つまり作り直しである。

 言い方が明るいので騙されそうになるが、やっていることは美味しんぼの海原雄山と何ら変わらない。美味しんぼ第一巻で、吸い物の味が気に入らなかった海原雄山が、料亭の女将を呼びつけて、何度も料理を作り直させたシーンが、私の脳裏に浮かんでくる。

 私は柔らかく煮えてしまった小豆をあんこにして冷凍した。そして、いとこ煮を作り直す作業に入る。正直言えば面倒な事この上ないが、仕方がない。以前、クリスマスに丸っこいパンにビーフシチューが入ったやつを、3日かけて作ったのに比べれば、これくらいのこと手間でも何でもない。私はそう自分に言い聞かせ、改めて小豆を煮始めた。

 小豆が良い塩梅に煮上がった。今度はそこに切った南瓜を入れて煮ていく。南瓜は切るときに結構な力が必要なため、固い根菜とのイメージがあるが、実は火の入りは驚くほど早い。根菜だからといって気を抜いていると、南瓜というものは一気にグズグズになってしまう。しかも、南瓜には、ホクホクのものもあれば、少々水っぽいものもある。こればかりは煮てみないと、買った南瓜がホクホクタイプか水っぽいタイプかわからない。(見分ける方法があったら教えてください)

 しかも残念なことに、今回買った南瓜は水っぽいタイプであった。ポタージュにするなら何の問題もないのだが、煮物となると大問題である。水っぽいいとこ煮など、ウチの雄山が認めるわけがない。

 本物の雄山のように怒鳴り散らすことは決してないだろうが、夫が寂しげな表情で、水っぽいいとこ煮をつつくと思うと、私の方がやるせないので、南瓜だけ作り直すことにした。

 水っぽい南瓜は、水で煮るよりレンジ調理の方が向いている。私はいとこ煮から、グズグズになってしまった南瓜を取り出し、残された小豆の再利用を試みた。そして新に南瓜を切り、みりんを絡ませ、そのまま電子レンジで様子を見ながら加熱。出来上がったところに、小豆を絡ませて冷まし、味をなじませた。そんなこんなで完成したものが、こちらである。

令和三年度版・南瓜と小豆のいとこ煮

 夫はこのいとこ煮を食べながら、熱燗を飲んでいる。別段旨いとも、まずいも言わないので、普通に作ることはできたようだ。しかしながら、料理をしていて毎回思うのだが、食べた瞬間「美味しい!」と言わせるのは本当に至難の業だ。家庭料理は外食と違い、「まずい」とは言われても、なかなか「美味しい」とは言ってもらえない気がする。

 そのことにちょっとだけイジけつつも、それでも台所に立ってしまうのは、作った料理を食べてもらうことの面白さを、心のどこかで感じているからなのだろう。
 クリスマスが終われば、正月料理の準備に入る。おせちにいとこ煮は入れないので、新年早々、夫が雄山になることもないだろう。安心して準備に取り掛かろうと思う。





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