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高級中華で結婚報告をする夢

たべもの夢日記 三食目

 夢の中で私は、中華料理店の個室にいた。
 特別な日に訪れるような高級な中華料理店である。その個室には、二つのテーブルが、アルファベットのTの字のようにセッティングされていた。

 Tの字の短い方のテーブルには、白いクロスがかけられ、たくさんのお酒やソフトドリンク、デザート類が置いてあった。どうやら、これは飲み放題らしく、飲みたくなったら、自分で好きなものを選んで注ぐドリンクバイキングのような様式らしい。私の大好きな赤ワインも置いてある。

 長い方のテーブルは、いかにも重そうな大理石でできていた。その上には、様々な中華料理が並んでいる。
 北京ダックや、大好物の海老のチリソース。中華クラゲのサラダや、海鮮あんかけの焼きそばなんていうものまである。
 それらの料理は、異様なまでの照りを見せ、まったりと輝いている。生唾が出てくるような誘惑的な見た目だ。

 テーブルの向かいには、祖母と姉が座っていた。こういうとき、必ず母もいるのだが、何故か母はいない。母がいない代わりに、私の隣には、ある男性が座っていた。

 その男性は実在する人物で、現実でも私が応援している将棋の棋士だ。最近の言葉で言えば「推し」ということになるのだろう。

 しかも夢の中で私とその棋士は、結婚することになっていて、この食事会は結婚を報告するのために設けられたものだったのだ。
 まさに夢のようなシチュエーションだ。私は何食わぬ顔して彼の隣に座っていたが、それはもう内心ドッキドキであった。

 しかし私は、
(わーい、この人と結婚するんだー)
 そう夢の中で喜んでいる反面、
(あれ? 私、誰かと結婚してた気がするんだよな…)
 そんなふうに、現実世界の出来事が、うすぼんやりと頭をもたげていた。

 言うなれば、自分には夫がいるような気がしつつも、会ったこともない人との結婚が決まり、相手は誰だろうと隣を見たら、憧れの人だった。そんな感じなのだ。考えてみれば凄まじい幸運である。夫には悪いが、心の中は指笛が鳴り響くような大フィーバーであった。

 そんな私の胸の内を知ってか知らずか、
「将棋の棋士って、大変なお仕事なんでしょうねぇ」
 と、祖母に言われ、隣にいる私の婚約者は、
「いや、それほどでも…」
 などと答えている。
 私は黙ったままニコニコ笑っていた。せっかくなのだから、何か話せばいいのに言葉が出てこない。しかも目の前に並んでいる御馳走にも手を付けられずにいた。

 隣に憧れの人がいる。
 その人が自分の婚約者だという状況に胸がいっぱいで、食いしん坊の私も食事どころではなかったのだ。

 彼は何度か立ち上がり、テーブルに置かれたハイボールやワインを自分で注いで飲んでいる。私がうっとりと、その姿を眺めていると、
「これっ! 気が利かない奥様だこと! こういうときに大事な旦那様を立たせちゃいけませんよ」
 祖母にお小言を食らってしまった。

 お酒を注ぐために、私が彼の空いたグラスを手にして立ち上がると、彼がそんな私を見て目を細めている。とんでもなく幸せな気分ではあったものの、やはり見られていると何だか落ち着かない。
 手の前にはたくさんの種類のお酒があった。

「なっ!? なにに致しましょう」

 緊張のあまり、声が裏返ってしまった。恥ずかしい。間の抜けた声が、高級中華店の個室に響き渡り、ドッとその場が和んだところで、私は目が覚めた。

「あーっ! 夢かぁ!」


 目覚めてしまって惜しいような、それでいて夫に申し訳ないような、そんな気持ちが入り乱れる。

 夢とはいえ、せっかくの高級中華に手を付けられなかったのは何とも惜しい。
 大好物のエビチリくらい食べればよかった。
 そんなことを思っていたら、普段、寝起きで空腹を感じることのない私のお腹が、
「グー」
 と音を立てて鳴ってしまった。



 こう言う夢を見て、目が覚めたとき、
「なんて自分は厚かましいんだろう」
 と思ってしまいます。
 夫がいながら、それでもまだ足りず、夢の中とはいえ、大ファンの棋士と結婚しようとするのですから、いやはや、本当に厚かましい。
「私、夢の中で、他の人と結婚しそうになったよ」
 夫にそう懺悔の告白をしましたら、
「あら、おめでとう」
 とお祝いの言葉を頂戴しました。寛大な心を持つ夫に感謝しています。

ちなみに私の夢に御出演頂いた将棋棋士は、
藤井聡太さんではありません
ファンの皆さん、どうぞご安心ください。



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