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サロベツ原野の催眠

ガッコン!
フェリーから地上に出た時の大きな音に、
助手席に座る私の心は弥立つようだった。
初めての北海道。
夫がかつてツーリングで通った道を車で走る。

目指すは稚内。サロベツ原野を走っていく。
その道は、青い空の下に草原があって、
真ん中をアスファルトが貫いている。
時折、草原の中に風車が現れた。
私は、その回転を車窓から眺める。

ぐるんぐるん

まるで催眠術のようだ。

空の青、草原の緑、アスファルトの灰色。
その三色が私の目の中を、途切れることなく通り過ぎていく。
どこまでもどこまでも続くサロベツ原野の景色。
終わる気配のない道。
この道を走り続けたまま、どこにも辿り着けずに、
異次元の世界に迷い込んでしまうのではないか。
真っ直ぐな道のもっと向こうに、私の体が吸い込まれる。

「着いたよ」
遠くから夫の声がする。
私はぼんやりしながら目を開けた。

日本最北端の地

大海原を背に、尖った石碑が、誇らしげに立っていた。


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