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日本酒のディズニーランド

私の大好きな酒屋さんには、ミッキーマウスがいる。
ん? いや、女の人だから、ミニーマウスかな?

酒屋のミニーさんは、背も私より小柄で、かわいい。
しかも、ほっそりしている。うらやましい。
私は、黄色くはないが、どちらかというと
くまのプーさんに近い形態の生き物だ。
しかも、大変残念なことに、私はプーさんのように可愛くない。
「ねぇねぇ、はちみつ持ってる?」
ではなく
「ねぇねぇ、いい酒、入ってる?」
といって酒屋を訪ねる、酔いどれクマだからである。

埼玉県和光市にあるまきしま酒店は、若いご夫婦が営む酒屋さんである。
ミニーさんとは、そこの奥様のことだ。
ミニーさんは日本酒をとても愛している。きちんと愛している。
そして、日本酒を、とても楽しんでいる。
何よりも素晴らしいのは、どの日本酒にどんな料理が合うか、
という話で盛り上がれることだ。

このお酒は、すき焼きに合います。
このお酒はエスニック料理に合います。

などと言われると、おぉ!おぉ!などといって全部欲しくなってしまう。
この時点で、私は、すでに大興奮である。

しかも、まきしま酒店では、有料試飲ができるのだ。
有料と言っても、本当にお安い。
安いから、いろいろ飲んで比べて好きなものを買える。
お燗もしてくれるので、燗酒好きの人にも嬉しい。
試飲しながらお酒の話を聞いていると、
酒蔵の話や、どんなお米を使っているか、水の良さ、
口開けしてからの味の変化や、そのお酒を仕入れる思いや、経緯など、
幅広くお酒の話が聞けるのだ。

だからといって、
営業トーク、サービストークのような、いやらしさは一切ない。
本当に、聞いていて心地良いし、酒蔵の匂いを感じる話が聞けて楽しい。
試飲しながら、私も、この料理に合いそう!なんて話したりするので、
ミニーさんと酔いどれクマプーの日本酒トークは止まらない。

本当に楽しい。めちゃくちゃ楽しい。心底楽しい。

私にとって、まきしま酒店は、ディズニーランドなのだ。

コロナ自粛中、いろいろな人が、親や友人に会えないことを嘆き、
悲しんだと思う。
私は引きこもるのは得意なので、そこまで辛くはなかったが、
ミニーさんに会えないことは寂しかった。
私はボソリと
「あぁー、まきしま酒店の奥さんに会いたいなぁ」
とつぶやき、また、日本酒の話聞きたいなぁ…と遠い目をしていた。

もちろん試飲しないで、買うこともできたのだが、
まきしま酒店で試飲をしないだなんて、
ディズニーランドに行って、何のアトラクションにも乗らずに、
お土産だけ買って帰るようなものである。
現地にいるのにイヤホンで、エレクトリカルパレードを聞くようなものだ。
寂しくて身悶えしてしまう。

ここ1年ほどで、
ミニーさんからは、美味しい日本酒を沢山教えていただいた。
最初は、私や主人の好みを気遣ってくださっていたが、
最近では、「奥さんが好きなやつ、全部飲ませて!」
ということになってきている。
私は好き嫌いが多いので、なかなか飲食店で「おまかせで!」
などと小粋なことが出来ないのだが、
まきしま酒店では、鼻の穴をパンパンに膨らませて
「おまかせで!」
と言えるのだ。嗚呼、私って通だな。なんていい気になれる。

まぁ、そんなことでいい気にならずとも、
試飲も5杯くらいになると、本当の意味でいい気分になってくるのだが…。

ミニーさんの魅力もさることながら、
ご主人も、才能あふれる素敵な方だ。
配達でお留守のことが多いので、あまりお話することはないが、
店内に飾られてあるお酒に合う料理の絵は、ご主人お手製のもの。
店内の雰囲気を優しくしてくれる絵を眺めながら、
酒瓶を眺めていると、試飲しない人でも、
ついつい、長居してしまうと思う。

こういうお店を知ると、ものを売ることは、
ただ棚に陳列したり、ネットで売るばかりじゃない、と感じる。
そういう販売が当たり前になってきているが、
販売する側の、商品に対する愛情を感じながら買ったものは、
その愛情も一緒についてきて、幸せな空気が広がる。

しかし、その空気には若干、中毒性があるようだ。
我が家には、今現在、開封、未開封の酒瓶がゴロゴロしていて、
もはや、どれから飲んでいいかわからなくなってきている。

もうすぐ、お正月。
祝いの食卓に、どのお酒を開けるか、
夫婦で相談しながら、飲む酒もまた、格別に美味しい。


#ここで飲むしあわせ

お読み頂き、本当に有難うございました!