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カウントダウンする夫


私は夕飯を食べながらワインを飲んでいた。
手製の
鶏肉のトマトクリームパスタ
きのこのバターポン酢炒め
ロメインレタスとカブの千切りサラダ(大量)
をバクバク食べながら、ごくごくワインを飲む。
夫も同じものを食べているのだが、
どうにもこうにも落ち着きがない。
隣の部屋のパソコンと、食事の並ぶちゃぶ台を、
行ったり来たりしている。

カチカチとクリックし、

「今、96だよ」

と言い、食事を再開する。
食事のマナーに厳しい人なら激怒されるような行為である。

「うん、この黒いフロンタラ、なかなか美味しいね」

と、今飲んでるワインの感想を述べたと思ったら、
またパソコンに向かい、カチカチやっている。

「んー、まだ、96だ」

(夫よ、落ち着いて食べてくれ)
そう思いながらも私は、バクバク食べ、ごくごく飲む。


その日、私の記事が、noteのおすすめ欄に掲載された。
旅する日本語コンテストで入賞したからだ。
入賞前は、スキの数は20いかないくらいの記事だったのだが、
おすすめに載った途端、
湧き水があふれるような勢いで、スキが増えはじめた。
私はこれまで、スキの数が100いったことがない。
おすすめに載ると、こんなことになるのか、と正直驚いていた。
ありがたいことに、その日の夜、
初めて100スキを迎えそうなまでにスキが伸びていた。

それに伴い、なぜか夫が急に興奮しだしたのだ。

「いやー、こんなことになるんだねー、驚きだね!」

そうだね、嬉しいね、と言いながらも、
私はバクバク食べ、ごくごく飲んでいる

「今日行くでしょ、100いくでしょ!」

いいから落ち着いて食べんしゃい、と言うと

「見たいでしょ! 100の瞬間、見たいでしょ!」

と言って、カチカチやっている。
まぁ、見られるものなら見たいけど、私は食事とお酒を楽しみたい。

「おーっ!99! あと一つ!あと一つ!」」

盛り上がっている。
その盛り上がりとともに、パスタは冷める一方だ。
作った方としては美味しいうちに食べて欲しい。

「さぁ来い! 来い!」

(ここは競馬場なの? 女房のスキの数に、いくら賭けたんだい?)

そんな事を思いながら、バクバク食べ、ごくごく飲んでいる。
カチカチ、カチカチ‥‥‥‥
隣の部屋から、ページを更新するクリック音が聞こえ続ける。

「100キターーーーー! こっちおいで!記念すべき100だよ!」

せっかくだから、ワインを一口飲んで、立ち上がる。
パソコンな画面を見たら、確かに100だった。やはり嬉しい、頬が緩む。
夫は、100スキ目は誰だろう!などと言って
100スキ目の方のnoteを見ようとするも、
操作をミスっているうちに101になっていた。

「いやー、おすすめって凄いね。ずっと薦めてくれりゃいいのにねぇ!」

欲張りな人である。

「えらいぞ、みんなえらいぞ!これからも頼むぞ!」

どこから目線なのか、わからぬ言い草で、
夫がスキをしてくださった方々を褒め始めた。
欲張りを通り越して、何とも無礼千万である。

スキをつけてくださった皆様、夫の失礼をお許しください。


カウントダウンというものは、年が明ける時か、
何か先進的なゲーム機やスマホが発売された時にしか
行われないものと思っていた。
おそらく何の行事もない2月の平日に、
大騒ぎでカウントダウンをしていたのはウチくらいのものだろう。

夫が大騒ぎしてくれたおかげで、
私は落ち着いて晩酌ができたので、それはよかった。
ひと仕事終え、満足気に夫は冷えたパスタを頬張っている。

今日のことを、死ぬまで忘れないだろうなぁ。

喜ぶ夫を見ながら私は、バクバク食べて、ごくごく飲んだ。



今日で連続投稿100日になりました。
今回の記事も100にまつわるお話だったので、ご報告させて頂きます。
ありがとうございます。


その他の夫とのエピソードはこちらのマガジンにまとめています。


お読み頂き、本当に有難うございました!