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干し芋は風の味

 干し芋は風の味がする。
 自分で作るようになって、私は初めてそのことを知った。

 昨年末のこと。
 近所の野菜販売所で、サツマイモを売っていたので買ってみた。
 そのままふかして食べようか。いや、ちょっと気合を入れてスイートポテトにしようか。そんなことを考えていたとき、ふと、あのぺらりとした素朴な干し芋の姿が頭に浮かんだ。

 これまでも、何度か干し芋を作ってみようと思ったことはあるが、面倒な気がしてやらずじまいだった。今になってみれば、何故あんなに面倒に思っていたのか不思議なくらい、私は今、干し芋を作り続けている。

 サツマイモをふかして、

(この日は蒸し器を使用)

 皮をむいて、

(皮はふかしてからの方が剥きやすいです)
(切りやすくなるまで冷ましましょう)

 切って、干し網に並べる。

(こちらは輪切りの干し芋です)


 このシンプルな工程で、自家製のおやつができるなんて、考えてみれば驚きだ。

 ネットで検索してみると、サツマイモをふかすのに炊飯器を使っている方が多くいらした。
 私は普段は、母が使いこなせなかった、おさがりの電気圧力鍋を使ってサツマイモをふかしている。正直、電気を使う調理器具は、2011年の震災以降、あまり使わないようにしていたのだが、一度使い始めると、やはり便利なので頼りにしてしまう。もしかしたら、干し芋作りのハードルを下げてくれたのは、この電気圧力鍋かもしれない。

 干し芋と言えば、縦長のフォルムが一般的だが、私は輪切りにすることが多い。その方が切りやすいし、早く干し上がる。干し芋特有の、繊維に沿ってちぎることはできなくなるが、私は早く食べたいのだ。

 そんな、我慢のきかない性格が災いして、干し上がる頃には、網に乗っているサツマイモの量が、三分の一ほど減っている。干し具合を確認する度にひとつ、つまんでしまうからだ。

 触ればわかるはずなのに、触った指で、サツマイモをつまみ、そのまま口に運んでしまう。こういうとき、
 私ってダメだな。
 と本当に思う。そう思っても、つまみ食いがやめられないのだから、我ながら困ったものだ。

 寸前まで、風にさらされていた干し芋を口にすると、芋の風味だけではない、乾いた味わいが口に広がる。その味は、先程まで鼻をかすめていた風の匂いと同じだ。その風の味に、私はうっとり目を瞑る。
 やはり、つまみ食いはやめられない。

 良い塩梅にできあがった干し芋を見て、夫が言う。
「あれ? こんなに量少なかったっけ?」
 痛いところを突かれ、私は内心うろたえながらも、首をかしげる。

「いやぁ、干すと結構縮むものなんだねぇ」

 そんな大嘘を叩いた口で、私はまた干し芋をかじる。
 にゅっにゅっ。
 歯にまとわりつく食感がいい。

 寒い冬の干し芋は、あたたかいお茶にとてもよく合う。
 





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