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花丸恵の食べたり呑んだり作ったり

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自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん…
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#料理

カレーは救世主

 救いの手を差し伸べるのは、何も神だけではない。 「もう今日は何も作りたくない」 「何を作ったらいいかわからない」  家庭で調理を担当する者は、幾度となく、そういった困難に見舞われるものだ。  そんなとき、ふと、こんな言葉が思い浮かぶ。 「カレーでいいか」  夕飯作りに窮したとき、カレーに救われてきた人は多いはずだ。ありがたいことに、カレーが嫌いな人は少ない。 「また、カレー?」  最初はそう文句を言っていた家族も、食べ進めると何となくおかわりをしてしまい、気が付けば、な

海苔煎餅みたいな餅を焼こう!

 餅は、インスタント食品だ。  密かに、私はそう思っている。確かに、カップ麺ほどの気軽さはないけれど、それでも餅は、常温保存ができて、焼けばすぐ食べられる便利な食材だと思う。  餅といえば、やはり正月を連想してしまうが、正月だけでなく、忙しいさなか、小腹を満たすのに、餅は案外、最適な食品でもある。  我が家は春夏秋冬問わず、年中、餅を常備している。  休日、私がぼんやり寝過ごしたりすると、夫が餅で飢えをしのいでいたりするし、朝早い勤務のときも、餅を焼けば、それこそ、お茶漬

チリソースの羽衣

 そのお店は赤坂にあった。  絨毯が敷かれており、歩いても音が立つことはない。白い円卓は、隣が気にならない距離感で、卒なく配置されている。  耳をすませば、僅かばかりに話し声が聞こえ、目を凝らせばようやく、隣の円卓で何を食べているかがわかる。  隣は何を食う人ぞ。  気にはなるが、間違っても目を凝らしてはならない。ここは言わずと知れた高級中華のお店なのだ。  円卓の上には、海老のチリソースが盛られた白い皿が置かれている。  これは私が望んで注文した一皿だ。その様子は、こ

オムライスだけプロの味

 なぜだ。と思うことがある。  私は夫に留守を頼むとき、お昼にオムライスなどを作っておくことが多い。冷蔵庫に作り置きでき、レンジで温めて食べられるものがいいので、オムライスの他に、チャーハン、ナポリタン、焼きそば。こういったメニューが、留守を頼む食事の候補に挙がる。  大体、飽きないようにローテーションにしているのだが、夫はオムライスのときだけ、 「プロの味だった」  そんな大げさな感想を述べるのだ。しかもなぜか、某SNSのいいねボタンに負けないくらい、親指をグッと突き立

わたしの愛読書

 私の愛読書は、メニュー表である。 「何を馬鹿なことを」と思われるかもしれないが、メニュー表ほど、面白く、楽しい読み物はないのではないか、と私は思っている。 「メニュー表は、書籍ではない。第一、書店では売ってないではないか。そんなものを《愛読書》と言い切るなんて、君は恥ずかしくないのか?」  厳格な読書家の皆さんに、こんなお叱りを受けそうではあるが、それでも私は、メニュー表を愛読書と言いたいのだ。  なぜならば、私はメニュー表を愛しているからである。  しかし、いくらメ

鶏むね肉がゴリゴリしていた話

 私は、ガッカリしていた。  先日ネットで30分チキンなるレシピを見つけ、何だか美味しそうなので作ってみることにしたのだ。しかし、教えの通り調理してみた結果、まるで木のように固く、食感がゴリゴリの胸肉ステーキが出来上がってしまった。  一口食べて、歯に跳ね返ってくる肉の抵抗感に、何とも言えない恐れを感じた。どんな食べ物でも、一度人の口に入れば、徐々に嚙み砕かれ、己の血肉になるような感覚があるものだ。しかし、その日食べた胸肉は、ただただ抵抗しかしてこなかった。  私は胸肉

狂おしきラッキョの一日

私の夫は、若葉眩しい5月になると、ソワソワしはじめ、 何やら横で、モニョモニョ言い始める。 「ねぇねぇ、そろそろラッキョの季節だよ」 あぁ、そうねぇ、とツレナイ返事をしておく。 私がツレナイので、夫は「う~」と言いながら 口をにゅっと尖らせている。不満げなタコである。 その後、ネットを見ながら夫が、 砂地に生息するキツネ、 フェネックのように瞳をうるうるさせ、 「ねぇねぇ、鳥取でラッキョ販売の予約始まってるよ!」 と、自らの愛くるしさを最大限に発揮し、 夫は本格的な

ヘルシー花二郎開店 後編

                         前編はこちら 夫から「家で二郎が食べたい」と言い放たれた私は、 食材を調達しに行った。 もやし、キャベツ、にんにく、太い中華麺、豚骨醤油ラーメンのタレ、 そして忘れてはならない【豚】 本当の二郎では、ここで背油が登場するのだが、 夫が油のトッピングはいらないと言うので、省略している。 二郎に油は必須やろが!と荒ぶるジロリアンの皆さんの声が聞こえてきそうだが、 (ラーメン二郎愛好家の皆さんを世間ではジロリアンと呼ぶらしい

ヘルシー花二郎開店 前編

「ねぇ、モッコリ豚」 夫がそう言って私に話しかけた。 一瞬、耳を疑う。 確かに、私は夫より、だいぶ横幅に厚みがある。 贔屓目に見ても、決してスレンダーボディーではない。 しかし、だからといって20数年共に暮らしてきた伴侶に対して、 豚呼ばわりは、ちょいっと言葉がすぎるのではないか。 そんな呼ばれ方をして、「なあに」なんて ご機嫌な返事ができるほど私の心は広くない。 思わず 「おおん?」と下顎を突き出して夫を見た。アントニオ猪木降臨である。 その後の夫の発言によっては、私

スケルトンスパゲッティ

 どうしてこうなった……。  土曜日の昼下がり。  目の前で湯気が立っているスパゲッティを見ながら、小学1年生の私は固唾をのんだ。  数日前のことである。  私は母から、今度の土曜日のお昼ごはんは、ミートソーススパゲッティだと伝えられた。  ミートソーススパゲッティ。  赤いドロッとしたカレーみたいなタレがかかっていて、それを絡めながら食べるやつだ。私の知らないうちに、母は洋食屋へ修行にでも行っていたのだろうか。私の心は躍った。  今では、ミートソーススパゲッティは

おせちバンザイ【2021年のおせち】

お正月ですね。日本酒がうまい。うまい。 皆さん、新年、どんな物を召し上がっていますか? 私は、人が何を食べているか、物凄く気になる質なのだ。 だからクレコ905さんの記事で、おせちのお重を見て、 すごく嬉しくなってしまった。 よそのお宅のお手製おせちを見られるのは貴重だ。 この美味しそうなお重の引力に引き寄せられた私は、 今年のおせちの記録を残しておこう、と思い立った。 勢いがあるうちに、早速書いていこう! 手製のものは、 筑前煮、たたきごぼう、里芋煮の素揚げ、手綱

長門裕之のたたきごぼう

 長門裕之が亡くなって、来年の5月で10年になる。  晩年は、ドラマ相棒での閣下役での怪演が印象に強い。なかなかアクの強い役で、妙な後味の悪さを残していった記憶がある。  私にとって、長門裕之と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、たたきごぼうだ。  いくらアクが強い俳優だからといって、長門裕之がたたきごぼうの役をやったわけではない。最近では、香川照之がカマキリをやるくらいだから、そんな冗談を言っても、有り得ない話ではなさそうなのが困ってしまう。  もう20年近く前のことになる

丸っこいパンにビーフシチューが入ったやつ

 「あの、丸っこいパンにビーフシチューが入ったやつが食べたい」  夫が華麗にそう言い放ったのは、クリスマスを、あと3日に控えた昼過ぎのことである。  あの、丸っこいパンにビーフシチューが入ったやつ、とは、おそらく夫がテレビで見たであろう、箱根名物のシチューパンのことだ。  せっかくのクリスマス。一緒に箱根にでも繰り出して、シチューパンを食べようよ♪ という提案ではない。あの、シチューパンを、私に再現しろというのである。  あのね、私はシェフじゃなくて、主婦なの。そんな簡

酢にんじんは髪にいいらしい(個人差があります)

うまいうますぎる、でおなじみの我ら埼玉県では、 今、人参の収穫が最盛期を迎えている。 やはり、とれたてのにんじんというのはみずみずしさが違う。 これが4月を過ぎ、5月になると、もはやにんじんは あの頃のみずみずしいにんじんではなくなってしまう。 スーパーに行って、指がカサついて、ビニール袋がめくれない、 あの苛立ちと哀しみを、にんじんに感じることになる。 そんなことから、我が家で、にんじんが食卓に上がるのは 11月末から4月くらいまでの、約5ヶ月の間だ。 酢にんじんが髪にい