ひとりご飯の達人
このところ激務のせいで体がしんどくて、休日は近所で鍼に通う日々が続いている。
そんなこともあって、若い鍼師とあーだこーだと世間話をするぐらいには親しくなった。
先日、YouTubeの話題になった。彼が最近はまっているのが、おじさんがもくもくと唐揚げ弁当を食べている動画らしい。
ちょっと太ったおじさんがいっぱい食べている様子が、なんだかかわいらしくてつい見ちゃうんですよねえと言う。
確かに、誰かがただ食べているだけの動画が好評でかなりの再生回数を記録するものもあると聞く。
でも、ふと疑問がわいた。
たとえば食堂で、目の前に唐揚げ定食をもりもり食べる太ったおじさんに遭遇したとして、そのおじさんに同じような好意がわくのだろうか。
彼にその疑問をぶつけてみたら、少し、考えて、「たぶん、わかないでしょうねえ」と言った。
私も、自分のことは棚に上げて、そんなに食べるから太るんだよ、とか思ってしまいそうな気がする。
どうしてYouTubeだと、好意がわくんでしょうねえ、不思議ですねえ、そもそも、他人が食べているところをじっくり見るなんてないからですかねえ、などと言い合っていたときに思い出したことがある。
もうずーっと昔だけれど、月島でもんじゃを食べていたときのこと。
ふと少し離れた席に二十歳前後と思われる男の子がひとりでお好み焼きを焼いていた。
焼き上がったお好み焼きに、彼は丁寧にソースと塗り、マヨネーズをかけ、青のりをちらし、ていねいに切り分けた。
焼いている時から、彼がお好み焼きをほおばるまで、私は連れの肩越しに彼を見ていた。
あまりにもおいしそうに食べるから、目が離せなかったのだ。
笑みを浮かべながらお好み焼きを堪能している彼は、本当に楽しそうだった。
あの青年は、私にとってひとりご飯の理想形だ。
私は、小学生の頃からひとりでラーメン屋に入っていたぐらいなので、ひとりご飯歴は長い。
けれども未だにあの青年の域には達していない。
今日、ひとりご飯中、無意識にiPhoneをいじっていることに気づき、あの青年を思い出して軽くへこんだ。
簡単なようでいて、ひとり目の前の食べ物に集中し、ていねいに味わっていただく、というのは、少なくとも私にとってはなかなかムズカシイ。
コロナのこともあって、いつも以上にひとりご飯の機会が増えた今日この頃。
あの青年みたいに、ひとりご飯の達人になりたいものである。