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気の向くまま読書note はーばーらいと【ネタバレあり】

吉本ばななさんの新刊。
吉本ばななさんが大好きで、新刊が出ると必ず読んでいます。
もちろんnoteも購読中。
10代、20代の頃からわたしの肩に幾度となく救いの毛布をかけてくれている存在です。

一見普通じゃない境遇の、普通じゃない人たちの普段の生活の中で起こるあれこれ。
いびつな人たちが一生懸命生きる姿に、どこか自分をかさねてしまいます。
どの人たちも心からいとおしい。

【ネタバレあり】淡い初恋の話と思いきや

最初ばななさんのツイート(今だとポストというのかな?)で新刊の情報を見て、
10代の若者たちが繰り広げる、夏の終わりのような淡くほろ苦い初恋の話というイメージを持っていましたが。
ふたを開けてみて、びっくり。予想外のストーリーにいい感じで裏切られました。
いや、ばななさんの本だから、これくらいは予想の範疇なのかな???


主人公の女の子、ひばりの両親が信仰する新興宗教。
ひばりはそこから抜け出そうともがき、もう一人の主人公、つばさやつばさのお母さんのチカラを借りて、最後には脱出します。

宗教との決別は、同時に両親との決別でもあり。
大きすぎる喪失。そして回復。その先に見える希望。

淡いどころかなかなかヘビーな内容でした(汗)

つばさのお母さんがとても強くて、まっすぐで。
つばさがまっすぐな子に育っているのはきっとお母さんの在り方のおかげなんだな・・と思います。

どんなときでも毅然とまっすぐ生きるつばさのお母さんと、信仰どっぷりで娘がまるで見えていないひばりのお母さんの対比がせつなく・・・

だからと言って、ひばりのお母さんがひばりを愛していないか、
というと必ずしもそうではないのがまたやるせないです。
大事だから愛してるからこそ、娘もこの正しい世界の中で生きるのが一番の幸せだと心の底から信じているのでしょう。

でも、自分が正しいと思っていることが必ずしも他の人にとっても正しいわけではない。それが身近な家族・・・自分が産んだ子どもでも。

子どもはどうしてもある一定の年になるまで親の人生に巻き込まれてしまう。
否応なく・・・
その事実はとても濃く、場合によっては子どもの人生を振り回し、時にめちゃくちゃにし、人格形成に大きな影を落とすことになります。

つばさへの想いは恋だったのか、あたたかい家庭への憧憬だったのか?
どちらでもいいのかもしれません。
宗教や両親との決別の中で、二人は魂の同志のような、もっともっと深い絆を築いていく。
つばさのお母さんとともに。

実はわたしも・・・

宗教2世?3世?です。
祖父母や母がいわゆる手かざし宗教に入会し、長年割と熱心に活動していました。
なので、わたしも幼少の頃は病院に行くことはなく、不調はだいたい手かざしのお世話になっていました。
今思うと、それは病院行けよ・・・と思うようなことも多々でしたが(汗)

わたし自身は結婚してからはそこから距離を置き、祖父母も両親も亡き今は、完全に縁が切れました。
(ちなみに、祖父母も両親も最期は医療のお世話になりました)

自分の話はおいておいて。

ひばりの両親が信仰するみかんの会の様子、そこに属する人たちが
あまりにもその手かざしの人たちと似ていて、生々しく、その様子にぞっとするくらいでした。

化粧っ気のない顔、質素な出立ち。
独特の気配や顔つき、匂い。
そして目。

(宗教だけでなく、自然食を実践し田舎暮らしをするファミリーや精神世界どっぷりのコミュニティにもこういう雰囲気の人がいたな・・・)

この本の文章の間から、その手かざし宗教の人たちの匂いが漂ってくるようでした。それくらいリアルだった。

ひばりの両親が属していたみかんの会のそこにいる一人一人を見ると、決して悪い人ばかりじゃない。そこも異様にリアルでした。

大抵は素朴ないい人たちばかりだったりする。

それがまたいっそう切なく、この問題の根深さを感じるのです。

とにかく抜け出せてよかった。でも・・・


ひばりは宗教の世界から抜け出すことができました。
でも失ったものもあまりにも大きい。
両親との決別だけでなく、抜け出す直前には心と身体に大きな傷を負う事件もありました。


ひばりの新しい人生がどんなものになるのかも見当もつきません。
幼少の頃に植え付けられた価値観は、大人になってからもふと影を落とすことがあるでしょう。
わたしのように。

でも、ひばりはそのひたむきさと強さで、
きっと大きなつばさを広げてこれからを生きていく。

そんな希望を感じさせるラストだったのが救いです。

つばさが、つばさのお母さんがいてくれてよかった。

ただ、2世3世でも抜けたいと思いつつも手立てがなくどうしようもない人、
その価値観に染まりすぎて抜けたいという発想すら湧かない人もいるのが現実です。
組織によっては抜けたくても簡単に抜けれないところもあるでしょう。
それを思うとちょっと切ないのですが・・・

ひばりには、大空を舞い、自分の人生を自由にどこまでも広げてほしいです。

淡くはない、むしろ。だからこそ。


はーばーらいと。

わたしの若い頃の宗教体験ともリンクして思うところのある話でした。
淡くはない、むしろ重いテーマ(汗)

ただ、ひばりが解放されたとき、わたしの中でも何かひとつ
踏ん切りがついたのもまた事実。

わたしにとっても救いの物語になりました。






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