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ヨシコンヌフィクションヌ【詩と小説】

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ヨシコンヌが書くフィクションです。
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2017年5月の記事一覧

その後、俺たちは

その後、俺たちは

部屋の片付けをしていたら、日記が出てきた。

『28歳だ。

今の私の歳だ。

いつも何かと闘って生きてきたつもりでいたけど、そんなことはなかったようだ。

風邪を引いている。

毎年11月か12月には風邪を引く。

風邪を引くと色々なことを考える。

この靄のかかったような感覚はいつ拭えるのか、何が悪かったのか、そういえば、さっき返したメールの内容はどっか違うんじゃないか、本で読んだ「自分に

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雪月華抄 その壱【小説】

雪月華抄 その壱【小説】

2008年4月10日
画家・雪村月華(ゆきむらげっか)、
御年八十にて、逝去。

以下、
晩年の作品『櫻来坂』と共に添えられていた
遺言より抜粋。

『青子(せいこ)へ

本当は雪村青子様、と書こうかと思ったが、
孫のお前に今更、とも思ったので、
散々悩んだ挙句、いつもの呼び名で書くことにする。

翠(すい)が亡くなった日は、櫻が満開で、
夜、大森病院まで走ったあの櫻来坂では
櫻の花びらが狂っ

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【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の榛原信哉(ハイバラシンヤ)-

傘の下、

昔読んだ国語の読解テストの文章を

ぼんやりと思い出す榛原信哉である。

小さな女の子が森に迷い込んでしまって、

その森の奥には三人のおばあさんの魔女がいて、

透明なビニール袋にいっぱいの、薄いピンクの桜貝を詰めて売っていて、

そのサクサクなる音や色や見た目があまりに愛らしいので、

女の子が手元に持っているお小遣をはたいてそれを買って、

その後すぐにうちに帰る道を見つけて、

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【とある深夜のシンヤたち】ーとある深夜の谷崎伸哉(タニサキシンヤ)ー

『観音崎高等学校』と

金の箔押しをされた紺色の重厚なアルバムを

しげしげと眺めている

谷崎伸哉である。

頭には白いタオルを巻き、汚いベージュの短パンに黒いタンクトップを着ていて、タンクトップの汗じみがすごい。

狭い部屋の中は押し入れから出した物で溢れ返り、 その真ん中にある、人一人分座れるスペースにて胡座をかき、高校時代のアルバムに見入っている。

ようは、あれだ。

片付けが進まず、捨

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【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の中谷信也(ナカタニシンヤ)-

「嘘〜」
「嘘じゃないよ」
「じゃ、あたしの目、見てよ」
「見るよ」
「…あ、今逸らした~」
「逸らしてねぇよ~」

深夜のファミレスだ。
確かに深夜のファミレスだ、と
納得する中谷信也である。

中谷は、背後の席にいるカップルの会話を耳にしながら、iphoneにてメモ画面を開き、『カップル』という単語の前に『バ』と付けて打ってみる。

「天才だな、この単語を考えたヤツ」

中谷の呟きは宙を滑り、

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【とある深夜のシンヤたち】ーとある深夜の塩崎慎也(シオザキシンヤ)ー

「何故だ」

最初の問いはそれだ。

「何故、こんなことに…」

芝居がかった口調から、彼の衝撃度合いが把握出来る。

玄関を上がったところに、

見るも無惨な48分の1スケールのガンプラ。

バラバラであった。

三和土でがっくりと膝を付くは、

塩崎慎也27歳である。

帰宅時間は午前一時、風呂に入って寝るだけの予定であった。
黒縁の眼鏡を外して、
スーツの腕でぐっと涙を拭く背中は
さながら戦

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【とある深夜のシンヤたち】-とある深夜の向坂晋也(サキサカシンヤ)-

地下鉄の終電の車内で、

マスクをしているオッサンの数を

心中にてカウントするは、

向坂晋也(サキサカシンヤ)、25歳である。

ヴィレッジヴァンガードで手に入れた

黒く大きなヘッドフォンには、

両方の耳あてのど真ん中に白い星があり、

買った頃には「割とかっこよくね?」と思っていたものだが、

今となっては年の割にバカっぽく見える感じだ。

5年ものである。

しかも、い

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