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童話小説「ガルフの金魚日記24」

 ほたるさんがいなくなり、ぷくはしばらく眠っていたようです。
 ちゃぷんちゃぷんと、さざ波の音で目をさましました。
遠くの波打ちぎわが、青白く光っています。

 うちよせる波にあわせるようにして、あわい光が強くなったり、弱くなったり、浜辺いちめんが青白くかがやいています。
 こんな夜の光景(こうけい)を、ひとは幻想的(げんそうてき)というのでしょうか。

 人魚姫が15歳の誕生日の日に、海の底からあらわれたという夜も、こんな夜だったのではないでしょうか。岩の上に腰をかけた人魚姫のまわりを、夜光(やこう)虫(ちゅう)たちがよろこびに満(み)ち、ひかり、その美くしいすがたと歌声を、美の神はたたえていたのかもしれません。

そして、人魚姫は、船上で海をながめていた王子様に、つよくてふかい恋をしたそうです。

 ぷくは、恋をしたことがありません。ですから、人魚姫のこのときの、ほんとうのきもちはわかりません。
でも、ぷくは、冬さんや春さん、秋ちゃんや夏くんを愛しています。それに四季ばあさんも大好きです。

人魚姫が王子様を愛したのと、ぷくが冬さんや四季ばあさんを愛しているのとは、その愛に、ちがいがあるのでしょうか。
ぷくには、まったくわかりません。ぷーく。

人魚姫は、とても大好きだった王子様と、結(むす)ばれることはなかったそうです。そして、人魚姫は魔女(まじょ)との約束(やくそく)のとおり、海の泡(あわ)になって、死んでしまいます。
泡になった人魚姫は、どう思ったのでしょうか。ぷく。

それでも300年たつと、泡は魂(たましい)になれるそうです。魂になって、天国にいけるそうです。その天国で、王子様の魂と結ばれるのでしょうか。
人間と人魚、魂になれば、ひとつになって結ばれる。そうなればほんとうにいいのですが…。ぷくー。

人の恋や人魚の恋なんて、ぷくには、むつかしすぎてわかりません。
人間になろうとした人魚姫。口のきけない人になって、人魚姫はしあわせだったのでしょうか。
銀色の満月のもとで、その美しい声で、歌をうたっていたら、どうだったのでしょうか。

恋をしらないぷくは、人魚姫より、あんがい、しあわせなのかもしれません。
それに、三度三度の食事はいただけるし、目の前にはキラキラと美しく輝く星々、暗い波がしらに、夜光虫たちが、ぷくのこころをなぐさめ、いやしてくれます。

ここは星と夜光虫のかがやく、やわらかい風がふく、いちじくの実のなる島なのです。

     明日の金魚日記へつづく

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