人生のラスボス、認知症
◆脳にたまる異常たんぱく
パソコンも新しいうちはサクサク動きますが、
古くなると「ジジジジ」の音とともに、反応が遅くなります。
人間もそうでしょう。
若いお笑い芸人の漫才を聞いていると、「よくペラペラとしゃべれるな」と感心します。
そんなしゃべくり漫才をを聞いて笑っているお客さんも、
「よくあのスピードについていけるな」と驚きます。
加齢にともない、言葉が出なくなってきます。
「あれ」「それ」「あの~」が増えてきます。
人の名前が出てきません。
脳に異常なたんぱく質がたまって、脳細胞が障害され、
脳が萎縮するのが「アルツハイマー型認知症」です。
では、認知症でない人は、脳に異常たんぱくはたまっていないのでしょうか。
程度の差こそあれ、加齢により、脳には異常な老廃物がたまっているに違いありません。
◆人類の闘いの歴史
人間は有史以来、生存をかけて闘ってきました。
長生きするに従い、闘う相手が変わります。
その変遷をまとめました。
★肉食獣
ライオン、トラ、チーター、マンモスなどの野生の動物と闘ってきました。
罠を仕掛けたり、槍や弓矢などの道具を使って勝利を収めました。
★細菌やウイルス
コレラ、ペスト、マラリア、痘瘡、インフルエンザ、結核などの細菌やウイルスによって、長い間人間は苦しめられてきました。
抗生剤、抗ウイルス薬、ワクチンにより、勝利を収めたと言ってもいいのではないでしょうか。
★脳卒中
長生きすると血管がもろくなります。
脳の血管が切れるのがくも膜下出血や脳出血です。
日本では長らく死因のトップでしたが、たんぱく質を食事に取り入れるようになり、血管に弾力が生まれ、脳卒中は減ってきました。
★心筋梗塞
飽食の先進国の死因のトップが心筋梗塞です。
生活習慣病によって引き起こされます。
★がん
一難去ってまた一難。生活習慣病を克服した人に待っているのが「がん」です。
2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなります。
近年、日本の死因のトップです。
★認知症
脳卒中、心筋梗塞、がんなど、あらゆる病気をくぐり抜け、
生き抜いた人が遭遇するのが認知症です。
ゲームでいうラスボス(最後に待ち受けているボスキャラ)のようなものです。
経済と医療に恵まれた、福祉国家の人たちの前に立ちはだかる怪物が認知症なのです。
◆5年後に認知症になる
認知症は、なってしまうと回復が難しい病気であり、予防が大切です。
正常と認知症の間、グレーゾーンに位置するのが「軽度認知障害(MCI)」です。
いわば、認知症の予備軍と言えるでしょう。
軽度認知障害とは、認知機能の異常はあるが、日常生活に支障のない状態をいいます。
軽度認知障害(MCI)になると、5年後には認知症になると言われますが、
アメリカの研究により詳しいことが分かってきました。
軽度認知障害(MCI)の600人の5年後を調査したところ、
5割が認知症になり、
4割が軽度認知障害(MCI)のままであり、
1割は正常に戻っていました。
◆早期発見、早期予防
早期発見は医療の原則ですが、認知症の場合、
いかに軽度認知障害(MCI)の段階で発見し、予防するかが大切です。
認知症発症の25年前から、異常たんぱくの脳への蓄積は始まっていると言われています。
認知症対策に、早すぎるということはないでしょう。
参考文献
青柳由則:『認知症は早期発見で予防できる』, 文藝春秋,2016
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