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#1 パリの養子縁組事情

フランスでの養子縁組前回のエントリーからずいぶん時間がたってしまいました。2022年8月現在、私と夫はパリ市で特別養子縁組を希望して待機している状況です。

私の生育歴、夫との出会い、卵子提供を含む不妊治療の経緯などはこちらにまとめています→ https://note.com/hanakaneko/m/m11f461354ad4

2019年秋、妹の卵子の提供を受けての体外受精でも妊娠に至らなかった私たちは、養子について本格的に検討しようと心に決めました。当時はまだ受精卵も残っていたので、いよいよダメだった時のプランBとして、情報収集をはじめておいて損はないかな、という心境でした。

特別養子縁組を希望する人は、公的機関から養親になるための審査を受けるところから始まります。これは国内で養子を迎える際も、海外から養子を迎える際にも必要になります。日本でも児童相談所もしくは民間の斡旋機関から審査を受けるところから始まるのと同じ要領です。居住する地域ごとに管轄が分かれており、私たちの場合だとパリ市が定期的に行っている2回の説明会に出席するところがスタートです。

メールで日程を問い合わせると、日時の案内があり、2019年末にふたりで仕事の半休を取って出席しました。ざっと40人くらい集まっていたように思います。ぱっと見渡した感じ、自分たちと同じような30代・40代と思われるヘテロカップルのほかゲイカップル、一人で参加している女性など様々です。

最初の説明会では、3時間程度かけて、普通養子縁組と特別養子縁組の違いなどの法的枠組み、養親申請のプロセス、国内養子縁組と海外養子縁組について説明があります。

特にソーシャルワーカーからは、特別養子縁組は、親を必要とするこどもの福祉のための制度であり、親になりたいエゴを満たすための制度ではないということを強調されます。この日に一番印象に残ったことのひとつで、言われてた時に、はっとさせられました。本当にその通りです。

特別養子縁組について、私が自分の立ち位置を考え始めたのも、間違いなくこの日からだったと思います。自分のためにこどもが存在するわけではなく、自分がこどものために存在する、ということをぼんやり輪郭を持ってきました。


パリの国内養子縁組

説明会は続き、パリ市がまとめている統計資料が配られました。当時は2018年度の統計で説明を受けましたが、手元にさらに新しい2020年度の統計が手元にあるので、それをもとに紹介すると次のようなことがいえます。

・パリでは養親審査を受けた待機者が486世帯(カップル・シングル合計)
・2020年に新たに養親を希望して審査の申請をしたのは181世帯。うち7割がカップル、3割がシングル
・181世帯のうち、年齢別では35-40歳が一番多く3割ほど、続いて40-45歳が2割ほど
・申請をした世帯の約9割は審査が通り、1割弱は申請が通らない。

私たちは当時35歳のヘテロカップルで最も平均的なプロフィールだったと思います。それにしても申請者の3割がシングルというのは、シングルだと養親を希望する資格さえ満たせない日本とは大きく違うなとシンプルに驚いた覚えがあります。話が脱線してしまうのでまた別の機会に譲りたいと思いますが、女性が自立して経済力があることや、皮肉にも離婚率が高く、すでに社会的にシングルマザーが多いということが背景にあるのだろうなと感じました。

さて、私たちはパリ市の管轄のもと、養子縁組をすることになるのでパリで毎年何人の乳児が養子になるのか。自分達が養子を受け入れられる可能性はどれくらいあるのか、それがその日一番聞きたいことでした。

パンフレットにある統計では、パリ市で養親の審査を通って待機しているのが486世帯。それに対し、養子となる乳児は年間16件(2018年)と、こどもの数のほうが圧倒的に少ないという現実に直面しました。本来ならば、それだけこどもを手放す必要のある母親が少ないということなので、喜ばしいことなのですが、私は暗い気持ちになりました。夫の方も、厳しいな、という面持ちです。

ソーシャルワーカーからは、健康状態に特段問題のない1歳未満の乳児のように、希望する人が多いプロフィールでは、年齢が若く、収入源が一つしかないシングルよりは経済的に安定しやすいカップル、そして待機リストに待っている期間が長いほう(平均的に3年以上)が優先的に考慮されやすいという説明がありました。これを聞いた多くの高齢カップル(ここでは主に40代以上)やシングルの女性は、自分たちが乳児の養親に選ばれる可能性はほぼないと感じます。

当時の私は35歳でまだ若いし、世帯収入も問題にはならないだろうから可能性はあるだろう、と比較的楽観的に感じていました。夫のほうは、待機期間が3年以上と聞いて、「長すぎる」と感じたようですが、私は「そのうち来るなら別にすぐでなくても」と、比較的おおらかに受け止めていました。

ちなみに、パリでの乳児養子縁組は2019年は11件、2020年は10件とさらに少なくなっています。ソーシャルワーカーとの最近のやりとりでは、待機期間は4年から5年となっているそうですが、これを最初に聞いていたら、やはりすごく長いと感じたと思います。

10分の1に減った海外養子縁組

国内の養子縁組の件数が少ないのはわかったものの、海外養子縁組という手があります。フランスの場合は、過去に積極的に海外養子縁組を受け入れてきた経緯があり、私や夫も含め、説明会の参加者は「希望すれば、こどもを受け入れられる」という楽観的なイメージをもって最初の説明会に参加しています。

ところが、実際は、パリで2010年に195件あった海外養子縁組は、2018年に21件とほぼ10分の1に。1993年のハーグ国際養子縁組条約により、養子を出す国が、国内で養子縁組をすることが優先されたリ、そもそも経済状況がよくなり必要性が低下していたり、という事情が背景にあります。

フランス全体でみても、2005年のピーク時にフランス全体で年間4000件を超えていた海外養子縁組も、2010年には年間2000件、さらに2015年には年間1000件を下回り、コロナ直前の2019年では年間421件にまで減っています。

国内養子縁組と比較すると、2005年から2016年の平均が年間895件、直近で見つかる2019年は706件なので完全に国内養子縁組と海外養子縁組の件数が逆転しています。

その他に海外養子縁組については以下のようなことを知りました。

・一番多いのは1〜3才児。手続きに時間がかかるため。
・2010年以降はハーグ条約により、手続きにより時間がかかるため、1歳未満の乳児は事実上存在しない
・国際養子縁組の5割が1〜3歳児
・国際養親組には、AFA (L’Agence française de l’adoption)という公的機関やOAA (organisemes autorisés à l’adoption)と呼ばれる民間の認可団体を通して行われることが多く、例外的に弁護士などを通した個人での養子縁組もある

最初の説明会を終えて

説明会が終わる頃にはいろんな情報で頭がパンクしそうでした。

会場を出ると既にお昼ご飯の時間だったので、夫とランチをしながらのブリーフィング。一言で感想をまとめると、思ってたほど簡単ではないんだな、ということ。新生児が期待できる国内養子縁組は3年以上かかりそうだし、競争率も高い。比較的、養子の受け入れの可能性が高いと思っていた海外養子縁組のイメージは過去のもので、今はそんなに簡単にはいかない。

その日の結論は、それならば、考えながらでも行動に移していこうということで意見が一致しました。待機時間が長いのならば、情報収集や考えを深めるのは早いにこしたことはない、ということで、数日後には、2回目の説明会も希望する旨を伝えて2019年を終えました。


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