畳と埃とハイライト
ばあちゃんが入れてくれる紅茶が好きだった。
香りのいいアールグレイに砂糖とミルクをたっぷり入れて、クマの柄が描かれたティーカップでそれを飲んだ。
あの香りを嗅ぐと、とても優しい気持ちになれる。
21歳になった今、ピースライトのヴァージニア葉の甘いバニラのような香りを嗅ぐと、あの紅茶を思い出す。
ばあちゃんはもう死んでしまったけど、俺はまだあの優しさを覚えてる。
こっちは木枯らしが吹き始めたよ。
風が冷たいこんな夜はあの優しさが懐かしくなる。
まだまだ生きていかないとね。
そっちに行った時にとびきり面白い話を抱えて行くからさ。
先祖全員を腹抱えて笑わせてやるから待っててくれ。
じい様とは会う度に酒飲んでるからさ、きっとあの世で俺と飲まなかったって愚痴を言わないと思うんだよね。
孫ともっと飲みたかったって、もういい十分飲んだって言いそうな気がする。
じいちゃんとばあちゃんの家の匂いは、畳のいぐさの香りと埃を被った本の香りと、じいちゃんの吸うハイライトの香りがする。
それが懐かしくて、消えることが怖くて寂しい。
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