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3. 医大生、卒業間際に別れるあるある

 初期研修医時の同期の田中くんは大学生の間、長年お付き合いしていた彼女と別れたのちに我らが勤務先のツナマヨ病院(仮名)にやってきた。

 卒業間近に別れるのは医学部では結構あるあるである。特に地方大学では、地元の大学は難しそうだがここなら勝ち目があると踏んだ都会出身の子が多い。その中にはご家庭が開業医であることも多々ある。そもそも開業の有無に関わらず、大学の六年間(医学部は六年制である)を過ごしたからと言ってそのまま住み着くには、地方大学にはいささか魅力が足りない。また、大学合格の際のプログラムによっては、地域枠といってその後数年間ここの地域で働いてねと確約されている場合もある。

 医学部で浪人はめずらしくなく、ただでさえ六年間も通うので大学卒業の頃には20代後半に片足をつっこんだり両足をつっこんだりする。よって初期研修先の目星をつける大学6年の夏は、お付き合いしている人とその先も共にしていくかどうか、立ち止まって見直す機会となるのは分かってもらえるだろうか。各々が地元に帰りたい気持ちが一緒にいる気持ちを上回った場合(そんな単純な話だけではないだろうが)、涙の解散となるのです。

 我らが同期の田中くんもこのタイミングで恋人とそれぞれの道を歩むことになったクチであるが、彼女さんからフラれた側のちょっと珍しいタイプである。たいがいは彼女の方は結婚を考えているが、彼氏側が決心がつかず、ついていっても結婚しないのなら私も地元に帰るのでさようなら、といったパターンが多い。残念な田中くんである。



 わたしはというと、田舎出身だったのでそのまま地元の大学の医学部に入学した。本音を言えば都会の大学でシティガールを満喫したかったが、ありとあらゆる模試でD、E判定だったので諦めた。地方の医学部に特徴的なのだと思うが、推薦枠というセンター試験と面接だけで受かる枠がある。地方は医者不足である。大学卒業後も残って医師として働いてほしい大学側は地元生を合格させたいので生まれた制度だと推測する。

 都会には行きたかったが浪人する気力も意欲もなかったわたしは、推薦枠を利用して合格した。わたしには当時お付き合いしている人がいたが、大学5年生の頃からの交際であったため、あんまり検討する暇もなく将来を見据えるデッドラインの大学6年の夏を迎えてしまった。正直彼とこの先どうなるかはわからないなと思ったが、わたしにとっては大学受験では叶わなかった都会に出るチャンスだったので、都会寄りの彼の地元の病院を受けることにした。同期や職場に恵まれたし、彼とも今のところなんだかんだ仲良くやっているため、良い選択だったなと思っている。地元に残ってほしいであろう推薦枠をひとつ私に使ってしまったので、それは少し申し訳ないが。


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