色々リセットしたかったらインド以外にもあるよ
ただいま、塀の中で暮らしています。
と言っても、罪を犯したわけではなく、犬の保護施設に泊まり込みで1週間滞在しています。
車がないと移動できない、周りには工場も畑も何もない、原っぱだけが広がる中にポツンとある施設です。
道には誰も歩いておらず、道路脇にはプラスチックゴミが散乱しているような、心温まらない風景の地方です(悪口を言うつもりはないのですが本当に原っぱとゴミだけなので)。
インターネットやメディア、レストランやショップという娯楽から離れていると、「現実」とはなんだろう、という揺らぎが生じます。
曜日感覚も薄まるし、身なりも最低限で良くなり、食欲も失せて、色々どうでも良くなります。
生きるってとてもシンプルなことだったんだな、と思えます。
無料でダイエットも筋トレもできます。瞑想もヨガもし放題です。
動物と触れ合うので、人間の煩わしい思考からは離れて、心が癒されます。
犬たちは私に向かって、
生産性を上げろとか効率的に動けとか、
老後どうするの?
未来のこと考えてる?
とか言ってきません。
欧米の人たちが、人生に行き詰まったり、リセットやリフレッシュしたくなったら、インドにメディテーション(瞑想)に行くと言うのを聞いたことがあります。
ちょっと古い例ですがビートルズとか、スティーブ・ジョブズとかインドにトレーニングに行っていたとか。西洋文化とは違う考え方を仙人みたいなおじいさんから聴いて、座禅を組んで朝も夕も座り続けるイメージです。
近年でも、数日間か数週間か、メディテーションのプログラムと寝床や食事を提供する場所を予約して、携帯電話禁止で、ひたすらメディテーションすると言うのを聞いたことがあります。お金を払って自分の現実世界から離れにいくのですね。
昔は、ヒッピーのムーブメントとか、ヨガをする人やスピリチュアルに興味がある人が行くものだったと、私は理解していますが、今はデジタル・デトックスしたい若者なんかが、ウェルビーイングとかメンタルヘルスとかそういう目的で行くのかもしれません。
知り合いの弟は、インドのそういう場所に滞在して、数日で逃げ出したと聞きました。なんとなくで行ってみると、思ったよりもキツくてトンズラすると言うのはありそうな話だなと想像します。
私はインドとは関係なく、犬が何百頭も保護されているスペイン南部の施設に泊まり込んで、朝からひたすら犬のフンを拾いまくって掃除をしています。ボランティアです。
インドの思想とは全く関係ありませんが、だけど、どこか、メディテーションと繋がってるような気がしたのです。
なぜなら、俗世間から離れて、何時間も照りつける日差しの下で、うんこを拾い続ける行為は、何も考える余裕がすっかり奪われ、無の境地になります。
一心に身体を動かし、頭は空っぽになります。
なんだったら、人間も犬もうんこも乾いた赤茶色の土も、楽観的な青空も、強すぎる太陽も、みんなそこにあるだけで同じというか、たいした差なんて何もないように思えてきます。
ひたすら手を動かして、目の前のうんこを拾う。
誰かから報酬を与えられるわけでもなく、犬も「ありがとう」と言ってウインクしてくれるわけでもなく、拾っている横で新たにうんこを落としていたりします。
ただ、拾うのです。また数時間後にはうんこが生み出され、明日の朝には同じことを再び繰り返します。
ここにいる犬たちは全てレースや狩猟の道具として使われ、捨てられた命です。手足がない犬や病気の犬も見ます。
人間の業の深さを目の当たりにしながら、ひたすら掃除します。
何時間も続けて掃除した後は、全身が疲れて、何もする気が起きず、水分補給と食事を済ませたら、休息します。
込み入った食事を作る気力もないので、火を使わない野菜や果物だけで軽く食べて、十分満たされます。ご飯や汁物もなく、肉や魚を焼いたりするいつもの食事と比べると随分質素ですが、物足りなさはありません。
刺激がもっとたくさんあるいつもの暮らしでは、運動量は明らかに今より少ないのに、今より食べていました。あの食欲はどこから来ていたのだろう。
簡素な食事でダイエットもできます。何キロもあるうんこが乗ったチリトリを上げ下げするので、筋トレもできます。ここに来れば全身の筋力を使います。太ってる暇も座りすぎてる暇もありません。お金を払ってジムに行かなくても無料でトレーニングできます。
キラキラしたことばかりではなく、思うようにならないこともあります。
寝室のベッドは2段ベッドで座ると頭をぶつけるので、身を横たえて休息するか、部屋から出て共有部分の椅子に座るしかありません。
シャワールームは2つのうち1つしか稼働しておらず、ボランティアの同志たちと譲り合いながら使います。
なぜかはわからないけど、シャワーヘッドの小さな穴たちから水が出ず、ホースのようにドボドボと水が出るので、勝手に打たせ湯状態になります。それで汗を流します。
洗濯機は扉が壊れていて、洗濯が終わった後にナイフでこじ開けないと、洗ったものが取り出せません。
しかし、いずれにせよ、そんなことは、どうでも良くなります。
もちろんそれらがホテルのように快適であれば幸せでしょうが、あるだけありがたい、という境地になり細かいことは求めなくなります。汗が流せるだけありがたい。疲れた腕で手洗いしないで済むだけありがたい。
便利なものも、交通機関も、カフェもショップも周りにはないけど、別にいい。ネットで動画を見る気力も、家族と電話する気力もない。でもずっとではなくて、私は数日後には「現実」に戻っていくのだから。
とりあえず今は身体を休めて、また明日の朝、日が昇る頃に、犬のうんこを拾いに行くのです。
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