きみの回路を解体する権利を

 アイドルを愛するきみの丸い瞳。

 じゅわっと発色する、なんて謳われるアイシャドウより、ずっと輝きに満ちた蛍光が映る。上気する頰。話すきみの後れ毛が愛おしい。

 現場できみをきみ足らしめるのは、ツツジ色のピアスときれいに巻かれた髪。きみがあんまり鮮やかな赤紫色を愛するようになって、インナーカラーに挿す。その一部始終とともに、あたしにとってのツツジ色はきみになった。

 きみが言うところでは、あたしとデートするときはおめかしの必要はないらしい。そういう傲慢さは普段のきみらしいところ。あたしは、そう振る舞う対象なれたことを喜ぶべきなのかもしれないから、嫉妬につま先を伸ばすのは止した。

 あの子とあたしじゃ、立っているステージがあまりに違う。

 「みて」

 あの子の横できみが笑う写真。手書きの文字が語る愛情に、あたしはあの子の覚悟を見る。誠実は物差しにすらならない。

 でも、それをあたしも欲しいとはならない。


 あたしは誰かの深淵がすき。鉄のコートで見えない回路、小説がはんだ付けした彼の中だけで繋がる連想。溢れる色彩、落とす音色、食んだ言葉の先に少しだけ映る彼の宇宙があたしはすき。

 彼が心の中に飼っている宇宙を反芻して、近づきたいともがく。きみがあの子にするみたいに振る舞っても、それはあたしの「スキ」の形じゃない。


 「今日も世界一かわいい」

 輝きを愛するきみの感情を、すべてなぞることはできない。あたしには分からない。きみが全身で可愛いと叫ぶアイドルを、あたしは、きみの瞳を介してしか可愛いと呟けない。でも、きみが見てるあの子が可愛いのは間違いない。否定などどこにもない。

 あたしはきみの、きみがあの子を愛する宇宙を心待ちにしてる。きみがあの子を愛して癒す心の淵を、あたしだけが抱きしめられる。ありあまる喜び。

 きみを介してあの子を、あの子を介してきみを。


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