見出し画像

怠惰な人と、完璧な人

私は、怠惰が主成分の人間だ。
もし、食事と娯楽、また基本的な設備(風呂やトイレ)を用意した出られない部屋に1週間閉じ込められたとしたら、喜んで引きこもるだろう。
サブスクの動画視聴サービスと読み放題の漫画さえあれば、こち亀と笑ぅせえるすまんのエンドレスリピートで1週間は余裕で時間を潰せる。

私の怠惰自慢はこれに止まらない。
見た目通り、繊細かつ低血圧なので(低血圧は本当)朝はすこぶる寝起きが悪く、起こされてもなかなか起きれない。
そうはいっても、社会人としての自覚はきちんと備わっているので、自分自身のタイムマネジメントくらい自分でできる。そっとしておいてほしい。
もとより、自分のペースを乱されることが苦手なのだ。
自室を掃除をするときも四角い場所を丸く掃くが、職場ではその限りではないので上手く社会に順応できていると思えばまあ良しなのである。

関東に来てから3回ほど引っ越しをした経験もあるが、引っ越しのたびに友人や同期を召喚し、「汝、我を助けよ」とオリバンダーの店で買った杖のごとくスマホを一振りした。
すると、彼女たちは呆れたように顔をしかめつつ
「セクタム・テンプラ!」「キルフェ・ボン・ボン!」と食べたいものを要求する代わりに、私の手となり足となり動いてくれた。
※私を含め、スリザリンの生徒は身内に優しい。

さて。こうした怠惰な人間の周りには、一見、怠惰な人ばかりが集まるような気がするが、引っ越しの例からも分かるように答えはノーなのである。
私と深い仲の友人たちは、みな完璧主義で良く言えばプライドが高く、悪く言えば一筋縄ではいかぬ猛者ばかりなのだ。

三年前まで一緒に同居していた友人は、大手企業の商社に勤めているにも関わらず、つねに何かの資格取得(英検1級、国際通訳案内士、司法書士)を目指して参考書を開いており、余暇の時間はテニスや100キロウォーキングに明け暮れるなど余白のない時間を過ごしていた。彼女は自分のことを「完璧主義でプライドが高い」と自認しており、よく口にも出している。
※一体、そのバイタリティがどこから来るのか、地球が終わるまでかかっても解明できないだろう。
そんな完璧主義な友人と、怠惰な人間が一緒に暮らして上手くいくのかと周囲に心配されたが、これも意外なことになんとかなった。最初に決めたルールを双方がきちんと守り、お互いのテリトリーや生活リズムに口を出さないということを守った結果、ほぼ喧嘩なくして同居生活は幕を閉じた。
そして、そんな彼女は現在「はなこ(わたしのあだ名)にそっくり」と少し嬉しそうに、そして時には唇をへの字に曲げて、話題に上がるご主人と幸せな新婚生活を過ごしている。

なお、いま一緒に暮らしている母、千鶴子も完璧主義で朝が早い。
今までの私なら、休日7時に起こされると「は?今何時だと思ってんの?」と目ヤニがついた状態で、低い声を漏らしドアをぴしゃっと閉める不機嫌モードまっしぐらだっただろう。
けれど、そこは母親の圧が勝利を収めるのである。平日において、我が家の家事負担8割を担ってくれている千鶴子に文句は言えないので休日だろうが7時に叩き起こされても30分をかけてベッドからのそのそ起き上がるのである。
そんな千鶴子も、「私は完璧主義だからよくないのよね」と時にはしょんぼりした様子で、またあるときには勝ち誇ったように私に話す。

完璧主義の人間が、「私って完璧主義なんだよね」と自ら告げるときには少しの恥じらいと、勝ち誇ったような笑顔がいささか鼻に突く。
これからは「私もいっしょ!怠惰主義なんだよね~」と少し恥ずかしそうに、朝ドラのヒロインのような爽やかな笑顔で発信していこうと思う。

この記事が参加している募集

新生活をたのしく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?